10.約束
「約束」か……。
奴は言った。
まだ叶えられていないことを叶えろと。
チャンスをやると。
忘れているはずないだろ?
だからこうやって俺は今も必死に
光里の気を引こうと努力しているわけさ。
そう、言い換えれば、叶えられなければ
俺は死ぬということなのだから。
そしてあの時の妊婦さんも。
叶えられていないこと。
それは……光里に愛されること。
わかっている。難しいってこと。
そしてわかっている。
簡単なやり方もあるってこと。
それは……俺が本当は蓮だってことを告げること。
今、流行りの転生のジョーク?
光里はそういって信じないだろう。
そりゃ俺が一番信じられないのだから
当たり前だ。
だが本当に俺の前世は蓮って奴だった。
だったらウジウジせずに真実を告げたらいいじゃないか?
実は俺は今、主治医の顔をしているあの男と
二つの約束をしている最中なんだ。
そう、一つ目の約束。
それは、俺がこの颯って奴になる時に交わされた。
その約束は……光里に俺が蓮だと絶対に気づかれては
いけないというものだった。
俺が蓮だと光里に気づかれたらアウト。
俺は消滅するらしい。
そしてこの事故だ。
そう、アイツはバスの中で俺を見て言った。
つくづく運の悪いやつだな。
自分でも思うさ。
死神と2回も約束かわす奴、そうはいない。
そして二度目の約束を交わす羽目になった。
それが、まだ叶えられていないことを叶える。
そう。光里に愛されること。
蓮だと知られずに……。
とんでもない約束をしてしまったもんだ。
俺は一度目の死神との約束を交わし
颯となり、光里のそばにやってきた。
颯ってやつはちょっと訳ありで、
ここまで来るのにかなり努力もした。
そしてやっと光里の目に入るところまでやってきた。
そりゃ愛されたいと思っていたさ。
だが、どこかで思っていた。
本当に俺を、蓮を忘れてしまうのも怖いって。
だからどこかで逃げていたんだ。
蓮を思い続ける光里のそばに居られたら
それでいいって。
なのに今度は妊婦さんの命まで?
お腹の子供からしたら、産まれさせてくれって話だよな。
そしてどうやら、俺のイラストが話題になっているらしい。
anemone?
知らなかった。光里が俺をずっと描いてくれていたこと。
嬉しかった。
だが、今の俺のライバルがかつての俺だと
思い知る。
死んだやつに勝てるか?
さあて、どうしたもんだろう。
俺はどうすればいい?
どうすれば、俺は颯として光里から愛される?
光里は蓮の、俺のどこを愛してくれていたのだろう。




