第49話
ベンチに座りながら色々と思考をめぐらす。
でも、この結果が変わることはない。篝さんに会えない。
「……はぁ。」
溜息しかでず、僕はずっとただ地面を眺め続けた。
「ここに居ましたか。」
あれからどのくらい時間が経っただろう?
フランチェスカさんがベンチの前に立っていた。
「……。」
「お隣に座ってもいいですか?」
「……どうぞ。」
「青春ですね。」
フランチェスカさんは空を見上げていた。
「これのどこが青春なんですか。」
僕は再び地面に視線を落とす。
「早坂さんはどこか、秋伸さんに似てるんですよね。」
「また秋伸さんですか。僕は秋伸さんじゃないですよ。」
「まぁまぁ。そんなに拗ねないでくださいよ。」
「秋伸さんは、花音さんと今に至るまでにたくさんのものを手に入れました。」
まるで独り言のように話しを続ける。
「そして、失ったものもあります。」
「……失ったもの?」
「はい。何かを手に入れるには、何かを失う覚悟もないといけません。」
僕はフランチェスカさんの視線を感じて顔を上げる。
そしてフランチェスカさんと目が合う。
「あなたは、大切なものを手に入れる為に何かを失う覚悟はありますか?」
「……覚悟?」
どうして人を好きになるのにそこまで大袈裟な覚悟をするなんていうことになるんだ。
「あ、今の早坂さんの気持ちを読んでみましょうか?」
フランチェスカさんは何かに気付いたような冗談めいた口調になる。
「どうぞ。」
「『なんで覚悟なんているのか?』ではないですか?」
「フランチェスカさん、すごいっすね。」
エスパーか。
「ついでに、どこのあたりが秋伸さんに似ているのかも教えましょうか?」
「それはぜひとも。」
「そうですね。水無月に恋をしたこととでしょうか?」
「そのままですね。」
「早坂さんはご存じのはずですよ?水無月篝という少女に恋をするという意味と、それは成就できるのかどうかということ。」
僕ははっとする。
「今思うと、僕が財閥のお嬢様と釣り合うはずがなかったんだ。僕なんてただの一般市民でしかない。身分なんてないし、対等じゃない。」
「……早坂さん、それは本気で言っていますか?」
「だってそうでしょう?フランチェスカさんはそう言いたいんでしょう!?」
僕の中に再び怒りの感情が湧き上がってくる。
「本気で言っていますか?」
「だから!」
「本気で言っていますかと聞いています。」
フランチェスカさんは同じ問いを繰り返す。
「早坂さん、あなたと少しの時間ですがお話しして気付いたことがあります。」
「……何ですか?」
「あなたは素直じゃない。」
「は?」
「あなたは誰に言い訳しているのですか?誰に弁解しているのですか?なぜ弁解するのですか?」
「……。」
【あなたは、なぜ相手の問いに答えられないのですか?】
僕の思考は止まる。
「早坂さん、最後にひとつだけアドバイスします。」
「アドバイス?」
質問に答えられずにいると、フランチェスカさんは解答を締め切ったかのように話を進めてしまう。
「秋伸さんだって、順風満帆にすべてがうまくいったわけではありません。」
「また秋伸さんですか。どうしてみんな僕と秋伸さんを比べるんですか?」
「あなたと秋伸さんは似ているんですよ。」
「そもそも!どうして比べるんですか?」
「この街は、創造主という者が存在します。それは不意に生まれ、私たちに試練を与えます。」
創造主。フランチェスカさんからもそのワードが出てくるということは関係者なのだろうか?
「そして、そこに必ず水無月が関わってきます。きっと創造主は水無月という存在そのものを消そうとしているのでしょう。」
水無月を消す?
「この街はほぼ水無月家が支配していると言っても過言ではありません。でも、支配者は人間であってはならない。」
「……。」
僕はそのまま話を聞く。
「だから、創造主という神に近い存在がその支配を解き放とうとするのです。それはこの街だけに訪れる不思議な出来事なのです。」
「水無月篝を守るということは、この街を守るということ。きっとみんなそういう結論に至ってあなたと秋伸さんは似ていると判断していると確信できます。」
「早坂さん。」
「……はい。」
「別に私は篝ちゃんとの恋を成就させろとは言いません。ただ……。」
「後悔するくらいなら、挑んでみてもいいのではないですか?」
「挑む?」
「はい。誰かにダメって言われてやめるほど、あなたの気持ちは小さなものなのですか?」
「……。」
するとフランチェスカさんは三時の方向を向き、そちらに声を放つ。
「ね?アイリもそう思うでしょ?」
「え!?」
僕は驚いてフランチェスカさんの視線の先を追う。
「ちぇ。いつから気付いてたんですかぁ?」
「ずっとですよ。盗み聞きとは随分悪趣味なんですね。」
フランチェスカさんは立ち上がる。
「では早坂さん。私はこれで失礼します。何かありましたらまたお店に来てください。お話しくらいは聞いてあげますよ?」
軽くウィンクしたフランチェスカさんは僕に背中を向ける。
「アイリも、私と一緒に帰らない?」
「アイリさん!」
僕はアイリさんに言いたいことがたくさんある。
しかし、フランチェスカさんがそれを制止する。
「早坂さん。物事にはタイミングがあります。いずれ知ることになります。私を信じて待ってみてください。」
「……。」
慈悲深い微笑み。自然と信じようなんて思ってしまう。
「さあ、アイリも行くわよ。」
「う、うん。」
二人は一体どういう関係なのか、僕は突然の出来事すぎてあっけにとられていた。
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