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第60話

【視点変更:早坂冬登はやさかふゆと


プルル、プルル。


電子音が病室内に鳴り響いていることに気付きながら目が覚める。


「あれ?かがりさん?」


いない。車いすも無い。


「電話?」


電子音のほうに目を向けると、内線と書かれた電話機が置かれていて着信している。


「あれ?体が痛くない。自由に動ける。」


なんだろう?体が軽い。腹部の痛みもなく動ける。


僕はまだ夢の中だろうか?


とりあえず電話に出よう。


「……はい。」


何と言っていいのか分からず、とりあえず返事だけする。


「フユトさん!?私です!篝です!」


「篝さん!?どうしたの!?」


「今から事情を説明しますので、モトキさんも呼んでいただけませんか?」




篝さんから事情を説明され、時間はまだ早朝だったけどモトキに電話をかける。


寝ぼけた声で電話に出たモトキは、すぐにこちらに向かってくれるらしい。


僕はとりあえず病室で待機してモトキを待つ。



コンコン。


律儀にノックの音。


「モトキか?開いてるぞ。」


「おっすフユト。何か大変な事になってるな。」


「とりあえず地下に向かおう。」


途中、アイリさんに遭遇する危険もあるのであえてまっすぐに向かわずに迂回したり遠回りをしながら地下へ向かう。


「なあフユト、なんか現実じゃないみたいな展開だな。」


「そうだな。僕もびっくりしてるよ。」


「……相坂あいさかの話、本当なのか?」


モトキは少し暗いトーンで再確認してくる。


「……僕も詳しくはまだ聞いてないから分からない。でも、残り12時間を切っているって本人が言ってるらしい。」


「……そうか。」


「なぁ、モトキ。」


「ん?」


「相坂さんの事、好きなんだろ?」


僕はまっすぐにモトキを見つめる。冗談で言っているわけじゃないって伝えたくて。


「……。言わせるなよ。」


微かに聞こえる声でそう答える。


でも、好きな人があと12時間でいなくなってしまう。そんな現実、残酷じゃないか?


どう話を進めていいのか分からない。


「早く向かおう。」


モトキもこれ以上は聞かないでくれと言わんばかりに先を急ぐ。





■■■■■■





「お待ちしていました。」


篝さんが出迎え、ドアをロックする。ドアの前にはセキュリティの人が待機していて、外部からの侵入者が来ないように見張ってくれているらしい。


篝さんは手配が早かった。


「よ、よう相坂。」


モトキが気まずそうにぎこちなく挨拶をする。


「なによ相馬そうま。動揺してるのがばればれよ。」


「うっせーな。いいんだよ。」


照れくさそうに頭をかく。


「フユトさん。」


僕の裾をクイクイと引く篝さん。


「私たちはお邪魔なので隣の第二ルームに移動しましょう?」


この部屋にはさらに奥に部屋がある。僕と篝さんは二人でそっちに移動する。


部屋に入ると篝さんは間接照明に切り替える。


「え?」


「ごめんなさい。今は、こういう優しい明かりが欲しいんです。」


「う、うん。」


そういうと、篝さんは僕に抱き付いてくる。


体が震えている。きっと相坂さんの人生の時間が残り少ないことを辛く感じているんだと思う。


僕は強く篝さんを抱きしめる。


「フユトさん……私…怖いです。めぐりは本当にいなくなってしまうのでしょうか?」


「……。」


言葉が出てこない。僕は代わりに優しく頭を撫でる。


「心が、痛いよ。嫌だよ。」


独り言のようにつぶやく。そして嗚咽。


「……12時間後、どうなるのか僕には分からない。でも、相坂さんに精一杯の気持ちを伝えればいいんじゃないかな?」


「そう…ですね。」


篝さんが僕から離れる。



ガシャン。



前室から物音。僕と篝さんは顔を見合わせたあと、急いで前室へ戻る。



「どうしたモトキ!!」


「えっ!!?」


僕と篝さんは硬直する。


相坂さんとモトキが抱き合ってキスしてる……。


「なんていうタイミングで出てきたんだ僕らは……。」


「……め、廻。大胆ね。」


いや、篝さんも人の事言えないでしょって言いたかったけど心のうちにとどめる。


「ちょっ!?」


相坂さんとモトキが急いで離れる。


「なんか、その、ごめん。」


「早坂は本当に空気の読めない男ね。」


相坂さんが溜息をつく。


「あれ?人と話しているときは溜息をつくなって言ってたのは誰だっけ?」


「……うるさいわよ。ふふっ。」


いつもなら怒るのに、優しい笑みだった。


「お前らだって、もう済ませたんだろ?」


モトキが暗い話題は避けようとしているのか、僕らの恋愛事情に口を挟む。


「い、いえ!まだ、私たちは学生ですのでそういうのはまだ早いというか、その!」


ものすごく一人で顔を赤くして動揺する篝さん。何を想像しているんだろう?


「ちょっ!篝ちゃん、もうそこまで!?」


「えっ!?」


「キスの事を聞いたんだけど、俺。」


モトキも発言の意図を察し、呆れた感じで視線をはずした。


「あっ!」


ボンッと効果音が聞こえそうなくらい顔を赤くする篝さん。僕の背中に隠れてしまう。可愛い。


「ふふっ。なんか、久しぶりのやり取りね。」


「そうだな。」


「そうだね。」


僕たちは軽く笑いあう。


すると、相坂さんが少し苦しそうな仕草を見せる。


「廻!?」


それに気付いた篝さんが駆け寄って背中をさする。


「へ、平気。まだ平気よ。」


「無理するなよ相坂。ちょっと横になったほうがいい。」


モトキが相坂さんをお姫様だっこしてベッドに寝かせる。


「ご、ごめん。」


恥ずかしそうに素直にモトキの言う事を聞く相坂さん。


「残り、11時間をもう少しで切る……という感じかしらね。」


額に汗を浮かべる相坂さん。


「廻、アイリさんとの意識はまだ切れているの?」


「ええ。イヤリングを壊したらリンクが完全に切れたと思う。アイリの記憶を私も見れないの。」


砂時計のイヤリングの事か?そういえば両方付けていない。


「……怖いわ。」


相坂さんがふと漏らした弱音。


「廻らしくないわよ。」


篝さんは呆れたような言い方で、相坂さんの手を握る。


「だって…私も女の子なのよ。ふふっ。」


「ねぇ、篝ちゃん。」


「何?」


「私……死にたくない。どうして…私。」


片手で目を隠しながら嗚咽を漏らす相坂さん。


「…廻。」


悲痛な顔で見つめる篝さんの瞳には、すでに零れ落ちそうなくらいの涙が浮かんでいた。


僕にできる事は何もないのか?


あるわけない。


でも、僕は何かないか必死に頭を巡らせていた。

©2017,2018,2019 すたじお・こりす

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