第63話
お互い、いろいろと振り返りつつ時間は1時間経過しようとしていた。
コンコン。
僕たちの思考を遮るノックが鳴り響く。
「どうぞ。」
「ご、ごめんね。もういいわよ。」
相坂さんが顔だけドアから出しながら恥ずかしそうに声をかける。
「廻、ついに大人になっちゃったのね。」
「ちょっ!やめてよ!バカ!」
僕たちはそのまま前室へ戻る。
「……。」
気まずすぎないか?
「早坂。」
「え!?あ、はいっ!」
気まずさを感じている最中にいきなり呼ばれたから敬語になってしまった。
「なんで敬語なのよ。」
「ご、ごめん。」
僕たちは今、応接間風のソファに腰かけている。
僕は無意識にベッドの方に視線をずらす。
「え?」
不意に視界が真っ暗になる。
「ダメ。」
篝さんが僕の目を塞いだようだ。
「フユトさん。人と話しているときは相手の目を見なさいって教えられませんでしたか?」
「ごめん。気を付ける。それで、何?」
「……これからも篝ちゃんのこと、よろしく頼むわね。」
「……うん。」
「早坂じゃ頼りないけど、今はあんたしか守ってあげられる人がいないんだから。」
「善処します。」
すると相坂さんは僕の目の前に立ち、深くお辞儀した。
それは、とても深い深いお辞儀だった。
「よろしくお願いします。」
「ちょっ!やめてよ!顔を上げてよ!」
それでも相坂さんは顔をあげない。
「もう、私は篝ちゃんの側に居てあげられない。だから、私は早坂が篝ちゃんの側にずっといるって信じてる。」
「相坂さん、安心して。その約束は絶対守る。僕はずっと篝さんの側にいる。」
「安心したわ。任せたわよ、早坂。」
「うん。」
「篝ちゃん。」
「……。」
篝さんは相坂さんの顔を見つめるが声が出ないようだ。
「私はもういなくなっちゃうけど、絶対幸せになってね。私の分まで。」
「廻……嫌だよ。」
子供のように相坂さんに抱き付く篝さん。
相坂さんが優しくその頭を撫でる。
「ごめんね。でも、人の人生ってそれぞれ長さが違うから。私が一足先にゴールしちゃうだけ。」
「私は認めない。こんなの認めない。」
篝さんは周りも気にせずといった感じで泣きじゃくる。
「めぐりぃ!めぐりぃぃ!!」
「……篝ちゃんは泣き虫ね。ずっとずっと昔から。」
「泣き虫だもん!廻が居てくれないと、私はずっと弱虫だもん!」
「これからは早坂が居てくれる。篝ちゃんは早坂と一緒に、ずっとずっと楽しい毎日を過ごすのよ。」
「……。」
「篝ちゃん、私はいつでもあなたの心の中にいるわ。大丈夫。」
不意に相坂さんがソファに倒れる。
「相坂!」
モトキが抱き起す。
「……何も見えない。みんな……どこ?」
「!!」
僕は時計を見る。まだあと9時間は時間があるはずだけど様子がおかしい。
もしかして、もう最期かもしれない。
きっとそう感じたのは僕だけじゃない。
「嫌……。生きたい。私は……まだ生きたい。嫌。」
「廻!!」
篝さんが相坂さんの手を握る。
「温かい。篝……そこに居るの?」
「居るよ廻!しっかりして!まだダメ!!!」
「か、がり……。」
「ダメぇぇぇぇぇぇ!!!」
「相坂!!ダメだ!生きろ!!」
モトキも泣きじゃくりながら必死に相坂さんを抱きしめる。
「……相馬。居る?」
「ああ、ここに居る。」
そっともう片方の手を握るモトキ。
「……ご…めんね。ずっとそばに……居られなくて。」
「気にするな……。これからは……俺の心の中に居ろ。」
「あり…がとう。」
「早坂…。」
「僕も居るよ!」
「早坂……頼んだ…わよ。」
「約束するよ。」
僕は涙をこらえながら力強く答える。
「廻!嫌!!ダメ!」
「……はは。」
不意に笑う相坂さん。
「だい……すきな…みんなに……みとられて…し…あ……わ……。」
「……。」
「めぐ…り?」
篝さんが力なく声をかける。
相坂さんは微笑みながら瞳を閉じ、そして最期を迎えた。
相坂さんを強く抱きしめるモトキ。
そして篝さんは相坂さんの胸の中に顔をうずめ、その体を抱きしめた。
「めぐり……。」
彼女の時間は、残り9時間にして消えた。




