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子爵令嬢小話  作者: と〜や


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7/9

7.夜のしじまに

第7章の55からの着想となります。


セレシュ意外と腹黒です。。

 ふわりと意識が浮上する。


 王城と違って、ここは実に居心地がいい。

 剣と魔法によって堅固に守られている王城に比べれば、警備はザルだ。

 だが、小さい領地であるからこそ、民の目が異物をあぶり出す。

 姿を見せない護衛たちによれば、今のところは偵察に来る程度で、害意を持つほどの者はいないらしい。


 だから、セレシュはあてがわれた部屋でゆっくりと眠れていた。

 むしろ王城にいる時よりもゆっくりできていたのに。


 目を開ければほの明るい。

 今日はくたびれきっていた。どうやら明かりを消すのも忘れて眠り込んだらしい。

 だが、目を覚ましたのはそれが原因ではなかった。


 扉一枚隔てた向こう側が騒がしい。

 久々だな、と思いながらセレシュは体を起こす。

 騎士養成学校からベルエニーまで駆けた時は、時間を最優先にしたから宿にほとんど泊まらなかった。


 それでも文句を言わなかったのは、どこへ行っても騒動に巻き込まれるからだ。


 セレシュは自分の姿が整っていること、でも兄レオには敵わないことを知っている。

 だからこそ、可愛い弟系を目指しているのだ。

 だが、そのせいで時折変なのを引っ掛ける事もまた、自覚していた。


 養成学校と王城の往復も、お忍びの馬車とはいえ貴族のそれと知れるものに乗っていれば、目ざといのに目をつけられる。

 宿に先回りされることなど日常だ。

 優秀な護衛たちが手際よく片付けていることも知っている。

 だから、これはそれだと知れた。


 騒ぎとはいえない程度の物音が去ると、静かに扉を開けるものがあった。

 上体を起こせば、見慣れた姿の友がいた。


「カレル」


 もう皆寝ている時間だというのに、カレルはきちんと服を着込んでいた。片手には鞘に収まったままの剣がある。

 何があった、とは聞かない。

 どうせどこぞの女が寝所に潜り込もうとしたのだろう。

 鞘を抜いていないということは、深刻な事態ではないのだ。

 自分が起きる必要もないだろう。


「悪い、起こしたか」

「うるさくて起きたわけじゃないよ」


 慣れてるからね、と口の中でつぶやく。

 廊下の向こうが賑やかになってきた。声からするに、子爵本人のようだ。

 侵入者はおそらくこの屋敷の者だろう。

 使用人。それも侍女といったところか。

 館の中を歩いているといくつも視線が絡みついてきたのは認識していた。


 やれやれ、と頭を振ってセレシュは再びシーツをかぶる。


「セレシュ」

「僕は起きなかった」


 面倒事はごめんだ。

 そうでなくともここにいられる時間は短い。

 些末事に関わっていられる時間はない。


「しかし」

「僕が知らないことに頭を下げる必要はないよ」


 カレルが眉をひそめる。

 真面目なのはやはり父であるベルエニー子爵の血だろうか。フィグ兄もユーマ姉様も正直で、お人好し。

 だからこそ、欲しいのだ。

 ひらひらと手を振って目を閉じる。

 ややあって、ため息とともに足音が遠ざかっていく。

 扉の開閉の音を聞きながら、セレシュは眠りに落ちた。


 ◇◇◇◇



 翌朝。機嫌よく朝食の卓を囲めば、案の定子爵は寝不足な顔をしていた。奥方とユーマ姉様はそうではないから、カレルと二人の間で片付けることにしたのだろう。

 ふと壁際の使用人たちを見れば、顔ぶれが変わっていた。

 絡みつくような視線を送ってくるものはいないどころか、顔を上げてこちらを見るものもいない。

 昨日の一件で排除されたらしい。


 ちらりとカレルを見ると、こちらも目の下が黒い。子爵とともに夜通し対応に当たったのだろう。

 そういえば兵の配置も変わっていた。抜かりはないというところか。

 まあ、万が一その網をくぐり抜けてきたとしても、影の護衛たちが放っておくわけもない。

 彼らが出るまでもなく、自分でも対処できるだろう。


 何も知らないユーマ姉様はにこやかに今日の予定を聞いてくる。

 そう、ここにいられるのもあと数日。

 楽しまなければ。

 そして、帰るまでになんとしてでもユーマ姉様の中に自分の存在を刻みつけなきゃ。

 ユーマ姉様の手を離してくれたことだけは愚兄に感謝してもいいかな、と思いつつ、可愛らしく首をかしげるユーマ姉様に笑みを返す。


 まだまだ、今日は始まったばかり。

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