16.アレルギー
「打ち合わせ、何時からだっけ?」
私はテキパキ準備を進める里香に聞いた。
里香は手を止めずに答える。
「14時からです。
議題は、次の特集と、
前回大好評だった……」
「俺の第二弾ですね!」
振り返ると、入り口に颯が立っていた。
さっきまで、全く手伝おうとせず
無駄話をしていた若手女性社員たちが、
急に色めきだち、動き始めた。
「これ差し入れです」
颯は一瞬で空気を変える。
これが「ミステリアス」と呼ばれる何か、なのか。
入り口近くに立っていた、若手女性社員Aが
受け取ろうと近寄ると、
颯はすっと通り過ぎ、準備をしている里香に
差し入れを手渡した。
「準備、ありがとうございます」
にこりと笑う颯に里香は一瞬で頬を赤くして、
そして首をふった。
「やめてください。
その笑顔は殺人クラスです。
あら、これは? 行列ができるお店のでは?」
差し入れの袋を見つめる里香に颯が言う。
「俺の後の人で売り切れ。
ギリギリセーフ! 」
いつも思う。
持っている人と持っていない私のような人。
その境は、俺の次の人と次の次の人の差。
俺は持っている勢。
次の人はギリギリ手に入る、ギリギリ持っている勢。
そして次の次の人。
目の前で欲しい物が手に入らない。いわゆる可哀想界隈。
私は間違いなくそれだ。
なんて、ふとつまらない事を考えていた。
そして思い出す。
そのお店、今流行りの健康志向で、
体に良いナッツを使用しているフィナンシェが有名。
残念! 私は実はナッツに軽いアレルギーがあるのだ。
「光里さんにはこれね」
颯が隣に来て、小さな袋を手渡す。
「ナッツ抜き。それとあとこれ」
と言って、ブラックコーヒーを手渡す。
「……なんで?」
颯ははっとしたよう顔を一瞬見せたように見えた。
でもすぐにいつもの顔になり、
「前に言ってませんでしたっけ?
アレルギーって」
とにっこりと笑う。
本当にその笑顔は殺人級だ。
思わず颯に見惚れてしまった。
「照れるじゃないですか」
颯は本当に照れたように目を逸らした。
里香がニヤニヤとこちらを見ている。
なぜ?なぜ私がナッツアレルギーがあることを知っているの?
前に言ってた?前っていつ?
頭の中でぐるぐると疑問が回る。
14時を告げるアラームが鳴った。
「では打ち合わせを始めるので席について下さい」
とにかく落ち着こう。
そう思っている矢先に颯が私の隣の席に座った。
もう、どうして私の気持ちをかき乱すの?
そう、なぜ彼は私の気持ちをこれほどまで……。
もう二度と、こんな気持ちになることなどないはずなのに。




