第54話
【視点変更:水無月篝】
フユトさんが病室に戻ってから、院長先生やお父様、お母様と軽く雑談を交わし、少し眠っていたら時計の針は22時を指していた。
食事は今はできないので常に点滴状態だ。
ゆっくりと管を通るのを眺める。
体はまだ痛み、ほとんど動けない。
するとふと気配を感じた。
「誰?」
「こんばんは。水無月先輩。」
「あなたは確か、アイリさん?」
どうやってこの部屋に入ってきたのか?突然現れたようにも見えたけど?
「はい。アイリですよぉ。」
静かな声で不気味に微笑むと、前に見たふざけたような感じは全くない。
「水無月先輩、お体の具合はどうですかぁ?」
「……。」
心の奥底で危険を感じ取っている。恐怖で声が出ない。
「そうですかぁ。まだお話しできないんですかぁ?」
ベッドまで歩み寄り、至近距離まで顔を近づけてくる。
体の痛みのせいで抵抗できない。かろうじて動く右手でエマージェンシーコールを押そうとすると、するどい目つきをしたアイリさんがそれを阻止する。
「っ痛!」
「ダメですよぉ?助けを呼ばれたら困りますぅ。」
コールボタンはベッド脇に落ちる。
「あれぇ?先輩、点滴してるんですかぁ?」
「……やめて、お願い。」
アイリさんの手がゆっくりと点滴の速度ダイアルへと向かう。
私はそのあとの行動を予測できたので、恐怖で血の気が引いてゆく。
「ふふっ。どうしようかなぁ。」
「目的は……何ですか?」
必死に声にする。
「目的ぃ?一応聞きたい?」
「はい。」
「……相坂廻のイヤリングはどこ?」
急に語尾を伸ばす言い方をやめ、人が変わったように口調が冷徹になる。
「……イヤリング?」
「そう。砂時計の形をしたイヤリングよ。これと同じ。」
アイリさんの耳には砂時計の形をしたイヤリングが両耳に付けられていた。
「知りません。」
無言で点滴のダイアルに手が伸びる。
「待ってください!本当に知りません!!」
恐怖で大きな声を出したせいか体に一瞬痛みがはしる。
「うっ……。」
「あらぁ?大きな声も出せないくらい今は弱っているんですねぇ?」
再び口調がもとに戻る。
「もう一度聞きますよぉ?」
アイリさんは深呼吸し、目を閉じる。
「……イヤリングはどこ?」
目を見開いて再び冷徹な声を放つ。
「本当に……知りません。」
「……。」
ダイアルに伸ばされた手はまだ離れない。
「アイリ…さん。あなたは……何者なんですか?」
「私?私は創造主よ?」
「正確には、創造主によって生み出された化身のようなものよ。」
「化身?」
「そう。このイヤリングの力で私たちは存在を維持できる。」
私❝たち❞?
相坂ちゃんもアイリさんと同じイヤリングを付けているということは、もしかして?
「……気付いた?」
ゾクっと背中に悪寒が走る。
「先輩?気付いた?」
再び同じ問い。
「生命の息吹を失った化身は、このイヤリングを失うと消滅してしまうのよ。」
ドクンと大きな鼓動を打つ。
「気付いた?」
「……はい。」
私は涙が自然に流れ出る。
生命の息吹を失った化身。つまり、相坂ちゃんは何者かに殺されてしまっている。今も存在しているのはこのイヤリングの力のおかげということになる。
「ちなみに、さっきの相坂廻は私が化けた偽物よ。ふふっ。私と廻は記憶を共有できるのよ?知ってた?」
冷徹な声に不気味な笑み。
「一体……いつから?」
「記憶を共有できるし、いつでも好きなように私が操れちゃうのよ?ふふっ。」
「本物の相坂ちゃんはどこ?」
「本物?今はイヤリングをひとつ失くしてしまって、命を繋ぐのが精いっぱいの状況よ。」
「……一体、いつ相坂ちゃんを?」
「事故直後よ。ふふっ、先輩の為にちょっと力を貸してくださいって言ったら私に背中を向けちゃうんだもの。一思いに一撃で化身にしてあげたの。」
「私にはコマが必要なの。ある人の計画の為に。」
「……計画?」
「それは知る必要はないわ。」
ダイアルに手をかけ回そうとする。
「やめて!!」
「先輩も私の化身になる?命なんて捨てて、私のコマとしてまた新しい命を手に入れる?痛みもなくなるよ?」
「お願い…やめて。」
フユトさん……助けて。
『篝さん。』
「!?」
アイリさんからフユトさんの声が発せられる。
「ふふっ。愛ね。」
「どう…し…て?」
「私は何でもできるわ。なんせ創造主が創り出した化身なんですもの。」
『篝…、僕の為に死んでくれないか?』
ドクン。
フユトさんの声で、残酷な一言が発せられる。まるで本人から言われたよう。
愛 す る 人 か ら 、 言 わ れ た か の よ う 。
「…やめて。やめてよ…。」
「先輩可愛い。」
「私は創造主の意思に基づき、水無月というすべての存在を消すわ。」
「…どうして?」
アイリさんはダイアルから手を離す。
「水無月篝。あなたは簡単には殺さないわ。苦しませて、苦しませて、水無月の最後の人間としてふさわしい結末を迎えさせてあげる。」
目の前に手をかざされると、急激に訪れる眠気に逆らえず私の意識は闇に堕ちた。
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