第44話
【視点変更:水無月篝】
フユトさんと入れ替わりでお母様が入ってくる。
『篝?どうしたの?』
「ごめんなさい、少し、体が痛むのです。」
お母様が優しく髪を撫でる。
『先生を呼ぶ?』
「いえ、平気です。」
『強がらないで。今は私たちしかいないのよ?』
「……。」
体が痛い。突然襲った苦痛に汗がにじむ。
「少し…様子を見て、治まらないようなら…お願いします。」
『篝は強い子になったわね。』
「いいえ。そんなことはありません。」
『早坂くんのこと、好きなの?』
「ふぇっ!?」
いきなりすぎてまた変な声が出てしまった。
『ふふっ。命を懸けて守ったのだから、きっとそうなのね。』
「そ、そんなことは…。」
『そんなことは?ないの?』
「いえ、その……。」
顔が赤くなっていくのが分かる。どうかお母様にはバレないで。
『顔が赤いわよ?』
バレた。
「……彼のことは好きです。」
『でも、浮かない顔をしているわね?』
「……。」
私はあえて口にしない。私とフユトさんには決定的な壁が存在している。
❝身分の差❞
私は水無月家のひとり娘。本来なら一般と同等の施設で学業などできる身分ではない。
私の意思とお父様のおかげで今の学園に通うことが許された。
『ご令嬢故の悩み?』
「はい。」
『そう……。』
頭を撫でる手は止まらない。
『篝。』
優しく、そして慈愛に溢れた微笑みで私を見る。
『あなたは、あなたのしたいようにしなさい。』
「お母様……。」
『あなたは私の娘なのだから、きっと、幸せな未来をつくることができるわ。』
「…ありがとうございます。」
コンコン。
少し粗めのノックの音が響く。
『きっとお父様よ、篝。』
「お父様!?お忙しいのに!?」
するとお母様は人差し指を鼻に当て、「静かに」という意味のシーッというのポーズをする。
「篝!!」
お父様が心配そうに駆け寄る。
「大丈夫か!どこも痛くないか!?してほしいことはないか!!」
『お父さん、落ち着いて。ここは病室よ?』
「ああ、すまん。つい。」
「お父様、少し体は痛みますが平気です。ご迷惑をおかけしました。」
「迷惑なんて言うな!事情は廻から少し聞いてる。何かあったら、すぐコールするんだぞ?」
「はい。」
「それと、なにかしてほしいことはないか?」
私はその一言に、あることを思い浮かべる。言葉にすべきか悩んだけど、ちょっと話してみることにした。
「あの…でしたお父様。ひとつだけお願いがあります。」
「なんだ?」
「実は、その……。」
【フユトさんと、同じ病室で療養できませんか?】
「!?」
『!?』
お父様とお母様が同時に同じ反応を示す。意外すぎて驚いているようだ。
ちょっと恥ずかしい。私は顔が再び赤くなる。耳まで熱い。
「か、篝…。ちょっとそれは、年頃の子としては…。なぁ、お母さん?」
『篝って恋愛には積極的なのね。』
「はっ!?」
お父様が再び驚きの顔を見せる。
「えっ!?ま、マジなのか!?え?花音、なんでお前、俺に教えてくれなかったの?」
動揺しすぎて、普段は「お母さん」と呼ぶのに「花音」になっていた。
お父様とお母様はふたりっきりの時は名前で呼び合うのがルールだって聞いたことがある。
『知ったのは昨日くらいよ。』
「篝……。」
『お父さん。』
お母様がお父様の裾を引く。まるで「今は何も言うな」と言わんばかりに言葉を引き留める。
「…悪い。篝、お前はお前のしたいようにすればいい。それがお母さんと共通の教育方針だ。希望は叶えよう。」
「ありがとうございます。」
私は嬉しさで興奮する。
痛みはいつの間にか消えていた。
「でも篝…。ひとつ約束してくれ。」
「なんでしょうか?」
「その…、体の関係は卒業まで我慢しなさい。」
「ふぇっ!?」
ボンッと顔が急激に赤くなっていくのを感じる。
「し、しませんっ!!まだしません!!」
「ま、まだ……だと!?」
『お父さん!そのくらいでいいじゃありませんか?』
「あ、ああ。」
少し寂しげなお父様。でも、お母様は私を見て軽くウィンクをしてくれた。
ありがとう。
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