第3話 封印されし遺跡
扉の奥は、まるで別世界だった。
石の回廊は古びているのに、崩れひとつ見当たらない。
壁に刻まれた文様は、どれも意味を持っているようで、不思議と「読めて」しまう。
俺の中の何かが、確かに目覚めようとしていた。
「まさか、こんなものが村のすぐ近くにあるとはな……」
騎士団長のグレイが、周囲を警戒しながら歩く。
「皆、気を抜くな。ここは古代文明の遺構。罠や守護魔獣の可能性もある」
一行は慎重に奥へ進んでいくが、途中の魔力感知装置が反応することはなかった。
ただ、不思議と空気が澄んでいて、肌に触れる空気すら心地よく感じる。
やがて、行き止まりと思われる広間に出た。
天井の高いドーム状の部屋。中心には台座がひとつあり、その上に、一冊の本が置かれている。
「これは……?」
「触れるな! 魔力を帯びているぞ!」
騎士の一人が制止するも、俺の足は自然とその本へと向かっていた。
触れたい――というより、“戻ってきた”ような感覚があった。
「……おい、やめ――!」
触れた瞬間、世界が弾けた。
視界が白く染まり、音も感覚も消える。
そして――声が響いた。
『万象の書庫へようこそ、我が継承者よ』
その声は、性別も年齢も感じさせない、澄んだ響きだった。
『お前は“叡智の刻印”を持つ者。万物の法則を読み解き、再構築する者なり』
『我らが遺した知を託すに足る者と、選定された』
「……選定? 俺が?」
『かつて、この世界には“理解する者”が存在した。魔法も、歴史も、命さえも、すべてを“言語”として読み解く力を持つ者――賢者。お前はその継承者』
信じられなかった。
俺はただの村の雑用係で、魔法も剣も使えない“役立たず”だと思っていた。
だがこの空間は、俺の中の何かを呼び覚ましている。
次の瞬間、脳内に大量の情報が流れ込んできた。
魔法陣の構造、属性相関、魔力流動理論、身体強化術、さらには言語学、戦術史、古代医学――
頭が割れそうだった。だが、不思議と苦しくはなかった。
むしろ、どれも「懐かしい」とさえ感じた。
『いずれ来るだろう。“世界の崩壊”が』
『その時、お前の叡智が必要となる』
声はそこまで告げると、ゆっくりと消えていった。
次の瞬間、現実の感覚が戻り、俺は広間の床に倒れていた。
「……おい、生きてるか!? レオン!」
「大丈夫だ、意識はある!」
目を開けると、騎士たちが心配そうに俺を囲んでいた。
「いったい何が……あの書物に、何があった?」
「……俺にも、よくわからない。けど、何か……頭の中に、いろいろ入ってきて……」
俺はふらつきながら立ち上がる。
そして、何気なく目を向けた壁の文様を見て、思わず口に出した。
「“この先に進むべからず。知を持たざる者に試練あり”……?」
騎士たちは驚いたように振り返った。
「それ……読めるのか?」
「えっ……? 普通に書いてあるじゃないか?」
「いや、それは古代語だ。現代語では訳せないものだぞ……?」
ざわめく空気の中で、俺は確信した。
俺は今、何か“とんでもないこと”になっている。
だがその一方で、不思議と怖くなかった。
頭の中には、さっき聞いた“あの声”が今も残っている。
『我が継承者よ、世界の終わりを、読み解け』




