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第4話 万象の書庫

遺跡から戻ったあと、俺はしばらく村の自室に“監視付き”で滞在することになった。


名目上は「疲労回復のための休養」だが、実際には王都の騎士団による保護――いや、監視だろう。


グレイ団長の態度は柔らかいままだが、部下たちの視線には、明らかに“異物”を見るような警戒が混ざっていた。


それでも、俺自身は混乱の中にいながら、不思議と焦ってはいなかった。


なぜなら――


「……やっぱり、見える。ここにも書いてある」


村の井戸の壁に刻まれた、誰も気に留めたことのない模様。

今の俺には、それが“水流管理魔術陣”であると理解できる。


「あの遺跡以来、文字じゃないはずのものが……読めてしまう」


壁のひび割れから、魔力の流れ、気の流れ、さらには空気中の浮遊粒子までが“構造”として視える。

そしてそれを、「言語」として“解釈”できる。


──世界が、読める。


それが、あの“万象の書庫”が授けてきた異能――

《理解のアイ・オブ・セイジ》だった。



翌日、村の広場で騎士団が魔術演習を行うことになった。


王都に報告書を送る前に、念のためレオンの“能力”をもう一度確認したい――という名目だったが、実際には試験的な「能力検査」だ。


「レオン殿、簡単な術を使ってみていただけますか?」


「魔法、使えたことないんですけど……」


「構いません。この魔導具に手をかざして、魔力を流してみてください」


騎士の一人が差し出したのは、魔力測定具。通常は魔法使いの素養を見るために使われるもので、反応がなければ“非適性”と見なされる。


俺は、言われた通りに右手をかざす。


──瞬間、測定具が“爆ぜた”。


「ッ……!?」「ば、馬鹿な……!」


バチン!という破裂音と共に、測定具が赤く焼け、地面に転がる。


俺自身は何もしたつもりはない。

だが、頭の中には自然と“こうすれば魔力が流れる”という理解が浮かんでいた。


「す、すまない! わざとじゃ――」


「……確認できました。完全な“高次魔力体質”です。しかも、魔力量は規格外」


ざわつく騎士たち。

その中で、グレイ団長はただ一人、目を伏せて深く息をついていた。


「やはり、“刻印”が現れたか……」


「刻印……?」


俺が首を傾げると、グレイは俺の左手を指差した。


そこには、遺跡で触れたときに現れた淡い光の紋章――「叡智の刻印」が、うっすらと浮かび上がっていた。


「君は、世界に十人もいない“刻印持ち”。その力は、王都でも管理下に置かれる存在だ」


「管理……?」


「すまない。だが、これは君の身のためでもある。力を持った者が、無知のまま世界に放たれるのは――危険なのだよ」


その言葉に、俺は答えられなかった。


確かに、俺はまだ何も知らない。


魔法の基本も、世界の仕組みも、他の“刻印持ち”がどう扱われるのかも。


けれど、あの遺跡で感じた感覚だけは、忘れられなかった。


『いずれ来るだろう。“世界の崩壊”が』


『その時、お前の叡智が必要となる』


──だったら、俺はもっと、知りたい。


この世界がどうできていて、どう壊れかけているのか。


そして――

自分が何のために、ここにいるのかを。


「……王都へ行きたいです」


俺の言葉に、グレイは一瞬だけ目を見開いたが、すぐにうなずいた。


「その意思があるならば、歓迎しよう。だが、そこには君が思うよりも多くの“思惑”が渦巻いていることを、忘れないように」



こうして俺は、王都へ向かう決意をした。


最果ての村の雑用係は、“万象の書庫の継承者”として、世界の中心へと足を踏み出す。


まだ自分が、どれほどの力を秘めているのかも知らないまま――

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