第1話 最果て村の雑用係
「おい、レオン! 鶏小屋の掃除が終わったら畑の水やりも頼むぞ!」
「はーい……わかりました」
返事をすると同時に、背中に乾いた笑いが突き刺さった。
今日も、最果て村は平和だ。
そして、俺は今日も雑用係だ。
この〈アルス村〉は王都から馬で二週間以上かかる山奥の寒村で、辺境も辺境。地図にもろくに載っていないような土地に、俺・レオンは住んでいる。
朝は鶏小屋掃除に始まり、昼は畑作業、夜は魔除けの焚き火番。
村人たちには「役立たず」と陰で言われ、時には怒鳴られ、時には忘れられ、でも俺はここで静かに暮らしてきた。
十年前、山中で倒れていたところを村の長に拾われた。
身元もわからず、魔法も剣も使えない、平凡以下の少年――それが、今の俺の正体だ。
「……ふぅ。鶏たち、元気そうでなにより」
今日も鶏の世話を終え、畑へ向かおうとするそのとき――。
「レオン!」
透き通った声が背後から飛んできた。
振り返ると、麦わら帽子をかぶった金髪の少女が、バケツを両手にぶら下げて駆けてきた。
「お、エマ。どうしたの?」
「これ、井戸の水なの。さっきおばあちゃんが倒れちゃって、冷やすために使ってほしいんだけど……一人じゃ運べなくて」
「わかった、すぐ行くよ」
エマは村長の孫娘で、俺にとって唯一まともに接してくれる存在だ。年齢は俺より二つ下で、村では珍しく読み書きができる。
俺は彼女の手からバケツを受け取り、井戸へ向かった。
冷たい水を汲み、病気がちな老婆の額に当てる。呼吸は浅いが、意識はあるようだ。
「……ありがとう、レオンくん。助かったよ」
老婆の言葉に、少しだけ胸が温かくなった。
この村で誰かに「ありがとう」と言われることは、年に数回あるかないかだ。
「気にしないで。俺にできることなら何でも言って」
「……そんなふうに、優しいままでいてね。きっと、あなたは遠くへ行く子だから」
老婆の目が細くなった。
遠くへ、か。
俺には、そんな未来があるようには思えなかった。
今日も明日も、雑用をこなして、誰かに怒鳴られて、夜になったら藁のベッドに倒れ込む――
そんな日々が、これからもずっと続くのだと思っていた。
だが、この日。村の外れに、見知らぬ男たちがやってきた。
全身を銀の鎧で包んだ、王都の騎士たち。
その出会いが、俺の運命を大きく変えていくことになるとは、このときの俺には、知る由もなかった。




