21.美紅の目覚め
こんなに走ったのはいつぶりだろう?
明日は、間違いなく筋肉痛だ。
いや、もしかしたら年を取ると、
翌々日に筋肉痛が来ると聞いたことがある。
私もそろそろ明後日組かもしれない。
そんなことはどうでもいい。
私は慌てて病院に駆け込み、美紅がいる部屋の
扉を開けた。
そこには、5年ぶりに見る美紅の瞳があった。
そう、美紅の意識が戻ったのだ。
見飽きた寝顔ではない。
美紅が私を見ている。
まさかこんな日が来るとは思っていなかった。
事故の直後は、きっといつか目を覚ます、そう
思っていた。
でも時が経つにつれ、信じたい自分より、
信じることができない自分が大きくなっていた。
「目覚めて欲しい」はいつしか、
「生きていてくれたらそれでいい」に変わっていたのだ。
今では私のたった1人の家族。
いや、本当はもう1人いるのかもしれない。
父親だ。
父は母親が亡くなった後、酒に溺れ、
私たちに当たるようになった。
ひどい父親だということは頭では理解していた。
そこだけは救いだった。
だから彼は、消えた。
私の大学の学費だけを残して。
せめてもの償いだったのだろう。
だから私は夢を叶えた。
でも父のことは探さなかった。
どこにいるのか、生きているのかさえわからない。
だから美紅は、私のおそらくたった1人の家族。
私は部屋に入り、こちらを見つめる美紅を見て
動けずにいた。
そして、頬に涙が伝っているのを知った。
ベッドで半身を起こし、美紅はにっこり笑った。
「お姉ちゃん……、おはよう」
私はカバンを放り投げ、美紅の元へと走った。
そして思い切り抱きしめた。
「おはよう。
よく寝たね。もう寝過ぎだよ」
美紅の瞳からも涙が溢れる。
「ごめん。お姉ちゃん。
ごめん。蓮さんが、私のせいで……。
許してもらえるなんて思ってない。
本当にごめんなさい」
美紅は嗚咽した。
「もういいの。
いいんだよ。美紅」
私は泣きじゃくる妹を抱きしめた。
そう、蓮が最期に一緒にいたのは美紅だったのだと思う。
でも蓮の死は美紅のせいではない。
美紅だけでも戻ってきてくれた。
今はそれでいい。




