第59話
目を覚ます。
ここは、病院の地下室?
院内事故を想定して作られた、要人を守る為の保護シェルター的な役割を果たす部屋だ。
ここも過去にお父様に教えられていて、万一の時はここに避難するように言われていた。
「目が覚めた?」
「相坂ちゃん……。」
「安心して。今の私は、操られていない本当の私だから……。」
少し苦しそうな顔を浮かべる相坂ちゃん。
「生きていたの?」
アイリさんの話をここで本当かどうか確かめてみる。
「いいえ。私はこの砂時計のイヤリングがないともう生きられないようになってしまったわ。」
「……本当だったんだね。」
「ええ。それに、この砂時計の砂がすべて落ちたら、私は完全にフランチェスカの操り人形になってしまうわ。」
「そんな…。」
「でも、私は篝ちゃんを守りたい。だから、私が操られているふりをしてここに連れてきたの。フランチェスカとアイリには病院の高台に用意した公園管理事務所の廃墟に監禁してくるっていう話になっているの。」
「相坂ちゃん……どうして?」
「私は……篝ちゃんが事故に遭った日、アイリに殺されたのよ。今はこのイヤリングで生きているけど、本当は死んだのよ。」
「……。」
「だから、こうして生きていて自分の本当の意識があるうちに私は自分にけじめをつけたいの。」
そして相坂ちゃんはイヤリングを両耳から外し、地面に投げつけて粉砕する。
「相坂ちゃん!?」
それが無くなったら、あなたは…。
「ううっ。」
苦しそうにうずくまる相坂ちゃん。私は相坂ちゃんを抱きとめる。
「どうして!?」
「どうして……ですって?そんなの決まってるじゃない。私は……篝ちゃんが大好きなの。守りたいの。」
「でも!それを失くしてしまったら!」
「いいの。このイヤリングを失ってから12時間は生きることができるわ。でもタイムリミットは12時間きっかり。前にそれを聞いたから確かよ。」
「篝ちゃん……。ひどい目に遭わせてしまってごめんね。この先どんなことがあっても、篝ちゃんは絶対幸せになって。」
「待ってよ!廻が居なくなったら、私はどうしたらいいの!?」
「ふふっ。やっと廻って呼んでくれた。」
相坂ちゃんが抱きしめる腕に力を込める。
「生きてよ……生きてよ廻。」
「私の記憶はアイリと繋がっているわ。今は自分自身の意識を保っているから、アイリにはバレていない。安心して。」
「……。」
「篝ちゃん。今回のすべての元凶はフランチェスカよ。あの人が本物の創造主なの。」
「フランチェスカさんが……。」
「そうよ。昔は花音様と秋伸様を救った善良な創造主だったけど、どうしてこんな悪に染まったのかは分からない。でも、今後あの人に関わっちゃだめ。」
「廻……。私はどうしたらいいの?」
「あなたには、早坂が居るわ。あいつがきっとあなたを守ってくれる。」
「篝ちゃんに謝らないといけないことがあるわ。」
「何?」
「早坂を刺したの……私なの。言い訳はしたくないけど、アイリの意識に操られていたのよ。」
「!!」
「安心して。私には創造主の力も少なからず授けられているから、早坂の怪我は治癒しておいた。」
「……ありがとう。」
「お礼を言われるなんて意外ね。私は、あなたにもっと責められると思ってた。」
「操られていたんでしょう?そんな人を怒らないよ、私。」
涙があふれる。
「でも、悔しいな。」
相坂ちゃんの涙が私の肩に落ちる。
「もっと篝ちゃんの側に居たかったよ……。ずっと一緒に人生を歩んで、篝ちゃんが誰と結婚しようと、お目付け役としてずっと人生を共に歩んでいくんだってずっと思ってた。」
「…ずっと、私に付いてきてよ、廻!」
「ふふっ、わがまま言わないでよ。」
相坂ちゃんは私から離れ、緊急コールキーを私に差し出す。
「これは私が持たされている分よ。これを使って、ここが見つかりそうになったらすぐコールしなさい。」
「廻は……これからどうするの?」
「残りの時間、ずっとあなたとここにいるわ。」
「モトキさんには……いいの?」
「……な、なによ、こんな時に。」
「こんな時だからだよ!ここにモトキさんも呼ぼうよ!」
「呼んで……どうするのよ。」
「気持ち……伝えないの?」
「…気付いていたのね。」
「ええ。」
「でも、いいの。私は、相馬に気持ちを伝えてもあいつを困らせてしまう。だって、私の命はあと12時間しかないんだから。」
「……伝えてよ。」
「え?」
好きな人がいるからこそ分かる感覚。
伝えないと、伝わらないから。だから、私は力強く、命令口調で言い放つ。
「モトキさんに気持ちを伝えなさい、廻。」
「……それは、命令?」
「そうよ。令嬢命令よ。拒否は許されないわ。」
「命令なら仕方ないわね。」
「素直じゃないね、廻。」
「篝ちゃんはいつも素直ね。」
再び苦しみだす相坂ちゃん。
「くっ……。」
「大丈夫!?」
「はぁ、はぁ、へ、平気。」
「この部屋に、フユトさんとモトキさんを呼ぼう?」
私はこの部屋に内線電話があることに気が付き、提案する。
内線でフユトさんの病室で連絡を取ることができれば、モトキさんを連れてこの部屋に来ることができる。
「どうやって呼ぶのよ?この部屋からは出さないわ。まだ危険だもの。」
「大丈夫。内線がある。」
私は内線電話を指さす。
「へぇ。篝ちゃんにしてはやるじゃない。」
「へへ。見直した?」
「はいはい。」
相坂ちゃんの命はあと12時間。
この12時間にありったけの想いをぶつけたい。だから、誰の邪魔も入らないでほしい。
そんなことを祈りながら、私はフユトさんの部屋の内線電話番号をプッシュした。
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