第66話
翌日。
久しぶりの学園で、朝に多くの人が挨拶を交わしてくれた。
私の隣が廻ではなく葵さんに変わっていることは誰も気にしない。
むしろ、私に気を使って触れないようにしてくれていた。
葵さんはというと、しっかり自己紹介もこなしクラスメイトとも軽く雑談していた。
「葵さん、少し外してもらえますか?」
「かしこまりました。」
葵さんは素直に一歩下がり、それ以上はついてこない。でも、すぐに対処できる位置には待機していた。
フユトさんとモトキさんがクラスルームへ入って来た。
私はフユトさんのもとへ平静を装って向かう。
本当は走っていきたいくらい早く話しをしたい。
「フユトさん、モトキさん、おはようございます。」
「お、おはよう篝さん。」
「おはよー、篝ちゃん。」
モトキさんは何かを察したのか立ち止まったフユトさんを気にせず自分の席へと歩いて行く。
「……フユトさん、お変わりないですか?」
「うん。一週間ぶりだね。落ち着いた?」
「はい。」
すると、フユトさんは私の顔を覗き込む。
「ねぇ、なにかあった?」
「ふぇっ!?」
顔が近すぎて変な声が出る。私は慌てて周りを見渡す。
よかった。誰も聞いてない。
「ど、どういうことですか!?」
「何か思いつめた顔をしてたから。」
思いつめているのかどうかは分からないけど、フランチェスカさんとの取引ですごく心の中で引っかかりを感じている。
その事なのかは分からない。
でも、私の変化に気付いてくれたフユトさんが愛おしく感じた。
「ありがとうございます。」
「何かあれば話してよ。」
「はい。」
ドンっ!
「あ、ごめん。」
クラスメイトが私の背中にぶつかり、私はフユトさんのほうへよろける。
「きゃっ!」
「おっと!」
フユトさんが抱きとめる形になる。
「ふぇっ!?えっ!?」
フユトさんに抱き留められた私は急激に顔が熱くなるのを感じる。
心の準備もないまま抱き留められたので、色々と気になってしまう。
「ご、ごめんなさい!」
「い、いや!大丈夫!?」
すると、葵さんがさっきぶつかった生徒のほうへ向かっていた。
「篝さまへの無礼、その程度の謝罪では許されません。」
鋭い剣幕の葵さん。私は慌てて止めに向かう。
「葵さん!やめて!」
「……次はありませんからね。」
生徒を睨み付け、無言で一礼し篝さんの斜め後ろへ待機する。
「あの、ごめんなさい。私は気にしていませんので。」
「いや、その、本当にごめんなさい。以後気を付けます。」
生徒は恐怖に怯えたような顔で足早に私の前から去る。
私は感じた。
今までの経験上、この態度は以後関わり合いを持ちたくないという意思表示だ。
きっと私はあの人ともう友達にはなれないと思う。
「葵さん、今の行動は今後控えるようにして。」
「かしこまりました。」
「篝さん、大丈夫?」
「え、ええ。ごめんなさい。」
「篝さま、この方は?」
「え!?」
どうしよう。一番困る質問がきてしまった。
「彼氏です。」
「ふぇっ!?」
フユトさんが即答してしまう。
「え!?」
私の驚いた顔に困惑の色を見せるフユトさん。早く弁解しないと。
「彼氏?彼氏でございますか?ふっ。」
鼻で笑う葵さん。
「なんだよ?」
「あなたみたいな平民が、篝さまの彼氏?冗談は夢の中だけにしてくださいますか?」
「葵さん!」
「篝さま、この方のお言葉は本当ですか?」
「えっ!?」
実はお父様から葵さんにはこの関係を話さないように言われている。
ここは心が痛いけど否定するしかない。
お父様の言葉は絶対なのだ。
「お、お友達です……。」
フユトさんの悲痛な顔を見てしまった私は、心に痛みを感じて俯く。
ごめんなさい。
「篝さん……?」
「あの、お昼に屋上でお話しがあります。」
「……。」
フユトさんは返事をしてくれない。
「ずっと、待ってますから。」
私はそれだけ言うと席に戻る。
私は気付いてしまった。
廻がどれだけ私のことを配慮してくれていたのかということと、葵さんという存在が邪魔であるということ。
隣に座った葵さん。
「葵さん。学園では許可なく私以外と雑談しないで。」
「かしこまりました。」
「交友関係に関わる会話程度なら許可するわ。」
「ありがとうございます。」
ポーカーフェイスの葵さん。
「それと、お昼休みは一人にして。」
「それはできません。」
「一人にしなさい。」
私はちょっと怒りがこみあげてきて強い口調で繰り返す。
「できません。」
私を睨み付ける。
「なんですか、その態度は!」
周囲が私と葵さんに注目していた。
「私は篝さまの護衛も兼ねています。その仕えを放棄できません。」
「放棄しなさい。」
「できません。それを命じられるのは秋伸さまだけです。」
「しなさい!」
「できません。」
「言い方を変えるわ。お昼だけは同席を遠慮しなさい。」
「かしこまりました。」
この子は機械だろうか?
「はぁ。」
私は溜息をつく。
【篝ちゃん、会話の途中で溜息は感心しなわね。】
溜息をつく度に注意してくれた廻。
やっぱり、私の側には廻以上の適任者なんていない。
私は……。
私は、もう一度、廻を取り戻したい。
ふとそんな思いがこみ上げて来ていた。




