第2話 王都から来た騎士
「村長、我々は王都から派遣された特命騎士団の者です。協力をお願いしたい」
村の中央にある集会所にて、銀鎧の男たちが一礼した。
先頭に立つのは、鋭い眼光と整った口ひげが印象的な、三十代前半の男。肩に王家の紋章入りのマントをかけている。
俺はというと、集会所の掃除中だったため、その場に居合わせてしまった。
ほうきを持ったまま、村人たちの後ろでこっそり話を聞いていた。
「……協力と申されますが、このような辺境に何のご用で?」
村長の厳しい声に、騎士が淡々と答える。
「実はこの近くに、古代文明の遺跡が存在するという記録が王立図書館に残されておりましてな。封印魔術が使われている可能性があるため、調査のために立ち寄った次第です」
村人たちはざわめいた。
古代文明――
それは千年以上も前に滅んだとされる、現代より遥かに高度な魔法技術を持つ文明。
今ではほとんどが伝説となり、封印魔術や禁呪といった言葉だけが書物に残っている。
「そのようなモノが、この辺りに……?」
「可能性は極めて高い。ですが、調査には地元の案内人が必要です。ご協力いただければ、謝礼は――」
「私が案内しましょうか?」
突然、声を出したのは、他でもない俺だった。
村人たちが一斉にこちらを見る。村長の眉がぴくりと動いた。
「おい、レオン。お前の出る幕じゃねぇ。下がってろ」
「でも、村の裏山の地形には詳しいんです。遺跡といえば、あの崖の近くの石造りの場所じゃないかと思って――」
騎士団のリーダーが俺をじっと見た。
厳しい目ではあるが、見下すような色はない。むしろ、観察するような目だった。
「名は?」
「レオン、と申します」
「よかろう。レオン殿、案内を頼みます。遺跡の場所がわかるのであれば、是非とも協力をお願いしたい」
「えっ、本当にいいの?」
「私の部下は森に不慣れだ。案内人がいてくれるだけで助かる」
こうして、俺は騎士団と共に遺跡へ向かうことになった。
村人たちの視線が冷たい。特に、俺をよく怒鳴ってくる鍛冶屋の親父は、明らかに不満そうな顔をしていた。
でも、どうでもよかった。
初めて、“村の外の誰か”に認められた気がして、胸が少しだけ高鳴っていた。
*
遺跡は、村の裏山を越えた先にある、崖沿いの岩壁の中にあった。
かつて炭鉱として使われていた場所だが、奥にある「崩れた石門」のようなものは、誰も触ろうとしなかった。
「これが……封印の扉、か」
騎士の一人が、魔導具で扉を調査している。
「おそらく封印魔術によって閉ざされています。鍵は“言語”か、“魔力の波長”かと」
「どうする?開けるのに時間がかかるぞ」
「いや……これ、読めるかも」
俺はふらりと扉に近づき、刻まれた文様を指でなぞった。
それはまるで、自然に頭へ入り込んでくるかのような感覚だった。
読んだこともないはずの古代語が、意味をもって“理解”できる。
──【扉を開けし者、叡智を継ぐ者なり】
気づけば、俺の手が無意識に印を結び、扉の魔法陣が青白く輝き出していた。
「っ!? お、おい、下がれレオン! 封印が……!」
騎士たちの制止も間に合わず、扉が――静かに開いた。
光の粒が舞い上がり、崩れかけた石の回廊が、俺たちの前に現れる。
「ば、馬鹿な……封印が、ただの村人に……?」
「いったい、お前は何者だ……?」
──俺自身が、それを一番、知りたかった。