第53話
「あの、お待たせしました。」
「早坂君、もういいのか?」
「はい。ありがとうございました。」
『……。』
花音さんは何も口にしない。
「早坂君、もう少し付き合ってくれるか?」
「はい。」
再び篝さんの病室へ戻る。院長先生も一緒に入室する。
「篝、気分はどう?」
水無月さんが少し控えめな声で問いかける。
「お父様!わざわざすみません。」
「こういう時くらい遠慮しないで甘えていいだぞ。」
「はい。ありがとうございます。」
親子だというのに、篝さんは常に敬語だ。そういう教育方針なのだろうか?なんかよそよそしい。
「篝お嬢様、何かありましたらすぐに私共を呼んでください。」
院長先生がかしこまりながら前に立つ。
「ありがとうございます。」
花音さんは一歩引いて入口付近に立っている。
「それじゃ本題に入ろう。」
「本題……ですか?」
不思議そうに首をかしげる篝さん。可愛い。
「早坂君と同じ病室で療養したんだろ?それを今先生に聞いてみたいと思ってな。」
「水無月様!まだそのようなことを!」
「先生は反対ですか?」
「お譲様もお年頃なのですから、異性と同室というのは了承いたしかねます。何か間違いがあってもいけません。」
「……。」
ま、これが妥当な結論だろう。僕も一緒だと嬉しいけど正直この案だけは通ると思っていない。
「まぁまぁ、この二人は仲良しだからお互いちゃんと理解しているでしょう。」
水無月さんがフォローに入る。
「ですが……世間体というものもありますし。」
「俺も誰にでもこういうお願いをするわけじゃないですよ。早坂君と実際に話をして決めたことなんですよ。」
しばしの沈黙。
「篝お嬢様、それではひとつ条件をつけましょう。」
院長先生が折れた。
「条件ですか?」
「はい。早坂さんの病室ではなく、早坂さんがこの病室で療養するのであれば許可します。」
「なるほど。」
水無月さんが「その発想はなかった」と独り言のようにつぶやく。
「早坂君はどう?篝と一緒に療養したいか?」
先ほどの問いを再び聞いてくる。
「……はい。」
恥ずかしさを堪えて返事をする。
「それではこの件はそういうことで。」
パンッと手を叩く水無月さん。
「それじゃあ早坂君、今日はこれくらいで席をはずしてくれないか?あとは先生と身内で話をしたいこともある。」
「はい。本当にありがとうございました。失礼します。」
「あ、待って。」
何かを思い出したかのように僕に差し出される一枚のカード。
「この病室に来る為に必要なIDカードだ。俺は君を信じるよ。」
「ありがとございます。」
「フユトさん……それではまた明日。」
「うん。お大事に。」
僕は病室を後にして、自室へと戻る。
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「ふう。」
自分のベッドに横になる。
そういえば、あのイヤリング。
僕は引き出しを開ける。
確かにまだある。
あの写真に写っていた相坂さんは両耳に砂時計のイヤリングがついていた。
なぜだろう?
「はぁ。」
創造主とかなんとかいろいろあって、現実と非現実がまざりあった不思議な世界にいるようで落ち着かない。
僕はイヤリングを再び引き出しの中に戻す。
きっと、これが大事なものであればまた近いうちに相坂さんが来るかもしれない。
その時に、片耳しかつけていなければあの写真の人物は同一人物ではない可能性も浮上する。
長年付き合いのある篝さんを欺くほどの別人など存在するだろうか?
ふと、篝さんの鼓動の感覚を思い出す。
篝さん、すごく鼓動が早かった。
好きな人と触れ合うというのはすごく尊い。
「可愛すぎる……。」
篝さんと同じ部屋で療養できるのはいつからだろう?
退院までの間、ずっと一緒にいられる。
そんな興奮とは別に不意に訪れる眠気。
今日は一度にいろいろありすぎて疲れが出たのだろうか?
僕はその眠気に逆らう事が出来ず、夢の中へと落ちていった。
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