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第55話

【視点変更:早坂冬登はやさかふゆと



目が覚めると朝になっていた。


「何時間寝たんだよ僕……。」


そのくらい疲れていたということにしておこう。


僕は引き出しからIDカードを取り出し、胸ポケットにしまう。


「おはようかがりさん……。」


このIDカードで篝さんと繋がっていられるという自惚れ感がこのあと僕を地獄の底に突き落とそうとは。


「はぁ。今日は何時に会いに行こうかな。」


「ひゃっはー!!」


ガッツポーズをした瞬間、ガシャンと入口でトレイが落ちる音がした。


「!!!!!」


「あんた……気持ち悪いわ。」


「あ、相坂あいさかさんっ!?」


いつから!?というかなんで扉が開いていたのか……。


相坂さんはトレイを拾うとベッド脇に来てテーブルへそっと置く。


「そのトレイは?」


「早坂の朝食。私が食べたから食器を返しに行ったのよ。」


「……僕の朝食は?」


「無いわ。」


即答。


「それで相坂さん、今日は僕に何か用事が?」


「そうね。ちょっと探し物をしていてね。」


きっとイヤリングだろう。さりげなく僕は相坂さんの耳に視線を移す。


すると、相坂さんが僕の両腕をベッドに押し付ける。


「あら?探し物が何なのか分かってるじゃない?」


しまった。


「もう言わなくても分かるわよね?早坂が持ってるって今自分で証明したものね?」


「……なんのことやら。」


「拒否するのね?」


「拒否?僕は何も知らない。」


『フユトさん。』


「えっ!?」


今確かに篝さんの声が……。


『フユトさん。めぐりの探し物を出してあげてください。』


「えっ!?なんで相坂さんの口から?」


「仕方ないわね。やりたくなかったけど、強硬手段に出るわ。」


すると相坂さんは僕の額に自分の額をくっつける。


瞬間。


激しい頭痛。誰かが僕の心の中に入ってくるような嫌悪感。


僕の記憶に、相坂さんが入ってくる。


記憶の隅々まで全部見られている感覚に陥る。否、全部見られている。それだけ確信が持てる嫌悪感だった。


「やめろっ!!!」


僕は相坂さんをベッドから振り落とす。


「ッ……。」


床に倒れた相坂さんは、ゆっくりと起き上がる。


「へぇ。篝ちゃんとキスしたんだ?」


「やめろ!」


「どうだった?気持ちよかった?本当に男ってそういう事は早いのね。」


「やめてくれ。」


「取引をしましょう?」


「取引?」


「ええ。私が欲しいのは砂時計の形をしたイヤリングよ。そこの引き出しに入っているんでしょう?見たわよ。」


「僕の記憶を全部見たのか?」


「ええ。と言っても二日分くらいだけど。」


「……それで取引って何と?」


「このIDカード。」


「いつの間に!」


僕の胸ポケットからIDカードが無くなっていた。


「ごめんなさいね。あなたと篝ちゃんの繋がりをあっさり取り上げちゃって。」


「悪女。」


「なんとでも言いなさい。私は……。」


すると急に眩暈でも起こしたかのように床に倒れそうになる。


「相坂さん?」


少し呼吸が荒い。


また僕を騙そうとしているのだろうか?


「さ、さぁ、はや…く……決めなさい。」


本当に苦しそうだ。急にどうしたんだろう?


「……分かった。」


僕は引き出しから砂時計のイヤリングを差し出す。


「…はな……しが……早いじゃない。」


イヤリングを僕の手から奪うように取り上げると、耳にそれを付ける。


「………。」


そして少し相坂さんの様子が回復する。


「IDカードを早く返してくれ。」


「……。」


相坂さんは差し出さない。


「ふふっ。」


「おい!早く返せ!」


僕はベッドから立ち上がる。


ふざけるなよ。返さない気か!


相坂さんは胸の中にIDカードを隠してしまう。


「取れるものなら取ってみなさい。」


僕は篝さんの為なら今は何でもできる。


僕は相坂さんの前に歩み寄り、「どうせできるわけないわ。」という顔をした相坂さんの前に立つ。


そして、躊躇いなく胸の中に手を入れる。


相坂さんの胸の温かさ、柔らかさと共に冷たいままのIDカードを取り出す。


「ふぇっ!?」


急に相坂さんがしおらしく篝さんのような声を上げる。


「えっ!?ちょっ!?躊躇わないわけ!?え、え!?」


明らかに顔を真っ赤にして動揺している相坂さん。ひょっとして、想定外でこういうことには慣れていないのだろうか?


「か、篝ちゃんに言うわ。」


「言えるかな?」


「ど、どういうことよ!?」


「後ろに篝さんが居るからだよ。」


「えっ!?」


相坂さんは動揺したまま入口のほうを向く。


今だ!


僕は後ろから相坂さんにアタックして床に押し倒す。


「ぐっ!」


相坂さんが頭から強く倒れる形になった。今度は僕が彼女の両腕を強く抑え込む。


「ど、どういうつもり!」


さっき、記憶を見られた時、僕は垣間見てしまった。


相坂さんの記憶を。


きっと相手の記憶を見るデメリットとして、多少なり自分自身の記憶も相手に流れ込んでしまうといったところだろう。


「フランチェスカ・レーニエ。」


僕はさっき記憶の片隅で垣間見たワードを口にする。


「!!」


明らかに動揺する相坂さん。抵抗を急にやめる。


「君は……何をしようとしている?僕と篝さんの仲を本当に引き裂きたいのか?」


「いや。やめて。」


何かと葛藤している。もしかして、フランチェスカという人物から催眠でもかけられているのだろうか?


「篝ちゃんを……亡き者にしようとしているのか?」


「やめて!違う!」


「何が違う?」


「私は……私は!」


片目が赤く灯る。もしかして、本当に操られている?


刹那。


「!!!」


腹部に強烈な熱さを感じて、ゆっくりと自分の腹部に視線を落とす。


「な……。」


刃物。


相坂さんがどこかに隠し持っていたのだろうか?


「ぐっ……。痛ってぇ。」


急激に訪れる耳鳴り。


体から何かが失われていく感覚が強くなる。


僕……死ぬのか?

©2017,2018,2019 すたじお・こりす

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