第62話
もしかして、篝さんって実は水無月の子じゃないかもしれない?
そんな事が頭をよぎり一瞬鼓動が高鳴る。
「篝さん。」
「なんですか?」
「今は多くは聞かないから、これだけは教えてほしい。」
僕は深呼吸する。
「篝さんは……本当に水無月家の子供なの?」
「……はい。」
静かに返事をした。
「だったら、どうしてさっきあんな事を言ったの?」
【私が本当の子供ではなかったら】
「ごめんなさい。それは、自分自身がそうだったらいいなって思っていただけです。」
「私が水無月と名乗る度に、人は皆私に頭を下げ、取り繕い、何も逆らわない。そんな対人関係ばかりの身分です。」
「……ご令嬢故の?」
「はい。どのお家も、水無月と友好であればあるほど繁栄すると考えてのことでしょう。」
「フユトさん。」
「ん?」
「フユトさんのご両親はどんな方なんですか?」
「……僕の両親はこの世にもういないんだ。僕が幼いころに事故で。でも、両親が残してくれた遺産で今は生活している感じかな。父親のお兄さんがすごく良い人で、僕の保護者を引き受けてくれているんだ。」
「ごめんなさい、無神経なことを聞きました。」
「気にしないで。僕自身も親の顔なんて曖昧でそこまで覚えていないくらい小さかったから。」
「ご両親の遺産ってすごいですね。」
「そうだね。人生過ごせるんじゃないかっていうくらい生活面で困ることは実はないよ。」
「ふふ、あまりそういうお話はすべきじゃないですよ?いつかお金目的で悪い人が寄ってきてしまいますよ?」
「これを話したのはモトキと篝さんだけだよ。」
「!」
篝さんの顔が赤くなる。
「……ありがとうございます。」
消え入りそうな声でお礼を言うと、篝さんは耳まで赤くして俯いてしまった。
「篝さん。」
「なんですか?」
「僕たちの壁は決して小さくはないけど、いつかは一緒になれるかな?」
「え!?」
あ!何気なく聞いてしまったけど、まるでこれプロポーズじゃないか!
「い、いや!深い意味はなくて!」
「それに関してひとつお願いがあるのですが。」
「なに?」
「もし、私たちが最終的に結ばれなくて、それでもお互いが好きで好きで仕方なかった時、その時は私の事を……。」
今、何て言った?
どうしてそんな事を言ったのか。
それだとまるで、僕たちは決して結ばれない運命にあるかのようじゃないか。
「私とフユトさんが結ばれるには、超えるべき壁が大きいです。」
「篝さんは、僕と一緒にその壁に立ち向かう気持ちはある?」
「……もちろんあります。」
「言い方を変えようか?篝さんに勝算はある?」
「え?」
「勝算。」
「……今はありません。でも、お父様の反応を見ると希望が全くないわけではないと思っています。」
「そう……。」
「私は今まで廻と一緒だったからこそ乗り越えられてきた事がたくさんありました。でも、廻はもうすぐ私の前からいなくなってしまう。」
「怖いんです。これからの未来が。」
「僕が……僕が篝さんの未来を…守りたい。」
「相坂さんのようにはできないけど、力になりたいんだ。」
「……ありがとうございます。」
「今更だけど、僕は相坂さんのことも救いたいとまだ心のどこかで思っているんだ。」
「何か案でもあるのですか?」
驚いたように篝さんが僕の顔を見上げる。
「……今それを考えているんだ。ごめん。」
「いいえ。最後まであきらめないその気持ち、私は尊敬します。」
「そんな立派なものじゃないさ。」
「非日常的なことが多すぎて、私、少し困惑しています。」
「僕もそうだよ。」
「フユトさん。私も、廻が助かる方法がなにかないか考えたいです。」
「僕、ノープランだよ?」
「残り10時間弱ですが、今この時間が考えるチャンスだと思うんです。廻とモトキさんたちとまた一緒になればきっとこういう会話をする機会はありません。」
「……とは言ってもなぁ。」
情報ゼロ。
ましてやこの地下から出ることはできない。
何も打つ手はないような気がする。
でも、無くなった記憶が何かを知っているかもしれない。
僕は必死に過去を振り返ることにした。




