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12.愛する目

「光里さん、これ知ってます?」


事務所に帰ると、後輩の里香が話しかけてきた。


里香は小悪魔的な魅力をもつ。

おしゃれで流行りにも敏感。


仕事は熱心で、勘がいいというか

鋭い感覚をもっている。


そんな里香の話に私は興味津々で

食いついた。


「何なに? なんかとっておきのネタでもあった?」


里香が手に持つPadを見ると、そこには見慣れたイラストがあった。


私は思わず、口に入れかけていた

高級チョコレートを落としてしまった。


ささやかな幸せだったのに、といっている場合じゃない。

私が思っているより、はるかにネットの世界の

時速は速い。



「美しすぎる彼って今話題になっていて。

めっちゃかっこいいですよね。


こんな人、ほんとにいたら拝みたい」


「拝むって。イケメンなんて、この業界にいたら

いっぱい会えるじゃない。


颯君だって次世代の国宝級イケメンだと思うよ」


私は、動揺を悟られないように話の芯をぶらした。


しかし里香は続ける。


「なぜこれがバスってるかなんですけど、

全てが謎だからなんですよ。


モデルも絵師もなんの情報もないんです。


おかしくないですか?

こんなイケメン、芸能事務所がほっておくわけないし、イラストレーターもなぜ名乗りでないんでしょう。


取材したいな〜」



「実在するとも限らないじゃん?

そのモデル、完全にイラストレーターの妄想かもよ」


里香はマジマジとイラストを見つめる。



「確かに。

でもね、この視線っていうんですか?

見つめる先に絶対に誰かがいる感じがするんです。


そこが話題というか、考察なんかでちゃったりしてるんですけどね。


ただの妄想ではこの目は描けないと思うんです。

その先には絶対に誰かがいる。

それが誰かっていう考察が結構でてて、

愛する彼女説、とかね。


だからこのイラストにみんな惹きつけられる。


わかります?

わかんないかな〜仕事魔の光里さんには」


なんと返していいのかわからず、私は

もう一つ残っていたチョコレートを頬張った。

甘いはずのチョコレートが、

なぜか苦く感じる。


「悪かったわね。仕事魔で」


「どうせ颯さんもいい仕事ネタだと思ってるんでしょ。


でもね光里さん。

私わかるんです。


颯君、絶対に光里さんのこと好きですよ」


私は頬張っていたチョコレートを吹き出しそうになる。



「やめてよ。んなわけないでしょ。

お互いビジネスに決まってるじゃん」



「間違いないですって。私、光里さんよりは

女子力高いんですから。



それこそね、光里さんを見つめる目がこれなんです」


里香がPadを指差し、私に見せる。


そこには蓮のイラストがあった。


「愛する目っていうんですかね。

私もこんな目で見つめられたい!」


私は思わずPadから目を逸らした。


そう、気づいていないといえば嘘になる。

颯の視線。


でも気づいたら、私は動けなくなる。

だから、気づいてはいけないの。

気づいたら、もう戻れない気がするから。

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