第37話
目が覚める。
白い天井。僕はベッドにいた。自宅じゃない。
ここは、病院だ。
「目が覚めましたか?」
アイリさんがベッド脇の丸椅子に腰かけていた。いつものおちゃらけた雰囲気は一切なく、慈悲深い笑みを浮かべていた。
「今、お医者様を呼んできますね。」
「待って!」
僕は腕を掴む。
「篝さんは!?篝さんはどうなった!?」
アイリさんは無言で僕の手を払う。
「お医者様を呼んできます。」
病室を後にするアイリさん。僕はベッドに横になっているだけで特別何も処置はされていない。
だから、今自由に動ける。
アイリさんが医師を呼んでくる前に、僕は病室を抜け出し篝さんを探す。
薄暗い。
今何時だろう?薄暗い廊下をゆっくり歩く。
間接照明しかない廊下はとても静かだ。消灯時間が過ぎているのだろうか?
階段を降りると、そのすぐ脇にある自動販売機コーナーのベンチに座るひとりの女の子を発見した。
「・・・相坂さん。」
その声に反応して、僕を見上げる相坂さん。
目が腫れている。きっとずっと泣いていたんだろう。
「・・・早坂君。」
「あの・・・。」
僕はなんと言っていいのか困ってしまい、言い淀んでしまう。
「もう平気なの?」
相坂さんがこちらも見ずに、床を見つめながら声をかけてくる。
「うん。特に怪我もしてないから。」
「そう。」
しばしの沈黙。
「・・・。」
「どこかに行く途中じゃないの?」
相坂さんはようやくこちらを見る。
「え?あ、うん。篝さんを・・・その・・・探しに。」
「・・・。」
「ねぇ、篝さんは・・・どこ?」
「私は、あなたを許さないわ。」
「え?」
不意に向けられる敵意。
「私は、あなたを許さない。」
「・・・。」
何も言い返せない。
「ごめん。」
「!」
相坂さんが僕の前に立つ。
そして僕は同時に頬に痛みを感じる。
「ふざけないで。」
「ふざけないでよ!何がごめんなのよ!!」
「篝さんはどこ?」
僕は知らなければいけない。
「教えないわ。」
そういうと、相坂さんはそのまま立ち去ろうとする。
「あなたは・・・。」
いつの間にか相坂さんの前にはアイリさんが立ちふさがっていた。
医師を呼びに行ったんじゃなかったっけ?
この子の移動概念っておかしくないか?
「相坂先輩、彼を責めるのは筋違いですよ。」
今日のアイリさんは雰囲気がまるで別人だ。もしくは、これが本来の素の彼女なのか?
「あなたには関係ないわ。それに、あなた何者なの?」
「私にも関係はあります。」
「どういうこと?」
「自己紹介をしていませんでしたね。私は、夏目愛梨と言います。」
「!!」
相坂さんの表情が一変する。
「やっぱりあなたは夏目だったのね。どういうつもり?」
「・・・どういうつもりもありません。それと、言い遅れましたが・・・。」
「?」
アイリさんは少し悪意を持ったような小悪魔的な笑みを浮かべた。
「夏目にして、創造主の血を授かった湊の娘と言えばあなたには分かるでしょうか?」
「!!」
相坂さんの顔が恐怖に変わる。
「ま、まさかあなた・・・。」
「湊は創造主にのみ与えられた下界での性。湊は性別問わず、求めた人種の子を宿すことができる特別な存在。」
僕は話についていけない。
「今は多くは語りません。さ、お部屋に戻りましょう?」
僕に手を差し伸べるアイリさん。
「あら?子供じゃないのですから、さぁ、参りましょう?」
慈悲深い笑みを浮かべるアイリさん。
僕はまだ何も理解できていなかった。それに篝さんの安否も知らなければならない。
「僕は、篝さんに会いに行かないといけない。」
差し伸べられた手を払いのける。
「あても無いのに、どこへ行くというのですか?」
「・・・。」
確かにどこにいるのか分からない。
「教えてくれ。篝さんはどこにいる?」
「知りたいですか?」
「やめろ!」
相坂さんが叫ぶ。
アイリさんの口から、何が語られるというのか?
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