14.ノート
鍵をあけて部屋に入った。
なんだこの違和感。
嫌な予感は的中した。
「いい加減にしてくれよ。
死神界にはプライバシーってのがないのか?」
それほど広くない部屋の、
それほど大きくもないソファーで
寝そべっている前世の俺のそっくりさんに
俺は話しかけた。
「お帰り。
って人間って変だよな。
お帰り! って叫ぶと帰れ!って意味なのに、
お帰り〜って優しく言うと、
お疲れ様〜てきな?
ほんと難しい。今度日本語教えてくれよ」
ふと見るとソファーの前のテーブルには、
懐かしいノートが置かれている。
「まさか、読んだのか?」
死神はにやっと笑う。
本当に嫌な顔だ。
何が美しすぎる彼だ。
本当に人間は勝手なもんだ。
「結局、なんて言ったら付き合えたんだ?」
死神はノートをペラペラめくりながら俺にたずねる。
俺は死神からノートを奪い取り、
「なんでもいいだろ?どれもオッケーだったんだよ」
「へ〜俺の太陽だ。
人間ってそんな言葉で喜ぶんだ」
やめてくれ。はずいだろ。
そう、そのノートには俺の黒歴史が書かれている。
「俺と付き合ってくれませんか?」
光里にそう告げた時、光里は頷いた。
そしてとても嬉しそうにした顔を
一瞬で元に戻し、こう言ったんだ。
「人生で記念すべき初めての告白なの。
もう少し、なんかもう少し言って」
俺は頷いてくれた瞬間の過去最大の喜びを
返してくれ、と思いながら光里に聞いた。
「そのセリフがいまいちだったら?
まさか付き合うって言った言葉を取り消しなんてことに
ならないよな?」
光里は少し考えるふりをした。
俺は焦った。
光里はすぐに爆笑した。
「取り消しはしない。
だって……待ってたんだもん。
でもせっかくだから、もうちょっと何か言って。
だって、もしかしたらもう一生、告白されること
ないかもしれないでしょ?」
俺はその意味を考えた。
そう、俺は一生で一度の告白をしたつもりだ。
人生何が起こるかわからない、というが
俺は生きている限り、光里を愛する自信がある。
だから、誰かに告白することは二度とない。
もしかしたら光里もそう思っていてくれているのか、
なんて俺は期待した。
そう、一生に一回の告白なんだったら、
もっと洒落た言葉がいいかもしれない。
「わかった。1日待ってくれ。
明日、もう一回告白させてほしい」
光里は嬉しそうに笑った。
俺はその笑顔を絶対に壊さないと誓った。
ノートには色々な言葉が書かれていた。
今見れば恥ずかしいものばかり。
君は俺の太陽だ。
光里は俺の天使だ。
一生尽くします。
俺のパンツを洗ってくれとは言わない。
君の朝食を作らせてくれ。
……語彙力のない文言ばかりだ。
でも結局この言葉を選んだんだ。
「どんなことがあっても、
どんな姿になっても、
僕は君のそばにいるよ」
俺はノートを奪い、カバンの中に放り込んだ。
「で、いつまでいる気だ?」
振り向くと、奴の姿は消えていた。




