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第四話 髪と光と身体の白:後編





放課後……

―放課後―


「んじゃ、私ちょっと寄るとこあるからー」

「ん、また明日な」


 帰り際のホームルームを終えた夕暮れの教室にて、妙に急ぎ足の明日香を見送った昇は、掃除当番として箒とちり取りを片手に掃き掃除の仕上げに掛かっていた。


「終わったぞ」

「おぅ、そうか。ィよォしオメーらァ、あとは俺がゴミ捨て行くから今日は引き上げだぁー!」

「お疲れーぃ」

「何時も悪ぃな、大喜多ぁ」

「気にすんねェ、この程度どーってこたぁねーよ」

「何時も悪いな、大喜多君。それじゃお先にお暇させて貰うよ」

「良いって事よ、坂の字にゃ世話んなってっからなー」


 豪気な男子生徒・大喜多は二つのゴミ袋を肩に担ぐと、大きく開け放たれた窓から飛び降りていった。

 しかし、その直後。


「ウルァ大喜多ァァァァ!オメェまた窓から飛び降りとんのかコラァア!」

「っひぃぃぃぃ!お許し下せぇ、高木先生ー!」

「待てやぁぁぁぁ!」


 地上に降り立った大喜多を待っていたのは、筋者のような強面と厳格な性格で知られる数学教師・高木からの執拗な追跡だった。この後彼がどうなったのかは、読者諸君のご想像にお任せしたい。


「……相変わらずだな…。

さて、私もそろそろ帰るとするか」


 カバンを手に取った昇が教室を出ようとした時、ふと背後から彼を呼び止める者が居た。クレールである。


「坂原さーん」

「あら、ヴィドックさん。一体どうしたんです?」

「ちょっと来て頂きたい所があるのですけれど、宜しいでしょうか?」

「来て欲しい所、ですか。えぇ、構いませんよ。どうせそんなに用事もありません。ほんの一時間程度ならば」

「有り難う御座います。では、視聴覚室の前で落ち合いましょう。私はこれからまだ少し用がありますので」

「解りました」


 かくして昇は第七校舎三階の教室から、第三校舎一階の視聴覚室へと向かった。


―視聴覚室前―


「さて、言われたから来てみたものの……何故視聴覚室なんだ?というか、何故彼女がこの場所を――ん?」

「坂原さん、お待たせしました。さぁ、中へどうぞ」

「え、あぁ、はい。しかしよく視聴覚室の使用許可が取れましたね。生徒だけで使わせて貰える事はほぼ無いというのに」

「誠意をもって事情を話したら、特別に許可を頂けたのです。逆夜先生のご協力もあっての事ですけれど」

「ふむ……逆夜先生がねぇ……」


―視聴覚室―


 昇を椅子に座らせたクレールは、手際よく液晶テレビとDVDレコーダーを起動する。


「まずはこの映像を見て下さい」


 そう言ってクレールが再生したDVDに映し出されたのは、特殊部隊の歩兵を思わせるスーツを着込んだ覆面の男女が、何やら異形の化け物を相手に銃や刃物で戦うといった内容の映像だった。手持ちカメラの撮影なのか、やたらと手ブレが酷い。


「良い映像ですねぇ。自主制作映画ですか?良くできてる。主役格の二人―うち一人はヴィドックさんでしょうか?ともかくお二人の演技が秀逸だし、この半漁人のような化け物の演出も素晴らしい。何より、敢えて手持ちのカメラで撮影し編集を用いない事により、情景がよりリアルに伝わってくる……もしかしてヴィドックさん、フランスでは映画制作を?」


 などと軽々しく問いかける昇だったが、しかし彼の予想は大きく外れることになる。


「これが架空のものだったら、どんなに良かったでしょうね……」

「え?」

「坂原さん……残念ですがこの映像、映画ではないんです」

「……んなっ、どういう事です?」

「言葉のままですよ。この映像は半年前、デンマークで撮影された紛れもない事実……我々『RTA』と『ワーズ』との戦いの記録なのです」

「RTA?ワーズ?戦い?……ヴィドックさん、一体何を言ってるんです?あなた何者ですか?何故私を呼びだしたんです?というか、目的は?陀京寺だけいじの神体について調べているというのは嘘だったんですか?」


 自己紹介は嘘だったというのか?そんな馬鹿な。彼女はこの近所にある寺院・陀京寺に治められている神体にしてその名の由来でもある謎のミイラ・蛇鶏と、中世フランスに伝わる魔物・コカトリスの関連性について調べに来たのではなかったのか?それが嘘だとしたら、この女の目的とは何なんだ?

昇は怒濤の勢いでクレールを問い詰める。対するクレールはそんな彼の剣幕に気圧されながらも、どうにか昇を落ち着かせるに至る。


「落ち着いて下さい。そんな一気に質問されても答えられませんよ。順番に話していきますから、まずは座って。陀京寺の件も嘘じゃありません。その辺りも説明しますから」

「……失礼、私も冷静さを欠いていたようですな。良いでしょう、話を聞かせて下さい」

「はい。では坂原さん、『禁忌』というものをご存じですか?」

「禁忌というと、主に宗教学や人類学でいう所の『してはならぬこと』『手出ししてはならぬ分野』などといった意味合いでしたかね。主に社会的道徳・倫理・常識に反する事物の総称とも聞きますが」

「そう、その通り。この世には、近寄ることさえ許されない禁忌というものが存在します。厳密には、文明社会に於ける法規・思想等によって定義されるものですけれど」

「現代でもよく耳にしますが……その『禁忌』が何か?」

「はい。では坂原さん、話は変わりますが『九十九神』というものはご存じで?」

「『九十九神』?使い古された器物が自我を持ち妖怪めいた存在になるというあれでしょう?この国の人間なら大概誰でも知ってますよ」

「良かった、説明する手間が省けましたよ」

「それは何より。それで、それらに何の関係が?」


 昇の問いかけに、クレールは軽く咳払いをしてから真顔で答えた。


「……では、改めまして。政府機関RTA・超常現象対策部隊三等戦闘員、クレール・ヴィドックと申します。以後、お見知りおきを」

「政府……機関……?超常現象対策部隊……?」

「驚かせてしまってすみません。こう見えて私、実は裏社会の人間なんですよ。RTAとはResistance to abnormalities―日本語訳で『異常への抵抗』になるんですが―それの略でしてね」

「はぁ」

「要は警察の手に余る大小様々な犯罪や災害、超常現象などといった脅威を駆逐する秘密結社みたいなものでして、私は妖怪退治なんかが主な仕事でしてね」

「……俄には信じがたいですねぇ、とても現実だとは思えない。しかしその政府機関が、何故私のような人間の元へ?私は刺して取り柄のない只の一般人、妖怪退治に役立つわけが……」

「そう思われるでしょう?しかし実際は違うんです」

「と、言うと?」

「十日前、情報部から情報が回ってきましてね。大雑把に言えば『日本人の少年が児童公園で通り魔を殴り倒した』とか」

「!?」


 昇は絶句した。何故彼女がそのことについて知っているのか。あの時は確かに我を忘れていたから周囲の事など気にも留めていなかった。よって誰かに見られている事は懸念していたが、まさか政府機関に知られていようとは思いもしなかったからである。


「驚くのも無理はありませんがね、しかし受け入れて頂かなければ困るのですよ」

「……ここまで聞かされて『受け入れられない』と答える馬鹿が何処に居ます?興味本位がこじれてあんな事になったんだ。覚悟なんてものじゃないが、もう進むしかないのは明白です」

「ほう、案外あっさりした答えですね。東洋人は用心深さ故に思い切りがないと聞いていましたが」

「あくまで傾向の話であり、皆が皆常時そうとは限りますまい。それよりも、ですよ。あのミイラのような男は何なんです?『ワーズ』とは一体?私はどうなってしまったんですか?」

「わかりました。改めて順番に話しましょう。

まず『ワーズ』ですが、平たく言えば『言葉の九十九神』ですね。詳細な原理などは未だ不明のままですが、何らかのエネルギーが言葉という情報を得て意志を持つ概念へと昇華したものであるという事は解っています」

「ふむ」

「ワーズの原型たり得るのは、社会的な禁忌に関する言葉に限られます。嘗ては黒魔術や陰謀論等が主だったんですが、近頃はよく言われる『検索してはいけない言葉』を原型に選んだようですね」

「なるほど。それで、そのワーズとやらは具体的にどんな悪さをするんです?」

「今までの調査記録が確かなら、ワーズの活動は至極単純なものの繰り返しです。まず負の感情が高まった人間に憑依し、それに常軌を逸した異能の力を与えます」

「ほう」

「更にこの時、憑依対象に破壊的・反社会的・背徳的な活動をするよう働きかけ、それと同時にその心身を蝕み力を蓄えていくのです」

「憑依した人間が死亡した場合は?」

「次の憑依対象を探すまでですよ。強力なものでは憑依対象の乗り換えが普通になってきます。最も、力を蓄えた先で何を成すのかは解りませんが」

「成る程。つまりあの男はワーズに操られていたと」

「そうなりますね。あの男に憑依していたのは『ディルレヴァンガー』や『こげんた』という言葉を原型に選んだ中堅ワーズです。この言葉についてはご存じですか?」

「えぇ、一応最低限の知識はありますよ。もう数年以上も前のある春に福岡県福岡市のマンションで起こった、余りにも忌々しく思い出すだけで胸糞悪くなるあの事件ですよね。『ディルレヴァンガー』とは犯人がネット上で名乗ったハンドルネームで、『こげんた』とは被害者の猫に僧侶がつけた戒名だった筈です」

「最低限という割によくご存じじゃありませんか。猫を愛するが故に猫嫌いや猫虐待を憎悪し、転移や探知、怪力といった汎用性の高い異能で殺して回っていたんです」

「恐ろしい話だ……しかしそんな奴を拳一発で消し去り時空さえ歪めてしまった私とは一体何なのか……」

「恐れることはありません。それこそ私があなたに目を付けた最大の理由、対ワーズ最大の切り札『シール』なのですから」

「シール?」

「封印という意味の英単語ですよ。その名の通りワーズのエネルギーを封印してしまう異能です」

「封印、ですか」

「実質的には抹消と修正ですがね。憑依対象からワーズを消し去り、時空間に働きかけることで事件を在るべき形に修正するエネルギー。それを産み出し操る力こそ、シールなのです」

「妙にどえらい事になってませんかそれ。というか何でまたそんなものが私の身体に?」

「残念ながらそこまでは……ただ、シールの持ち主は同時に一人しか存在できないようで、我々RTAは創設以来ワーズへの対抗手段としてシールの持ち主を迅速に見つけ出そうとしたり、持ち主たりえる人材の育成に躍起になっていますよ」

「同時に一人だけ……つまり、先代の持ち主は?」

「殉職しました。先程お見せした映像に映っていたでしょう?あの後ワーズを追い詰めたのですが……」

「そうでしたか……失礼」

「良いんですよ。過ぎたことです、今更あれこれ言ったところでどうしようもありません。それより問題はワーズですよ。ワーズはシール以外によっても絶命こそしますが、それは憑依対象が死亡したことで一時的に活動不能に陥ったに過ぎません。つまり、単純な武力だけでは鼬ごっこになるだけなんです」

「ならば尚更、あなた方に協力せざるをえませんな。しかし問題は、ワーズをどう探るかだ。私の記憶が確かなら、事件を調べる切っ掛けになったのは頭から離れなかった『ディルレヴァンガー』という言葉です。これがシールの一機能だとするならば、ワーズ出現くらいは解るのでしょうが、しかし曖昧すぎる……」

「その点についてはご安心を。RTAはシールの確保のみならず、それをより効率的に活用する方法も編み出しています」

「……?」

「私の身体には、ワーズの存在を詳細に探知する異能『フィール』が宿っているんです。その気になればどこにワーズが出ても探知が可能です」

「それは心強い」

「まぁ、坂原さんが相手にしたワーズの方は予定が立て込んでいて対処に向かえませんでしたがね」

「何やかんやで上手く行っているんですから構わんでしょう。それよりヴィドックさん、そのフィールとやらで今現在どんなワーズが何処にいるのか探知できますか?」

「えぇ、勿論できますよ――今、この学校に居ます。それも、超弩級の化け物がね」

「なっ……!?」


 再び絶句する昇に、クレールは静かに言い聞かせる。


「大丈夫ですよ。まず私が弱らせて、動けなくなった所で坂原さんがとどめを刺せばいい。簡単ですよ」

「言うだけならね……」

「そう不安がらないで下さい。大丈夫、あの時の殺人鬼とは違ってまだ本格的な覚醒には――」


『―ンヴルォアァァアアァアアアアアアアアア―――!』


 夕暮れから夜になりかけといった辺りの空に、この世のどんな動物にも出せないであろう不気味な咆哮が木霊した。


「……坂原さん、つかぬことお伺いしますが」

「何でしょう」

「『Fat○/z○ro』って読んだことあります?」

「失礼。漫画版の『月○』ならファンなんですが」

「そうでしたか」

「それで、ファ○ゼロが何か?」

「よく似た状況がありましてね」

「良い状況ですか?」

「いえ……これでもかというくらい死人が出ます」

「あぁ――」


『ゲゥルェァァアアアアアアアアアアアアアアア!』


 言葉を遮るように、再び得体の知れない咆哮と地響きが木霊する。


「兎も角向かいましょう!敵は大型です、取り返しのつかなくなるまえに対処せねば!」

「了解!」


―屋内プール―


 逃げ惑う人々を避けつつ二人が辿り着いたのは、主に水泳部の練習で用いられる屋内プールであった。水族館の巨大水槽にも匹敵する容積を誇るプールの中央を我が物顔で泳ぎ回るのは、ハクジラかサメのようにも見える巨大な白い影であった。

 幸いと言うべきか、プールに昇とクレール以外の人間は居らず、また白い魚影も二人の存在には気付いていないようだった。


「何だあれは……漂白されたウバザメか、倍数体のシロイルカのようだが……」

「勿論ウバザメでもシロイルカでもありませんよ。ワーズに憑依された人間の肉体が変異してああなったんです」

「それはわかりますが、しかしあれは何者です?『検索してはいけない言葉』にあんなものありましたっけ?」

「あるんですよ、これが。『ニンゲン』とか『ヒトガタ』といえばお判り頂けるでしょうか」

「あぁ、あのオカルトマニア共が面白半分で捏造した、極地を泳ぐ不気味な化け物の画像ですよね?まさかあれが検索禁止に?」

「画像そのものが薄気味悪く訳の判らない癖に妙な真実味を帯びたようにリアルですからね、恐がりな方への注意勧告なんでしょう」

「成る程。しかし気のせいか、奴の身体が徐々に大きくなっているような気がするんですが……」

「気のせいではないですよ。前に一度相手をしたことがあるので解るのですが、あのワーズは身体の大きさを自由自在に変化させて、水と新鮮な酸素のある場所なら大抵どんな所へでも瞬間移動できますから。ヴェネツィアではその所為で取り逃がしました」

「なるほど。しかしどうします?シールの扱いはどうにかなるでしょうが、私程度の打撃があれに届くかどうか……」

「それならば心配ありません、これをお使い下さい」


 そう言ってクレールが手渡したのは、一見何の変哲もない二つの小さな四角柱だった。


「これは……?」

「レバーロックナイフですよ。ここのボタンを押せば刃が出ます。対銃刀法仕様の590mm刃体採用の最新モデルでして」

「なるほど……それで、あのでかぶつ相手にどう動きます?」

「根は単細胞ですし、この近辺には大きな池や河川もありませんから、ここは一つ正攻法で行きましょう。坂原さん、元々運動は得意ですか?」

「『可もなく不可もなし』といった具合ですかね。普段動かないので正直そんなに褒められたものではありませんが……それでいて殺人鬼を殴り倒せたのは我ながらわけがわかりません」

「シールの副作用ですね。元々単独で動作するように設計されてますから、持ち主の身体能力強化も兼ねてるんです。しかしなるほど、あれと殴り合って打ち勝てるだけの体力があるならやはり正攻法ですね。あくまで可能な限りで構いませんから、指示通りに動いて下さい」

「わかりました」

「では……」


 クレールは懐からプラスチック製の拳銃を取り出すと、それをプールに向けて放つ。

 放物線を描いて水面に落ちた銃弾は少しの間水中に沈んでから、大きな花火か小さな榴弾程度の爆発を引き起こした。


『ゥヴァア!?』


 水中を泳ぎ回っていたワーズが音に反応し、苛立たしげな声を上げる。


「この場から逃げ出さずに生き延びて下さい」

「……わかりました、それが指示ならば従うまでです」

「その意気ですよ、坂原さん」


『ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ッ!ヴガァアアアアアアアッ!』


 怒り狂ったワーズが、その巨体を揺すって建物全体を振動させるような雄叫びを上げる。


「どうやら久々の水遊びを邪魔されたのがよっぽど頭に来たらしいですね、あれは相当な怒りようですよ」

「自分でやっておいてその言い方はどうかと思いますよ……しかしこの状況で生き残れとは……」

「悩んでても仕方ないですよ。ほら、相手もこちらに気付いたようですし。早いところ逃げないと――」


 その瞬間、大きく振り上げられたワーズの右拳が、二人のすぐ隣のスペースを凄まじい勢いで叩き潰した。


「――こうなりますから」

「ハッ、今更言われるまでもありません」


 等と軽々しく返した昇は、怒り狂うワーズを睨み付けながら軽妙に言い放つ。


「おいお前、大層な腕を持ってるようだがまだまだだな。そんなので私達を殺そうってのか?」

『ンヴェアアアアアアアアアアアアッ!ッガアアアアアアアア!』


 昇の挑発を理解しているのかは定かでないが、ワーズはプールから飛び出さんばかりの勢いで昇に向けて吼える。更にそこへ、面白がったクレールが追い打ちを掛けた。


「ほらほら、殺してご覧なさいな。イタリアで貴方を取り逃がしはしたけれど、次はそうはいかないわ。私と、ここにいるシールとで、次こそあなたを封じてしまうから」


 苛立ちがピークに達したワーズは、野獣のような声を上げながら怒り狂った子供のように腕を振り回した。しかし昇とクレールは、それらを華麗なステップで回避していく。


「さあ来い、ヒトガタ!法螺吹き共が産み出した白い嘘めが!精々稚児のように吼えながら腕を振り回すがいい!」

「お前達はこの上なく哀れ!しかし許すわけにはいかない!暴れるしか脳のないお前は特に!」

「これは裁きではない!」

「そして、救いでもない!」

「お前に罪はない!」

「しかし、功もない!」

「「それこそは、回帰!」」

「在るべき場所への!」

「お前にとっての虚構への!」

「「回帰であるッ!」」


『ヴォゴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』


 気取ったポーズを決めながら抜群のコンビネーションで長ったらしい決め台詞を言ってのけた二人は、そのままワーズの打撃を次々と避けていく。隙を見付けてはクレールが刃物や拳銃でワーズに攻撃し、昇はそんなクレールを補佐しようとワーズ目掛けてコンクリートの破片やビート板を投げつけていく。


「さぁさぁどうしたヒトガタよ!お前は南極で進化した古代人類の生き残りなんだろう!?」

「だったら見せてみなさいな!原始的なこの私達に、進化した貴方の生き様を!」

「それが無理なら、せめて散り様で私達を楽しませろ!」

「さぁ、試合は始まったばかりよ!?」

「お楽しみはこれからだ!その青白い細腕で、私達を殺しに来い!」

『―ッヴォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』


 かくして坂原昇とクレール・ヴィドックによる『ワーズ狩り』は幕を開けた。これより先、二人の眼前には様々な脅威が立ちはだかるだろう。ヒトの数だけ言葉があり、文化の数だけ禁忌がある。誰の心にでも不安や怒り、憎悪といったマイナスの感情は宿る。それらに決まった総数はなく、またその数が多ければ多いほどワーズは活動的になるからだ。ならば二人の戦いに終わりはあるのか?断言はできないが、恐らく決まった終わりは無い。しかしそれでも彼らは戦い続ける。その理由を明確に言い表すことは、恐らく本人達にも出来はしない。だが、『その方が寧ろ好都合なのかもしれない』とは、後に二人が口を揃えて言い切った言葉である。


――《タブーワーズ・ハイスクール》――


 この世にある知識の全てを、誰もが得ていいとは限らない。

注意:予定上はそんなに続きません

『Voising』の企画元である『劇団射手座の夜』様の公式サイトはこちら→ttp://siguremurasame.jimdo.com/

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 推理[文芸]というカテゴリーなのでミステリー作品かと思えば、別の意味合いのミステリーな伝奇作品で驚き。もしかしてこれってそういう企画の作品だったのでしょうか? 見事に騙されました。  個人的には、普…
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