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第50話

しばらくして、病室に戻ろうとした時、僕はちょっと異様な光景を目にする。


「あの人って確か水無月みなづきさんだ。」


3~4人のガードに囲まれて一人の男性が病院長と共に歩いていた。


そう、かがりさんのお父さん。


僕は無意識に走っていた。


「あの!!」


「?」


僕が追いかけて呼び止めると、ガードが僕の前に立ちふさがる。


「やめないか。相手は子供だぞ。」


「……。」


すっとガードが水無月さんの横に下がる。


「どうした青年?」


「あの!篝さんのお見舞いですか?」


「これ君!弁えないか!」


病院長が僕を制止する。


「いいんですよ院長。若人わこうどの主張に耳を傾けてあげましょうよ。」


なんて寛大な人なんだ。


「青年の質問に答えると、実はその通りだ。君の名前を聞いてもいいかな?」


「はい!僕は早坂冬登はやさかふゆとと言います。」


「え!?」


驚く水無月さん。


「え?君、もしかして篝の彼氏?」


「ご存じだったんですか!?」


マジか。


「篝が君と同じ病室で療養したいと言っていてね。今から院長に相談しようかと思ってたところなんだよ。」


水無月さんはまださっきの状況は知らないらしい。まぁ、当然か。


秋伸あきのぶ様!さすがにお年頃のお嬢様と男子はちょっと承諾しかねますが!」


院長が慌てながら説明する。確かにそれが正しい判断だとは思う。


「ちょうどよかった。早坂君、君はどうしたい?」


「僕ですか?」


「ああ。篝と一緒の病室で療養したいか?」


さっきのこともあるし、先に説明すべきだ。


「あの、それがさっき花音かのんさんから篝さんとの面会は禁止されてしまいまして。」


「花音が?何かあったのか?」


僕はさっきの出来事を説明する。


「別の女性とキスねぇ。」


難しい顔になる水無月さん。


「でも、事故だったんだろう?」


「はい。」


「実は、俺もそんな時があったよ。なんせ夏目先輩や幼馴染みともキスしちゃったからね。ははは。」


昔を懐かしむような笑い。


「なあ早坂君。青春時代はいろいろあるものさ。若気の至りって言うだろ?大事なのは最終的に誰が好きなのかだ。」


真面目な顔になり、空を見上げる水無月さん。


「俺は最後に花音を選んだ。後悔はしてないし、選んだ以上は花音以外にはもうそういう過ちはしなかった。」


「意味、分かるかい?」


僕をまっすぐ見つめる。


「……僕は、まだチャンスがあるのでしょうか?」


「いくらでもあるさ。一度や二度の失敗でめげてたら、俺の娘の彼氏としては認められないな。」


そう言うと僕の背中を強く叩く。


「自分の信じた道を行け!それが男だ。」


「ありがとうございます!」


少し元気が出た。


「だが、ひとつ言っておくことがある。」


「なんですか?」


「篝は俺の娘だ。意味は分かるだろ?」


「……はい。」


財閥のお嬢様。僕は一般人。


「早坂君の選択は、なかなかのいばらの道だぞ?覚悟はできているのか?」


「……。」


僕は理解した。


さっきまで【恋愛をするのになんでそこまで覚悟がいるのか?】という疑問の答えを。


僕の恋愛は、普通の恋愛じゃない。つまり、そういうことだったんだ。


「僕は、篝さんを諦められない。」


「……そうか。」


優しく微笑む。


「篝に、会っていくか?俺がうまく花音に話をしよう。」


「いいんですか!?」


「ああ。俺も今は水無月の当主をやっているが、昔は早坂君と同じ一般人だったからね。」


「ありがとうございます!!」


「だが、チャンスはこれで最後だと思って挑め。」


「頑張ります!」


「よし、では行こうか。」


院長が困惑しながら僕たちのやり取りを見ながら、小さな溜息をつくと「粗相のないようにな」とだけ告げて一緒に歩き出す。


「ところで早坂君。」


「はい?」


「篝とはどこまでいってる?」


「え?」


「いや、だから、何か恋人同士らしいことをしたかと聞いてる。」


意外と親ばかなのだろうか?妙にソワソワしている。


「まだ何も。」


「まだ?」


「え!いえ!なにもありませんよ。」


「はは、ないか、そうだよな君たちはまだ学生だからな。うん、いやー、キスとかしてたらどうしようかと心配してしまったよ!」


……。


事故とはいえ、一度だけ篝さんとキスはしている。


それを思い出して僕は顔が熱くなるのを感じた。


「え?」


水無月さんが僕の顔をまじまじと見る。


「え?え?あるの?もうしたの?」


「え!?いえ、事故でその、転んだ時に一度……。」


「…早坂君は俺とどこか似てるな。」


「花音さんにも言われました。」


「ははは。」


僕の背中をバシバシ叩く。痛みはない。


そして、僕はこのチャンスを活かさなければいけない。絶対に篝さんとまた仲良くなってみせる。


水無月さんにもらったこの勇気を、僕は無駄にはしない。


さっきまでの落ち込んだ気分は全部吹き飛んでいた。

©2017,2018,2019 すたじお・こりす

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