17.気づいてほしい
ナッツのアレルギー。
高校の先輩が持ってきた差し入れのクッキーに
少しだけ入っていた。
当時、俺は光里がナッツに対してアレルギー持っているとは
知らなかった。
いつもなら甘いものには目のない光里が、
なかなか手を出さないため、
たまたまお腹がいっぱいなのかと思っていた。
先輩は、なんだ俺の持ってきたクッキーが
食べられないのかと言いたげな
圧を光里にかけてきた。
決して悪気はない。
光里は笑顔でかわし、少しだけ食べて、
「あ! 忘れ物思い出したので取ってきます!」
と慌ててどこかに走って行った。
俺はしばらく先輩の相手をしていたが、
光里が戻ってこないことが気になり、
なんとか誤魔化してその場を離れ、光里を探した。
光里は少し離れた校舎の影で座り込んでいた。
顔が赤い。喉がヒューヒューと鳴っていて、
息が苦しそうだ。
「光里! 大丈夫か?」
俺は光里に近寄った。
「ごめん、先輩にはアレルギーのこと言わないで。
ちょっとだけなら大丈夫だと思ったんだけどな」
「ほらこれ飲んで!」
俺は水のペットボトルを買って、光里に渡した。
アレルギーがあるなんて知らなかった。
「断ればよかったのに。何かあったらどうするんだよ」
「蓮、あの圧に勝てる?
わたしは無理。それに、せっかく買ってきたのに、
アレルギーって言われたら、なんか申し訳ないじゃん」
光里は水をがぶ飲みし、少し休むとみるみる
顔色が戻ってきた。
「ほんの少しのアレルギーだから大丈夫と思ってたのに。ごめんね。これからは気をつけるね」
俺は二度と光里にナッツを食べさせないと誓った。
じゃあなぜ、ナッツが有名な店のフィナンシェを買ってきたかって?
もちろんこの辺で最近有名だから、
他のスタッフさんが喜ぶと思ったから。
でも本当は、心のどこかで思っていたってことに気付く。
光里の「なぜ、アレルギーのこと知っているの?」
っていう顔を見るまで自分では気づいてなかった。
そう、俺はきっとどこかで気づいてほしいと思っている。
俺しか知らない光里。
それを見せることで、もしかしたら俺は蓮なのかもしれないと気づいてほしいと。
バカだな。
それじゃ俺は消えるのに。
蓮と気づかれたら終わり。
俺を、今の俺を愛してもらわなければ意味がない。
今、光里が隣にいる。
一度は諦めた。
もう二度と見つめることも、
触れることもできない。
だが、こうやって隣にいる。
もう一度、手が届く距離に。
そう、俺をもっと知ってほしい。
会議が始まった。
ありがたくも前回好評だったという俺の企画の
第二弾を組んでくれるらしい。
どういった内容にするか、それぞれが企画を出す。
俺は手を挙げた。
皆が俺を見る。もちろん光里も。
「俺から企画いいですか?」
光里が驚いて俺を見る。
「うん。どうぞ」
「俺の密着取材をしてくれませんか?」
里香さんが答える。
「密着って、プライベートもある程度、
取材させてもらわないといけなくなるけど
颯さんは大丈夫なんですか?」
「もちろんです。自分で言うのもなんですが、
俺ってよくわからないって言われるんです。
なんか謎っぽいとか」
一同が笑う。
「だから素の俺を知ってもらって、
読者の方に覚えてもらえたらなぁって」
「いいんじゃない? 颯君はミステリアスって
言われているから、そうね、見出しは、
『ミステリアスな彼の日常』みたいな?」
光里が里香さんを見て言うと、
里香さんも大きく頷いている。
里香さんがメモをとりながら、
「じゃあ、担当は誰にしましょうか。
何日か、颯さんと一緒に行動してもらう……」
「光里さんでお願いします!」
一同がざわつく。
光里も驚いて俺を見た。
「俺の特集を組んでくれた光里さんに
恩返ししたいんです。
絶対、いいものにします。
お願いします!」
俺は頭を下げる。
困っている光里に対して、里香さんが言った。
「では決定します。
企画は『ミステリアスな彼の日常』。
担当は光里さんで。
みなさん、リーダー自ら動きますので
フォロー、バックアップよろしくお願いします。
ではこの議題はこれで終了」
光里は俺を見てなんとも言えない顔をしていた。




