第61話
「早坂?」
相坂さんが不思議そうに僕を見る。
「え?」
「さてはあんた、私と相馬のアレを見て自分もやりたくなっちゃった?」
「な、何言ってんだよ!こんな時に!」
そう言って、僕はとんでもない失言をしたことに気付いた。
❝こんな時に❞
こんな時だからこそ、普段の会話が必要じゃないのか?
そんなことを自分自身に問いかける。
「あ?やりたいんだ?」
相坂さんは気にしてない感じで会話を進める。きっと、楽しい会話を望んでいるのだろう。
だから必死に会話を繋いでいるのかもしれない。
「……全くないと言ったら…その、嘘になるかもしれないけど。」
「フユト、お前、成長したな。」
「お前に言われたくねぇよ。」
バシっと軽くモトキの肩を叩くと、相坂さんと篝さんも微笑んだ。
「篝ちゃんは早坂と実際どこまでいったの?」
「ふぇっ!?」
いきなり自分にふられると想像してなかったんだろう。篝さんは変な声で反応し、顔が赤くなっていく。
「もしくは、どこまでいきたいと考えているの?」
レポーターのようにマイクを向ける素振りをする。
「いえ、その、フ、フユトさんとはその……お歳相応のお付き合いをしなさいと言われていますので…。」
なんで相坂さんに敬語になったんだ篝さん。
「歳相応の付き合いって何よ?」
「え?うん。なんだろうね?」
僕に急にふるなと心の中でつっこむ。
「め、廻はどこまでいきたのよ!」
照れ隠しか、今度は篝さんが反撃を開始する。
「わ、私!?えっと、その、まぁ、最期なわけだし、女としての幸せを感じるまではいきたいかな?」
『え?』
篝さんとモトキの声がハモる。
「相坂…マジ?」
動揺しているモトキ。
「え?どういうこと?」
状況を理解していないのは僕だけのようだ。
「フ、フユトさん、隣の部屋に戻りましょうか?少しお二人きりにしてあげましょう。」
「え?う、うん。」
僕はよく分からないまま第二ルームへと移動する。
「廻、二人きりの時間を終わらせたら第二ルームに声をかけて。」
顔を赤らめたまま、無言で頷く相坂さん。
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「ふう。」
篝さんがソファに腰かける。照明は相変わらず間接のままだ。
「疲れた?」
「いえ。平気です。ちょっと今の気持ちが複雑すぎて困惑しています。」
「それは僕も同じだよ。」
楽しい時間を過ごしているけど、確実に悲しい現実へと進んでいる。
「フユトさん、お隣にどうぞ?」
ソファの隣をポンポンと軽く叩く。
「そ、それじゃお言葉に甘えて。」
篝さんの隣に腰かける。
篝さんの香りがふわっと舞う。
「フユトさん。」
「な、なに?」
「アイリさんって何者なんでしょうね?実は、ここに来るまでに大分記憶が無いというか名前は知っているけどこれまでの接点が思い出せなくて。」
「僕と一緒だ。」
「フユトさんもですか?」
「うん。なんかぽっかりとそこだけ記憶がなくて、アイリさんっていう存在は知っているけどこれまで何があったとかは思い出せないんだ。」
「……。」
しばしの無言。
「ところで篝さん。」
「なんでしょうか?」
「相坂さんが言ってた女の幸せまでいくってなに?」
「ふぇっ!?」
変な声を出したということは恥ずかしい事なのだろうか?
「ほ、本気で聞いているのですか?それとも、からかってます?」
「え?僕は本当に分からないんだけど?」
「え!?い、いえ!いいんです、フユトさんは知らなくていいですよ!」
焦ったように俯く篝さん。
「僕だけ仲間はずれか……。」
俯いたフリをして上目遣いに篝さんの顔を見る。
「……もう!一度しか言いませんからね。」
恥ずかしそうにそっぽを向きながら一言だけ発した。
「男女の営みです。」
「……。」
……。
「女の子すべてがそうとは言い切りませんが、大好きな人とひとつになるというのは……幸せな事なんですよ。」
「ごめん。」
「あ、謝らないでください、恥ずかしいです。」
僕、なんてことを聞いてしまったんだ。
後悔先に立たず。
僕は時計を見る。
あと10時間になろうとしている。
「フユトさん。」
「なに?」
「私の名前を言ってください。」
「え?どうしたの急に?」
「言ってみてください。」
「水無月篝。」
「この街は代々水無月家が治めていると言っても過言ではありません。故に、この街に水無月という苗字は一家しか存在しません。」
「それは前に聞いたことがあるよ。」
「ではもし、街の外から水無月という苗字の人が来たらどうなるのでしょう?」
「そうなると、誰が本当の水無月になるか分からないから、その人は追放されるんじゃないかな?」
「……水無月秋伸と水無月花音。それがこの街の統治者です。」
何が言いたいんだろう?
「その二人から生まれた子供。つまり、新たにこの街に舞い降りた子供。それが水無月篝。」
「!!」
「でも、お母様は幼少期に病気で子供の産めない体になっていたと聞きます。」
「え?」
「お母様が奇跡の女性と言われているのは子供のできな体なのに子供を授ったという事を指しています。」
「でも、もし……。」
「もし、私が本当の子供ではなかったとしたら、この街の外から来た人間ということになります。」
「つまり、それが事実だったとして、それを知った人たちは私を街から追放しようとするでしょう。」
「篝さんは花音さんの娘……なんだよね?」
「はい。」
「どうしてそんな話をしたの?」
「ナイショです。いつか話します。」
急に笑顔になり、話しを打ち切る。
篝さんは篝さんなりに何かを気にしているということなんだろう。でも、今は、知らないままにしておこうと思う。
だって、
今まで見たことのないほどの悲しい微笑みを、僕は見てしまったから。




