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転生ストライカー 氏真 ~The Renaissance striker Uzizane~  作者: みなも
第3章 情熱の国 ~スペイン編~

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第42話:【隠された過去】

【あらすじ】

スペインでの過酷なセレクション、そして雷雨に消えた決戦を経て、吉良氏真は見事FCバルシーノから正式オファーを獲得した。だが、帰国した彼を待っていたのは歓喜ではなく、FIFAが定める「18歳未満の移籍規制」という分厚い現実の壁だった。公式戦出場が叶わない絶望的な状況下、吉良家のリビングに現れたミツウロコHAYAKAWAグループの若き総帥が、事態を根底から覆す。


1. 歓喜の契約と、立ちはだかる世界の関所ルール


8月上旬。うだるような熱気がアスファルトを焦がす、静岡県清水市。


エアコンの効いた吉良家のリビングのテーブルには、青と臙脂ブラウグラナのチームカラーが鮮やかに彩られたFCバルシーノの公式契約書コントラトが、静かに鎮座していた。


だが、部屋の空気は、外の熱気とは裏腹にひどく冷え切っていた。


「……オファー自体は信じられないほどの快挙だ。だが姉ちゃん、今のままじゃ氏真はスペインに行けても、向こうで『公式戦』には出られない」


ソファーに深く沈み込み、頭を抱えるインパルスの剛コーチ。その言葉に、氏真の母・有理ゆりの顔がサッと青ざめる。


「出られないって……どういうことなの、剛? こんなに立派な契約書があるのに」


「FIFA(国際サッカー連盟)の第19条だ。現在、18歳未満の選手の国際移籍は、未成年保護の観点から厳格に禁止されている」


剛は、乾いた唇を舐め、重々しい声で続けた。


「例外として認められるのは、『サッカー以外の正当な理由で、両親がその国へ移住する場合』だけだ。氏真の移籍のために姉ちゃんがスペインへついて行く、という『建前』じゃ絶対に審査は通らない。現地で社会的信用の高い正規の職業に就き、偽装移住ではないと完全に証明できなければ、氏真の選手登録フィチャは下りないんだ」


剛の握りしめた拳が、小刻みに震えている。


公式戦に出られない。それは、週末ごとにスタンドから仲間の活躍を眺めるだけの「飼い殺し」を意味する。


(……ふむ。見事なオファーを勝ち取ったというのに、世界という巨大な関所は中々に堅牢な造りをしているらしい。公式戦という名の真の合戦に出られぬのでは、わざわざ海を渡る意味がないな)


氏真は、グラスの表面に浮かぶ水滴を見つめながら、全身の筋肉を弛緩させていた。


絶望的な壁を前にしても、彼の心拍数は一切乱れていない。極限の脱力状態マインドフルネスを保ちながら、俯瞰的な視点でこの盤面を分析する。


「……私が、スペインで仕事を見つければいいのね」


有理が、真っ直ぐな瞳で顔を上げた。


「氏真の夢を叶えるためなら、言葉の壁があろうと、どんな仕事だってするわ」


「姉さん、気持ちはわかるけど、スペインの失業率は異常に高いんだ。観光ビザで渡って、FIFAが納得するような仕事がすぐに見つかるわけが……」


プァァァン!


重苦しい空気を切り裂くように、吉良家の外から、気品ある高級車のクラクションが鳴り響いた。


---


2. 若き総帥の来訪


「ウジ様ーーーっ!! スペイン凱旋、おっかえりなさーい!!」


玄関のドアが勢いよく開き、ポニーテールを弾ませた早川舞が飛び込んできた。その後ろからは、純白のワンピースに身を包んだ早川愛が、楚々とした足取りで歩みを進めてくる。


だが、氏真の視線は、姉妹の背後から現れた人物に釘付けになった。


「急におしかけてすまないね。氏真くんの偉業の報告を聞いて、どうしても直接お祝いが言いたくてね」


仕立ての良いネイビーのスーツ。寸分の狂いもない洗練された振る舞い。


日本経済を牽引する巨大企業「ミツウロコHAYAKAWAホールディングス」の最高経営責任者CEO――早川はやかわ やすしだ。


一企業のトップに留まらない、覇王のような圧倒的な存在感がリビングを支配する。


「早川、オーナー……! 本日はわざわざ……」


剛が慌てて立ち上がり、深く頭を下げる。


だが、康の鋭い視線は、剛でも氏真でもなく、ソファーから立ち上がった有理へと真っ直ぐに向けられていた。


「……久しぶりだな、有理」


親しみを込めた、だがどこか挑発的な響きを持つ声。


「……康くん。本当に、驚いたわ。あなたが直接いらっしゃるなんて」


有理もまた、普段の穏やかな母親の顔から一変し、対等の知性を漂わせる微笑みで応えた。


(……ほう? この二人の間に流れる、張り詰めた糸のような緊張感。ただのスポンサーと保護者の関係ではないな)


氏真の脳内で、バラバラだった情報が急速に結びつき始める。


「あはは。剛くん、驚くのも無理はない。彼女と私は、帝都大学経済学部のゼミの同期でね。……そして、私が学生時代に、成績でも投資シミュレーションでも、一度たりとも勝てなかった唯一の『天才』だよ」


康の言葉に、リビングの空気がピタリと静まり返った。


---


3. 目覚める氷の女王


「……て、天才? うちの姉が?」


剛が信じられないという顔で有理を見る。


「氏真くん、君のお母さんはとんでもない傑物なんだよ」


康は、氏真に向かって不敵に笑いかけた。


「吉良自動車創業家の血を引く彼女は、帝都大を首席で卒業した後、アメリカのMIT(マサチューセッツ工科大学)の大学院へ進学した。そして、世界最大の金融機関『GSインク』に入社し、わずか数年で数千億円の債券ファンドを動かす敏腕ファンドマネージャーとしてウォール街にその名を轟かせたんだ」


「ええっ!?」


剛が絶叫する。舞が最新のタブレットを掲げ、得意げに解説を加えた。


「当時の有理さんの金融市場での異名は『氷の女王アイス・クイーン』。でも、31歳になる年に氏真様のお父様と婚約して、スパッと第一線を退いちゃったのよね」


何故か、『ドヤ顔』で、知ったように舞が語る。


>> スキル発動:【俯瞰の天眼システム・アイ:ランクB】

特殊系 / 効果:盤外の構造的因果律の看破と最適解の導出 / 発動条件:極限の脱力と情報の統合

表層的な事象に囚われず、カオスの中から「真の狙い」と「空白地帯」を瞬時に見抜く。


(……なるほど! 予の母上ながら、なんという見事な武功。現世における『銭の戦(経済)』の最前線で、天下に名を轟かせた猛将であったか)


氏真は、目の前の絶望的なルールが、まるでオセロの石が裏返るように、一気に「希望」へと反転していくのを感じていた。


過去の没落も、現在の逆境も、すべては己と母が再び表舞台で輝くための「極上の前振り」に過ぎないのだと。


「昔の話にするには、惜しすぎる才能だ」


康は、テーブルの上に置かれたバルシーノの契約書と、FIFAの規約が書かれた剛のノートを一瞥した。


「……FIFAの第19条。公式戦出場の壁にぶつかっているようだな。建前の就労ビザでは、審査は通らない」


康は、スッと姿勢を正し、有理を真っ直ぐに見据えた。


---


4. 盤外の構造改革パラダイム・シフト


「有理。ミツウロコHAYAKAWAグループは来月、欧州市場への本格参入のため、スペインのバルセロナに巨大な欧州統括支社を開設する。……そこで、君に頼みがある」


康の声のトーンが、ビジネスの最前線で戦うトップのそれに変わった。


「私のもとで、スペイン支社の最高財務責任者(CFO)として腕を振るってくれないか」


「……!」


有理の肩が、微かに震える。


「君のGSインクでの実績、そして語学力。スペインでの巨大プロジェクトを任せるのに、君以上の適任者はいない。給与についても、当然君のスキルにふさわしい額を用意する。氏真くんと共に住むためのセキュリティーの整った住居も、会社側で完璧に手配しよう」


それは、単なる善意の支援ではない。


トップダウンによる押し付けではなく、有理の能力という「個」を最大限に活かし、組織全体の利益へと繋げる、完璧なビジネスだった。


「これなら、実態のある欧州支社の役員としての赴任だ。FIFAの審査委員会も、一切の文句のつけようがない。堂々と、氏真くんの選手登録を通すことができる」


康の冷徹なまでに完璧なロジックを前に、剛は声を出せずにいた。


FIFAという巨大な壁を、圧倒的な経歴スペックと資本力による「構造そのもののアップデート」で、正面から物理的に粉砕してしまったのだ。


(……あはは。見事だ、愛の父君。個人の小手先の努力に頼るのではなく、システムそのものを構築し直すことで問題を解決する。これこそが、真のエリートの振る舞いというものだ)


氏真は、美しい戦術の展開を目の当たりにしたかのように、心の中で喝采を送った。


「……康くん。あなた、最初からこれを狙って……?」


有理が、かつての「氷の女王」の鋭い視線を康に向ける。


「氏真くんは、我がミツウロコが誇る至宝だからね。彼が最高の環境でプレーするためなら、私は盤外の戦いでも一切の妥協はしないよ」


康は、爽やかに、だが確固たる意志を持って笑った。


愛が、有理の手を両手で優しく包み込む。


「お母様。氏真様が世界最高のピッチで舞う姿、一番近くで見届けたくはありませんか?」


有理は、ゆっくりと隣に座る氏真を見た。


氏真の黄金の瞳は、一切の恐れや気負いを見せず、ただ純粋に、未知なる未来への昂揚に満ち溢れていた。


「……氏真」


「お母さん。もしよければ、僕と一緒に、もう一度世界の舞台に立ってくれないか?」


氏真の真っ直ぐな言葉に、有理の強張っていた肩の力がフッと抜け、その瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。


「……ええ。お母さん、もう一度、本気で戦ってみるわ。あなたの夢を、絶対に邪魔させないために」


かつての氷の女王が、鳳凰の翼を守るための盾として、完全復活を宣言した瞬間。


盤外のすべての障壁は、熱を帯びた意志によって溶け去った。


極東のストライカー、吉良氏真。


彼が本当の意味で「世界」へと羽ばたくための、新たなる大戦おおいくさの扉が、今、開かれたのであった。


【次回予告】

ついにスペインへの完全移住が決定した氏真。出発の日、成田空港に駆けつけたインパルスの仲間たち。司令塔・松平基哉と、若き天才軍師・大原由紀夫と交わす、熱き男たちの誓いとは!?

第43話:【決別の空港】。次なる天下へのパスを回せ!


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