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第二十話 ナメクジ、半分神になる



 教育方針のちゃぶ台返しの混乱から二日間、学校は創立以来のお休みとなった。

 ナメクジが生徒たち全員にヒアリングするためだ。

 先日、本校の教育方針が大きく変わった。

 みんなのなりたい姿をちゃんと聞いて、その子たち一匹一匹を尊重してあげたい。

 先日の訓練中に声を荒げた件もある。

 小鬼たちが変な気を使わないように、ナメクジは細心の注意を払った。

 

 たくさん小鬼の話を聞いた。

 前線で敵と真正面から殴り合いたい。

 仲間の盾になりたい。

 傷ついた友達を治してあげたい。


 みんな目をキラキラさせて夢を語っていた。

 ナメクジは初めてわかった。

 この子たちはこんなにやりたいことがあったんだ。

 応援してあげたい。

 ラグナの言う通り、俺がどう思われたって関係ない。


 休み明けの朝の全体朝礼、ナメクジは洞窟の中、視界いっぱいの小鬼たちの前に座っていた。

 湿った岩肌にいつまでも座らせていてはかわいそうだ。

 全員を見渡して軽く咳を払う。

 ここは今日から新しい学校に生まれ変わるんだ。

 ナメクジは下層の濁流の音にかき消されないように、声を張り上げて号令をかけた。

 

「ではみなさん、好きなところに並んでください!」


 『聖職者』希望は娘ちゃんの前。

 『シャーマン』希望はおやっさんの前。

 『重装歩兵』希望は雨季臨時講師のお嬢の前。

 『軽装歩兵』希望はラグナの前。


 体育座りから起き上がった子鬼君たちがゾロゾロと移動して、先生の前で一列に並んだ。

 ナメクジはにっこり笑って頷いた。


 ――やっぱりな!

 

 小鬼たちは全員一人残らず、ラグナの前で並んでいた。

 チラチラ振り返ってナメクジの顔を見ている。

 

 要は、いじらしい小鬼ちゃんたちはメンヘラナメクジに気をつかったんだ。

 夢をあきらめて、なれるはずもないスーパー軽装歩兵になろうとしている。

 ナメクジは肉触覚を思い切り地面に叩きつけた。

 あんだけ好きにやれって言ったのに、舐めやがってクソガキどもが。

 そっちがそのつもりなら、俺にだって考えがある。


 『論理』君、メニューをお願いします!


 →サングインスラッグ・アーチビショップ(ユニーク)危険度A

 サングノインの祝福を受けし者。神は神を頼らないものを愛する。いつでも見守ってるからね!

 獲得スキル『グランド・コラプション』『ブラッド・レストレーション』『女神顕現(無料)』


 →デミゴッドスラッグ・グランドプリセプター(ユニーク)危険度D

 半神でも所詮ナメクジ。導師は自ら歩むものを愛する。生徒たちよ、そのようであれ。

 獲得スキル『ドクトリン・コラプス』『祭礼執行』『大教導』


 こちとらずっと前からレベルはマックスだぜ。

 体が中心からめくれていくような感覚がする。

 博士帽のカラが盛り上がって、頭頂部から艶のある長髪が生えてきた。

 ピンクがかっていた軟体に、金箔のような大粒の粒子がゆっくり漂っている。

 ナメクジは大司教ではなく大先生を選んだ。

 それにしても、また無視しちまった。

 どこか寂しそうに光る額の紋章を、ナメクジはそっと撫でた。

 今思えば、邪神はラグナと同じくらいナメクジと一緒にいてくれたのだった。

 自分は全然ひとりぼっちじゃなかったのかもしれない。

 今までありがとうサングノイン、これから半分同僚だな。

 ナメクジは初めて、邪神に心から手を合わせた。

 秤の紋章から白光が弾ける。


「ギャギャッ!?」

 

 薄暗い室内に慣れていた小鬼たちが、あまりの眩さに目を覆った。

 みなが目を擦る中、地面に瘴気の渦が生まれ、中から黄金色の秤が姿を現した。


「――おおお」


 おやっさんが目を剥いて膝から崩れ落ちた。

 そのまま地面に頭から倒れ込み、右手の失われた腕を中空に掲げている。

 おでこのあたりの地面が、血で赤く滲んでいる。

 やっぱおやっさんはキマってんなぁ。


 ナメクジは彼女への感謝を込めて片方の秤に触覚で触った。

 

「つまらないものですかお供え物です」


 ――スキル『進化教導』を主神サングノインに捧げますか?


 ナメクジが頷くと、なにかが失われた感覚と共に、秤が傾いた。

 こんなものがあるから俺はこの子たちの人生に口出ししちゃうんだ。

 ナメクジは弱い生き物なの。

 出来てしまうならやってしまう。

 なら出来なくなればいいじゃない!

 胸を張って鼻息を荒くしていると、紫色の渦巻きから女の声が響いてきた。

 濃密な血肉の匂いが広間に充満する。


「神聖公平な取引である」

 

 体を舐めるように瘴気がまとわりついてくる。

 小鬼たちが顔を青くしてナメクジの後ろに逃げ込んだ。


「お前の望みを言え。秤を均すのだ」


 刺すような冷たい空気が足元から立ち上がってくる。

 お嬢も娘ちゃんも微動だにしない。

 立ち尽くすラグナが目に入った。

 尖った顎先に伝った雫が、今にも落ちそうに震えている。

 そういえばラグナはあの時気絶していたんだった。

 ナメクジはラグナがゴブリン君だった頃を思い出して、少し目を細めた。


「俺は友達とは取引しない。そのまま受け取って帰れ」


 ナメクジは秤をグイグイと渦巻に押し込んだ。


「あっ、ちょっと!」

「また話そうよ、これから先輩として相談に乗ってくれ」

「……」


 ナメクジの言葉に頷くように、秤が渦に沈んで消えていった。

 大人しく帰ったみたいだな。

 誰かが息を呑む音が聞こえた。

 振り返ると、全員がナメクジを見ている。

 小鬼たちは身を寄せ合って震えている。

 今までの自分を先生として見るような目じゃない。

 自分が初めてサングノインを見た時、こんな顔をしていたんだろうか。

 

 ――一人ぼっちか。

 ナメクジの視線が自然と下がっていく。

 その目線の先の水たまりに、ラグナの顔が映っていた。

 水面越しに目が合った。

 意地悪そうに口端をあげてこちらを見ている。

 そうだな。

 どうなったって友達でいてくれる奴がいる。

 どう思われたって、どうでもいいわ。

 たとえ、どうでも良くなくてもな!

 

 ナメクジは顔を上げて『大教導』を発動した。

 信者と生徒に対して強制力のある命令を与えるスキルらしい。

 偉そうだけどいいよね、こっちは半分神様なんだから。


「教師は横に並べ!」


 ナメクジの命令に、教師が駆け出して横一列に並ぶ。


「生徒は先生の前に並べ!」


 小鬼たちは足をもつれさせながら、ラグナの元に向かう。

 違う違う!

 ナメクジは言い直した。


「自分のなりたいところへ行きなさい」


 ラグナに向かう一直線の列が解けて、小鬼たちが扇のように広がっていく。

 ナメクジは今度こそ頷いた。

 各教師の前に、小鬼たちがほぼ均等に並んでいる。

 ヒアリング通りだ。


「よく聞け命令だ」


 教師も小鬼も背筋を伸ばしてナメクジを見た。


「みんな一緒に頑張るぞ! エイ! エイ! オー!」

「おー!」

「おー!」

「おー!」


 ナメクジが天に触覚を突き上げると、ラグナとおっさんと娘ちゃんだけが合いの手を入れた。

 小鬼たちはお目々をパチクリさせている。

 ラグナがお嬢を睨むと、お嬢は慌てて拳を突き上げた。


「おっ、おー!」

 

 俺の信者は三人だけだった。

 なんだ恥かかせやがって。

 

 えっ?

 ふんふん、初めはそんなもんなのか。

 ナメクジは先輩の助言を聞いて頷いた。

 額の紋章がポカポカ暖かかった。


 

読んでいただきありがとうございます。

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金曜日に定期更新です。

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