第48話
口に出そうとした瞬間、前室から大きな音がした。
「ん!?」
僕と篝さんが病室の入り口に視線を向ける。
バンッ!
勢いよく開く扉。
「篝ちゃん!!」
相坂さんだった。続いて花音さんとフランチェスカさんも入ってくる。
「え?相坂ちゃん!?なんで?」
僕も篝さんも同じような顔をしているに違いない。
「そいつを信じちゃダメ!」
僕を指さす。
「そいつは!アイリって女と朝に病室でキスしてたのよ!よくそれで篝ちゃんに気持ちを伝えたものね!!」
花音さんとフランチェスカさんは静かに傍観している。
「え!?」
僕を見る篝さん。
「違う!あれは誤解だ!」
ズカズカと僕の前に近寄り、思いきり胸ぐらを掴まれる。
「何が誤解なの!?あれは事実だわ!あなた、あれで何が違うって言うのよ!」
「あれはアイリさんが……!!」
「早坂!ひとつだけ教えてあげるわ!」
「早坂!あなたは言い訳ばかりだわ!何か間違いを起こしたら、『ごめんなさい』でしょ!?謝ることもできないの!?」
「!」
「どうせあなたも財閥の権力を狙ってるだけなんでしょう!?結局は篝ちゃんじゃなくて水無月という名前が欲しいだけなんでしょう!?」
「違う!」
「何が違うのよ!!」
「違う!僕は!」
「それならなんでアイリとキスしてるのよ!」
「それはアイリさんが勝手に!」
すると相坂さんは手を離し、少し落ち着きを見せながら僕を再びにらむ。
「最低ね。」
「相坂ちゃん?どういうこと……なの?」
状況についてきていない篝さん。
「今言ったとおりよ。」
「花音さん、何だか懐かしい状況だと思いませんか?」
ふと、フランチェスカさんが優しい微笑みで緊張の空気を断ち切った。
『そうね。まるで秋伸さんと百合ちゃんのやり取りみたいだね。』
「そうでしょう?」
『ええ。』
『廻ちゃん。』
「はい。」
バツが悪そうに俯く。
『あなたは20日間、篝のお付きはできないとお話ししたばかりですよね?』
「……申し訳ありません。」
『事情はどうであれ、あなたの今の行動は常識を逸脱しています。』
「覚悟はできています。」
『素晴らしい覚悟でこんなことをしたというわけね。』
「本当に百合さんみたい。」
『ふふっ。久しぶりの感覚ねフランチェスカ。』
「そうですね。」
二人は遠い過去を懐かしんでいるようだ。
『早坂くん。』
「え!?はい!」
いきなり呼ばれて額から汗が噴き出す。
『廻ちゃんの話は事実なの?』
「……事実ですが、誤解です。」
すると花音さんは何かを覚悟したかのように、僕と相坂さんを交互に見つめる。
『廻ちゃん、早坂くん。お二人は私が許可するまで篝と会うことを禁止します。』
「え!?」
どうして!?
『篝も、それでいいわね?』
一同が一斉に篝さんを見る。
「……はい。」
篝さんは俯いて静かに返事をした。前髪で顔が隠れていて今どんな表情なのか分からない。
でも、何かに絶望したような声だった。
『では廻ちゃん、早坂くん、退室してもらえるかしら?』
「待ってください!」
「早坂さん。」
フランチェスカさんが僕を制止する。
「男らしくないですよ?」
「でも!」
「篝さん!僕を信じて!あれは間違いなんだ!」
『……。』
誰も一言も発しない。
「失礼します。」
相坂さんが一礼して病室を出て行く。
僕は諦めきれない。
「あの!」
『……聞こえなかったの?それとも、もう一度説明しないといけない?』
それは一言で言うと威圧だった。
一言も発しさせない圧力が僕を襲う。
「……さぁ。」
フランチェスカさんが僕の肩を軽く叩き、一緒に出ましょうと言わんばかりに背中を押す。
「……失礼…します。」
僕も一礼して病室をあとにする。
結局、病室に残ったのはフランチェスカさんだけだった。
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僕は自分の病室に戻る気力も無く、外の中庭へ目的も無く向かう。
「はぁ。」
ベンチに座る。
完全に終わった。僕はそれ以外に何も浮かんでこなかった。
篝さん。
くっ。
アイリさんの思惑通りになってしまったというわけか。
さっきまで僕と篝さんは楽しく話しをしていたのに……。
どうしてだ。どうして僕たちの邪魔をするんだ…。
「……これからどうなるんだ。」
誰かに言ったわけじゃない。ただ、感情がそのまま口からもれた。
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