18.残像
ちょっと待って。
密着取材って……。
やだ。私は何を慌てているの?
ただの取材相手。
今までだって何人か密着取材させてもらった。
売り出し中のモデルさん。
映画やドラマの番宣のための俳優さん。
なのになぜ?
なぜこんなに……。
ただ、一人のモデルといつもより
ほんの少し一緒にいる時間が長いだけなのに。
颯はじっと私を見つめ、そして部屋から出ていった。
議題が変わったからだ。
議題は次の特集へと移った。
里香が問いかける。
「次、特集のテーマだけど……」
扉に近い席に座る女性がそっと手をあげた。
まだ入社歴が浅い、だが最近いい記事を書いた
悠美という社員だ。
「美しすぎる彼についてはどうでしょうか?」
今、なんて言った?
心臓がバクバクと音を立てる。
「SNSを中心に今、とても話題になっています。
描いたのはanemoneという絵師らしいのですが
正体不明で、彼か彼女かわかりません。
とにかくanemoneが描いたイラストの男性が
美しすぎるって。
実在しているとか、想像だとか。
考察サイトまで立ち上がっています」
うそ。
考察って誰も私と 蓮のことを知るはずもないのに。
一時盛り上がるだけ。
きっとすぐにみんな忘れる。
「SNSと同じことをするつもり?」
里香が冷静に悠美に尋ねた。
「anemoneのほうを特集したいのです」
私は思わず持っていたペンを机の上に落とした。
「え? あ、ごめんなさい。
どうやって探すのかなって。
正体不明っていってたから」
「小説の作者に連絡を取ろうと思います。
教えてくれるかはわかりませんが、
動く価値はあると思います」
悠美は自信満々に答える。
「もし、もしその人、anemone?さんが
判明したとして取材に応じるかしら。
匿名でイラストを描くくらいだから、
取材に応じてくれる可能性は低いのでは?」
私のこの必死さ、怪しまれてない?と
ヒヤヒヤしながら里香を見る。
勘のいい彼女なら気づくかもしれない。
でもどうしたらいい?
このままだと私まで辿り着くのは時間の問題かもしれない。
「もしanemoneが難しい場合なのすが。
見てください。
美しすぎる彼のそっくりさんが
ネットには溢れていて」
悠美は自身のパッドをスクリーンに映す。
そこには……蓮に似たたくさんの写真があった。
そこに、本当に蓮によく似た一人の男性の写真があった。
似ている?
いや蓮?でもこんな写真は見たことがない。
「この人は……?」
誰か、私の声の 震えに気づかないで。
「検索します」
私は彼の写真から目を逸らすことが出来ない。
「スノープロダクション所属の新人俳優だそうです。
彼で特集組みませんか?」
私は自分の意思と反して首を縦に振っていた。
私は間違いなく颯に心惹かれ始めていた。
でも、彼の写真から目が離せなかった。




