第69話
「フユトさん、こちらもどうぞ。」
次に箸で持ち上げられたのは、タコさんウィンナーかな?
なんか色がおかしいけど、覚悟を決めよう。
「う、うん。」
緊張しているのか、箸が震えながら僕の口へ向かってくる。
口の中に侵入。
「……。」
ん?
ものすごく柔らかい。
「どうですか?タコさんニンジンです!」
何でニンジンやねん。
「か、篝さん?」
「はい?」
「料理は得意?」
「はい!今も勉強中の身ですが、とても大好きですよ!」
さっきまでの顔が嘘のように笑顔で溢れる。
篝さん、料理はすごく好きなんだなぁ。
「次は何にしましょうか?」
「篝さんも何か食べなよ?」
「そ、そうですね。では遠慮なくいただきます。」
残り一個の厚焼きを頬張る。
何気に関節キスなんじゃないか、これ?
「おいしい。」
マジかよ……。
「篝さんって甘党?」
「え?よく分かりましたね!」
「う、うん。味がそっち寄りだから。」
「フユトさんは甘いのお嫌いですか?」
「いや、うん。好きだよ。」
「あ、ありがとうございます。」
口の中が甘いし、何か心の中も甘い。
これが至福というのか?
「それ、イチゴ?」
デザートっぽい感じでイチゴが二個入っているのに気付く。
「はい。イチゴ好きなんです。」
「へぇ。」
「はい!」
あれ?ひとつどうですかっていう流れが来ない。
僕もイチゴ好きだから食べたいなぁ。
「フユトさん、目を閉じてもらえますか?」
「え?どうしたの急に?」
「お願いします!」
「う、うん。」
目を閉じる。
……。
ぴと。
唇に何かが当たる。
え!?
僕は驚いて目を開く。
「あはは。びっくりしましたか?」
唇に触れたのはイチゴだった。
「なんだ、イチゴかぁ。篝さんだと思ってびっくりしたよ。」
「残念でしたか?」
「うん。ものすごく。」
「でも、イチゴおいしい。」
どこかの高級イチゴだろうか?こんなに甘くて美味しいイチゴは初めてかもしれない。
「フユトさん、お口にイチゴが残っていますよ?」
「え?どこ?」
「ここです。」
「!!!」
篝さんが身を乗り出し、口の横あたりを舌で舐める。
「え!?えっ!?」
篝さんは真っ赤になりながら俯く。
「な、なんだか今日の篝さんは大胆……だね?」
ドキドキが治まらない。
「ご、ごめんなさい。い、一週間ぶりなので、その、嬉しくてつい。」
篝さんは恋愛には積極的だ。
「ご迷惑……でしたか?」
「いや、そんなことないよ!う、嬉しい!」
物凄く甘いひとときなんじゃないのか。
でも、この流れ、キスできるんじゃないか?
ますます僕の鼓動は高まる。
「か、篝さん!」
「えっ!?は、はい!」
僕は篝さんの両肩に手を置く。
「……。」
篝さんが顔を真っ赤にしながら僕を見上げている。
可愛い。
さっきまでの胸騒ぎはもうない。
変わりに心臓の鼓動が高まったまま治まらない。
スイッチが入ったってこういう事なのかな?
「フユト……さん?」
「……。」
ちょっと距離を縮める。
すると篝さんはようやく僕のしたいことを察したのか瞳を閉じる。
「フユトさん、いいよ。」
たまに聞く敬語の抜けた言葉が、すごく胸を締め付ける。
僕はそっと篝さんと唇を重ねる。
「んっ。」
篝さんが声を漏らす。
その声も艶っぽくて可愛い。
そっと離れる。
「フユトさん……好き。」
瞳を開けながら、うっとりした顔で僕を見上げていた。
「僕も、好きだ。」
「すごく……切ない気持ちです。」
そういうと恥ずかしそうに顔を逸らし、弁当箱を片付け、ハンカチで包みはじめた。
「遅くなったけどごちそうさま。」
「おそまつさまでした。」
僕たちはベンチから立ち上がる。
「空が澄んでいますね。」
「そうだね。爽やかな陽気って感じだね。」
「はい。」
「では、ちょっと時間をずらしてクラスルームへ戻りましょう。」
「うん。」
確かに一緒に屋上を出てクラスルームに戻ると周囲に怪しまれる。
「フユトさんから先に戻っていてください。私は五分ほど時間を置いてから戻ります。」
「分かった。またクラスルームで。」
校舎に戻ろうとすると、入口にまだ従者の子が立っていた。
僕の事を感情の分からない目で見つめるが、何も言わない。
僕も気付かないふりをして階段を降りる。
「フユト!」
クラスルームの前でモトキと再会する。
「どうだった?」
「うん、大丈夫だった。」
「そうか。よかったな。」
「お、おう。」
僕は照れながらクラスルームへ入る。そのあとにモトキが続く。
するとモトキの左手にミネラルウォーターのペットボトルを持っていることに気付く。
「モトキごめん、それ、一口くれないか?」
「いいけど?」
とりあえず口の中の甘さを中和する。
「どうした?辛いものでも食べたか?」
「いや、ものすごく甘いものを食べたんだよ。」
「篝ちゃんを食べたのか?」
「ばっ!バカ野郎!違うわ!」
僕はさっきのキスを思い出す。
「顔……赤いぞお前。」
「だ、黙れよ!」
「困難を乗り越えて、より一層甘くなったか。」
「うるせーよ。」
僕はモトキにミネラルウオーターを返すと、急いで自分の机へと戻った。




