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アレしか自慢のない俺、風俗にイったはずが異世界に行くことになった  作者: きし
第十章『堕ちた英雄 消えたヒーロー 反抗のヒロイン』
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 ザブリウスは、ただぼんやりと幻獣ファントマが消滅する様子を観察していた。

 ザブリウスの家系の大本は、ある魔法使いから始まる。その魔法使いの男の名前は、始祖バルデウス。

 何百年も昔には禁忌とされていた魔法に触れ、それを操るようになったバルデウスは、そもそも発想が人とは違っていた。

 本来なら人類が何百年もかけて到達するような場所を、バルデウスはその頃から見つめていた。

 始祖は知っていた。いずれ、人類が他種族に淘汰されることを。では、どうしたものかと考えた始祖は、何種類ものの種族との配合実験を始めた。


 伝説の書物では、世界中を旅したバルデウスに種族間を越えた美女達が惚れ込み誘惑をしたということになっている。だが、それは大きく違う。

 婚約者のいるエルフ族の女を洗脳し、

 家族を人質に花妖精族の女を監禁し、

 無理やり魔法で屈服させてダークエルフの女を操り、

 激痛の走る首輪をギララ族に嵌めて連れ帰り、

 足の腱を切り落としたウルフェス族を誘拐し、

 バルデウスの伝説には書かれはしないが、彼の研究資料には非人道的な実験が書かれていた。

 実験と呼べるものはまだいい、中にはバルデウスの欲望の玩具にされた女性もいた。


 伝説の書物では、バルデウスは他種族から唯一祝福された人間の王となっている。

 違う。散々と他種族を苦しめ、長を捕らえ、人質を大量に連れ帰り、操り、殺し、脅迫し、救いを求めて懇願させた。

 人間達は言う、バルデウスは世界一の王だと。

 他の種族の者達は言った、永遠に血脈からも消えることのない悪だと。


 伝説の書物では、バルデウスは死の直前まで家族に愛を囁き種族の繁栄を祈ったとされる。

 そんなことはない。バルデウスは必死に生にしがみつき、不老不死の実験が失敗した後は、エルフの娘を連れて来て乱暴をした後に血を飲んだのだ。結果、覚悟を決めていたエルフ族の娘が己の命と引き換えにバルデウスを殺したことで、暴君の暴走を止めることとなる。


 結論から言えば、バルデウスは子を残すことはなかった。子が成長する前に、バルデウスは何らかの形で子の命を奪ったからだ。


 だが、その子供として認識されて育てられた存在もいた。

 家族には誰もバルデウスとの繋がりはないが、祖父と祖母が唯一ザブリウスの実験の生き残りだった。

 生まれながらにして、種族の耳や肌の色を変化させることができる二人が愛し合い結ばれ、そうやってザブリウスの父が生まれ、そして母と出会い――現国王ザブリウスが誕生した。


 奇跡的にもバルデウスの被害者である家族は世界を恨むどころか、世界の復興に取り掛かったのだ。

 世界を傷付け続けた人間の王がどこへ行っても辛い言葉をかけられ、命を狙われることもあったが、ザブリウスの家族はみんなが本気で世界をより良くしようと戦い続けたのだ。

 無論、ザブリウスもその一人である。だが、両親とも祖父とも違う。目指すところが、さらに高みにあるというだけで。


 城内に侵入したエルフ族達の始末を終えたザブリウスが、城前に出ると隠れることもせずに瓦礫を踏み越えて近づいてくるアキホを見つけた。


 「まるでいつかのバルデウスのようじだな」


 呟いたザブリウスの思想そのものが、バルデウスに近いことなど彼は気づかぬまま薄く笑う。


 「ああ、歴史に隠された暴君て奴ね。アンタにそっくり」


 アキホは鼻で笑い飛ばす。


 新たな歴史に刻まれることになる暴君ザブリウス暴君アキホが互いの攻撃範囲に入った瞬間、空間を魔法陣が爆ぜた――。




                ※



 

 「――アイギスっ!」


 ザブリウスの炸裂する魔法によって炎と突風に視界を殺されながらも、アキホの前方に構えた白衣が形を変えて彼女の体を守る。

 爆風が抜ければ、前方には既にザブリウスの姿は消えていた。瞬間に、アキホは自分の成すべき事を実行に移す。


 「モードチェンジ、シェルター!」


 白衣を頭の上からすっぽりと被ると、アイギスはアキホの全身を包み込む球体に姿を変えた。

 直後、球体に体を隠したアキホへと水で出来た何百とも数えられないほどの槍が降り注ぐが、アイギスの球体は容易く弾き液体に変化しただの水溜りになる。

 水の槍を発生させた張本人であるザブリウスは、アキホの頭上で魔法陣の上に乗り空をゆったりと浮遊していた。

 小さなシェルターのようになった空間でじっと身を小さくさせていたアキホは、外の様子を確認しようとするが、微弱な震動を感じてすぐに考えを改めることとなふ。

 水溜りは、小刻みに揺れて球体になったアキホをさらに上から包み込んだ。


 「球体の中でも、息は持つようだな。ならば、自然相手ならどうだ?」


 高みの見物でもするような言い方でザブリウスが言う。

 球体になったアイギスを包んだ水の玉の水面に魔法陣が出現すれば、水の中のアイギスの球体が大きく震動を始めた。そして、べこりべこりと音を立てて球体に周囲が凹み出す。


 「水圧で握り潰すつもりね……。そんなもので、押し潰されないわよ」


 アキホの望みに答えるようにして球体のところ凹んだ外側が、内側から押し返すようにして元通りの丸みを取り戻していく。さらに、水圧を強めてボーリング玉のような穴が開いたかと思えばそれが元の形を取り戻し状況は変わることはない。


 「お前だって本質は同じではないか? 私を殺す道具を作り、過程のその果てで大勢を殺す。それを高尚な行為だと言い訳をしながら野望を貫くというのだろう? 魔法を使えないお前に、薬や道具の使い方を教えたが、まさかこのような結果になるとはな。だがまあ……科学はいつの世も自然に屈するものだ。……では、これならば?」


 ザブリウスは手の平を広げて、再び握り締めた。

 次は水の球の上に先程とは別の魔法陣が浮かび上がる。そして、水の玉はみるみる内に色を変えて温度を上げて単なる水の液体だったものはマグマの玉に変質した。

 マグマの球体は沸騰し弾け、最初は半透明だったもののヘドロ状にどろどろと地面に垂れ落ちれば、地面に穴を空けて土へと染み込んでいった。

 じっくりとマグマの中でアイギスの球体を沸騰させれば、握っていた手を素早く開いた。


 「滑稽な最後になりそうだな、アキホ。過去の伝説の魔法使いバルデウスのことは知っているだろ。お前をそのまま生かせば、お前は次代のバルデウスになる。ここでお前を殺しておくのが、世界の意思というものだ。最低最悪の魔法薬師となった、お前の最高傑作も形無しだな」


 マグマの球体は小さくなりアイギスとほぼ同等の大きさになれば、魔障が増幅すると同時に周囲十数メートル巻き込むほどの爆発が起きた。


 「むっ」


 爆風の中から吐き出されるようにして球体が空中へ飛び上がった。いや、既にそれは球体の姿はせずに、外側を虫に食べられてしまったような歪な逆三角形の形をしていた。

 爆発に押されて自分の眼前に並びたった球体の内部のことをザブリウスは考える。

 マグマの中に居たことで既に干からびているか、それとも、強い衝撃によって変形したシェルターの中で体を潰されているか、魔法の力で透視することもできないアイギスの内部をザブリウスが凝視したその時だった――。


 「モードチェンジ――!」


 ザブリウスは目を大きく見開いた。球体が本のページをめくるように、バラバラとめくりあがっていけば、熱さのせいか服の胸元をはだけ白衣を握り宙に漂うアキホが居た。

 ザブリウスとアキホの目線が正面から交錯する。


 「――アイギスの槍!」


 白衣の状態に戻ったアイギスが、今度は裾から内側へと回転しとぐろを巻けば、先端の鋭利なアキホの身長程の大きさの槍に形を変えた。

 槍程度ではザブリウスは死ぬことはない。だが、この土壇場でアキホが初めて武器らしい武器を握ったのだ。懐に注射器を隠し、白衣を盾に使う女がこれだけ分かりやすい武器に仕掛けを用意していないわけがない。ザブリウスから見ればアキホが博打を打つには、まだ余力がある過ぎる気がした。

 両腕を下げたままザブリウスは目の前の空間に魔法陣を形成する。そのままアキホが槍を握り構えている間に、魔法陣からは空気を震動させる鋭い衝撃の爆発がアキホを襲う。――と同時に、アキホの手から槍がザブリウスへと投げられていた。

 魔障を感知できる者にしか分からない、魔法が崩れる不快な音がザブリウスへ槍が届くよりも早く聞こえた。

 アキホの投げたアイギスの槍は空気を震動させる魔法を貫き、粉砕し、なおも勢いを殺すことなく、むしろ粉砕した魔法を上乗せするようにして槍はザブリウスへと一直線に向かった。


 「小癪な! ――ぐうう!?」


 ザブリウスが左手を上げれば、即座に防御のための魔法陣を発動させる。魔法陣と槍先が衝突し、一時は動きを停止させるものの意思を持つかのように槍は回転し魔法陣すら巻き込み崩した。

 防御手段を失ったザブリウスは、表情から余裕を消すと左腕の五本の指先の爪を剣のように伸ばして前方に突き出し衝突すればザブリウスの体は槍と共に半壊し城へと突き刺さるように墜落する。

 槍と共に城の瓦礫に飛び込んでいくザブリウスを横目にアキホは小さく笑うと、懐から注射器を取り出して自分の腕に針を刺せば液体を注入する。そして、たった数秒の間にアキホの肉体に強化魔法が施され行き渡った状態になり華麗に肩膝をついて着地をした。


 「一か八かだったけど、魔法薬がうまく体に順応して良かった……。帰っておいで、アイギス!」


 瓦礫の中から血の付いたアイギスの槍が飛び出すと、腕を伸ばしたアキホの手に飛来すると腕に絡みつき、アキホが身動き一つしないまま主の意思を察する忠犬のように白衣に戻る。

 グーパーと両手を広げて閉じたりを繰り返したアキホが、瓦礫の崩れる音に視線を移せば肩をすくめた。


 「……この程度では、死なないのは分かってた。分かってたからこそ、手を打った。ずっと、ずっと、前からね」


 瓦礫から右腕の豪腕が出現し、手が地面に触れて支えにして体を地表に再び出現させたのは――ザブリウスだ。

 ザブリウスは左腕から血を流し、五本の左の指先は無残にも根元からへし折られ、肩から手の甲にかけては槍を強引に逸らした際のダメージで受けた傷の裂け目が確認できた。

 目元から血を流し、青年だった顔は老人に近くなり、顔には老人特有の染みも浮かんでいた。なおかつ、ところどころ傷付いたザブリウスの体は明らかに受けた怪我以上に――劣化していた。


 「――私に何をした!? アキホッ!!!」


 「秘密の弾丸を槍の中に隠して、アンタに向かって撃ち込んだのよ」


 頭に血が上っているせいか、ザブリウスは些細な傷のことなど気にしていない様子だ。――些細な傷、ザブリウスの右腕には注射針が刺さっていた。


 「私の弾丸はゼロ。でも、弾丸だけじゃ絶対にアンタには勝てないのは織り込み済」


 「じゃあ、どうして私が……こんなっ……!?」


 文字通り血反吐を吐きながらザブリウスが吼えた。


 「アンタは魔法使いであることにこだわり過ぎたのよ。ザブリウス、アンタが一番知っているでしょ? ――私は魔法薬師なのよ」

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