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『The Renaissance striker Uzizane(転生ストライカー氏真)』 ~戦国最低スペック大名が現代に転生したら、天才ストライカーになってしまった件~  作者: みなも
第9章 青春という名のもう一つのフットボール編

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第168話:【秋風のタクトと三つの凱歌】

【あらすじ】

東京へ戻る愛を見送った氏真。切ない別れの余韻も束の間、城南サッカー部は過密日程の秋へ突入する。立ちはだかるのは、夏の決勝で苦杯を喫した因縁の王者・遠野。さらに迫る強豪たちとの連戦に、剛監督はある大胆な決断を下す。愛が託した手帳を胸に、発掘された原石と主力が織りなす「全員戦力化」の真価が試される――!

1.旅立ちのホーム、秋風の誓い


9月第2週。


北東北の玄関口、盛岡駅のコンコースには朝夕の冷涼な空気が流れ込み、行き交う人々の装いにも薄手のジャケットや長袖シャツが目立つようになっていた。

東北新幹線「はやぶさ」が発着する11番線ホーム。

発車を待つ常盤グリーンの車体の前で、吉良氏真は静かに足を止めた。


「……東京の大学は、いよいよ後期が始まるのですね」


「ええ。これ以上講義を疎かにしては、我が家の教育係にどんなお小言をいただくか分かりませんもの」


上品な薄藍色のアンサンブルに身を包んだ早川愛が、悪戯っぽく微笑んだ。

夏休みの間、盛岡の吉良邸に滞在し、毎日のようにグラウンドへ特製の薬膳重を差し入れては、城南サッカー部をざわつかせていた彼女も、ついに東京へ戻る日を迎えていた。

足元にあるのは、洗練されたキャリーケースが1つだけ。数日前までグラウンド脇に置かれていた、生薬や食材を収めた桐箱の姿はない。

少し離れた売店の陰では、改札まで荷物持ちとして付き合わされた妹の早川舞が、気まずそうに顔を背けながらタブレット端末の画面を凝視していた。


「愛ねーさまの別れの挨拶に付き合わされるなんて、耐えがたい時間の浪費よ」


口ではそう言いながら、姉を見送るためにわざわざ時間を空けていたことは明らかだった。


「愛、この夏は本当にお世話になりました。そなたが心を尽くして整えてくれた食事や気配りがなければ、予は――僕は、あの過酷な夏合宿と清水戦の重圧を乗り越えられなかったと思う」


氏真が改まって深く頭を下げると、愛は慌てたように両手を振った。


「やめてくださいませ、氏真様。頭をお上げになって……! わたくしは、ただ氏真様をお支えしたい一心で、務めを果たしただけにすぎません」


頬をかすかに染めた愛は、手元から薄萌葱色の絹表紙で装丁された1冊の手帳を取り出した。


「これをお納めくださいませ」


「これは……?」


「氏真様のための、秋と冬のコンディショニング手帳にございます。わたくしが東京へ戻りましても、お身体を整えられるよう、岩手の旬の食材の選び方、疲労度に応じた薬膳茶の調合法、遠征先での関節のケアなどを書き留めておきました。舞やキャム先生の助言も反映させておりますわ」


手渡された手帳を開く。


そこには、愛の端正な筆致で、日々の食事や身体のケアについて細やかな注意事項が記されていた。

単なる好意を超えた、深い情愛と、主君の健康を何より重んじる軍師のような気配り。

氏真の胸の奥に、温かなものが満ちていった。

愛は、手元の白檀の扇子をぎゅっと握りしめた。

発車ベルの澄んだ電子音が、ホームの高天井に鳴り響く。自動ドアが開き、乗り込む乗客たちの足音が慌ただしく行き交った。


愛の瞳に、堪えきれない涙がうっすらと滲む。


「……本当は、ずっと盛岡に留まりとうございました。氏真様が毎日ピッチで泥だらけになりながら、新たな仲間たちと高みを目指しておられる姿を、一番近くで見守っていたかった」


「愛……」


「ですが、わたくしにも果たすべき役目がございます。東京のミツウロコ・HAYAKAWAグループのネットワークを活用し、氏真様と城南サッカー部が冬の全国へ進出した際の宿泊地や練習場、移動の手配まで、万全に整えてみせますわ」


愛は扇子を胸元に当て、背筋をすっと伸ばした。

そこにあるのは、単に別れを惜しむ少女の顔ではない。

五百年の時を越えて主君の志に共鳴し、その未来を支え抜くことを誓った、誇り高き姫の姿だった。


「ですから……わたくしが傍におらぬ間、お怪我だけはなさらないでくださいませ。冬には必ず、誰よりも早く全国のスタンドへ駆けつけます!」


凛とした声の奥に、切ないほどの情愛が滲んでいた。

氏真は胸の奥が熱くなるのを覚えながら、静かに、だが揺るぎない笑みを返した。


「ああ、約束するよ。必ず冬の選手権の切符を掴み取り、全国の舞台へ連れていく」


「はい……! 信じております、氏真様!」


愛は溢れそうになる涙を指先でそっと拭い、新幹線のデッキへと足を踏み入れた。


プシュー、と気密音が響き、ドアが閉まる。


窓越しに、愛が両手を合わせて深々と一礼するのが見えた。

長い車体が静かに滑り出す。

ホームを吹き抜ける秋風の中、氏真は遠ざかる緑の流線形を、見えなくなるまでじっと見つめていた。


「……行っちゃったわね、愛ねーさま」


背後から舞が歩み寄ってきた。


「明日からは私の手製プロテインと、神原研究室が計算した栄養補給スケジュールに戻るから。愛ねーさまの甘やかしに慣れた舌を、科学の味覚に叩き直してあげるわ」


「ふふ、お手柔らかに頼むよ、舞」


氏真は小さく笑い、きびすを返した。

寂しさは確かにある。

だが、感傷に浸っている暇はなかった。

高校サッカーの秋は、過密な日程で選手たちを試していく。プリンスリーグ東北の頂点を争う戦いは、まさにここからが正念場だった。



2.因縁の遠野戦、中盤のチェスゲーム


9月中旬。


高円宮杯 JFA U-18サッカープリンスリーグ東北・第13節。


アウェイの遠野市国体記念公園市民サッカー場。周囲を緑の山々に囲まれた天然芝のピッチには、冷たい秋の霧雨が降り、独特の肌寒さが漂っていた。

対戦相手は、遠野市立高校。

初夏の高校総体、インターハイ岩手県予選決勝。2対2の死闘の末、PK戦3対4で城南を退け、全国への切符を掴み取った岩手の強豪校である。


「城南……! 青森セカンドを倒して勢いに乗っているようだが、ここは遠野だ。ウチの庭で好き勝手はやらせねえぞ」


試合前のコイントスを終えた遠野の主将、背番号10のボランチ・菊池蒼が、鋭い眼光を城南イレブンに向けた。

前線には、双子の弟であり、鋭い得点感覚を誇るエースストライカー・菊池碧が虎視眈々とゴールを狙っている。

遠野の武器は、伝統的な走力と、阿吽の呼吸を誇る菊池兄弟のホットラインを軸にした高速カウンターだ。

夏の王者に対し、城南はどう立ち向かうのか。


「油断するなよ。今日の鍵は、奪うことじゃない。『限定する』ことだ」


ベンチ前で、吉良剛監督が引き締まった声で指示を飛ばした。

その視線の先には、インサイドハーフとして先発に名を連ねた2年生、猿沢佳樹の姿があった。


ピピィーーーーッ!


ホイッスルが鳴り響き、因縁の再戦が幕を開けた。

立ち上がり、主導権を握ろうと圧力をかけてきたのは遠野だった。

激しいコンタクト。濡れた芝を滑る低弾道のグラウンダーパス。

遠野の選手たちは、城南の中盤の底に君臨するアンカー・諸島憲二へ激しくプレッシャーをかけ、ボールを奪うや否や、司令塔の菊池蒼へと預ける。

だが、夏の決勝と決定的に異なっていたのは、蒼がボールを受けた後だった。


「碧ッ!」


菊池蒼が前を向き、得意のダイレクトスルーパスを放とうとした瞬間。

その視線の先に、音もなく入り込んでいた影があった。


猿沢佳樹だ。


猿沢は蒼へ身体をぶつけに行かない。

蒼が身体を開いた角度、軸足の向き。そして、弟の碧が走り出す直前の動き。

それらを見極め、パスの通過ルートに先回りして立ち塞がった。


「なっ……コースがねえ!?」


蒼が舌打ちし、たまらずボールを持ち直す。

神原教授と久保田が分析した遠野の攻撃データによれば、菊池兄弟の連係では、蒼から碧への縦パスが右斜め45度のハーフスペースに集中していた。

猿沢はその傾向を頭に叩き込み、ポジショニングによってパスコースを先回りして消す役割を担っていたのだ。

蒼の選択肢が減り、判断が一瞬遅れる。

その隙を逃さず、諸島が鋭い出足でボールを奪い取った。


「前へッ!」


諸島のダイレクトパスが、センターサークル付近でフリーになっていた背番号9、吉良氏真の足元へ収まる。

遠野のセンターバック2人が、間合いを詰めてきた。

だが、氏真は慌てない。

キャム・ベルナルドに鍛えられた身体の使い方を生かし、骨盤をわずかに左へ開いて相手CBを引きつける。

相手の体重が前へ乗った瞬間、氏真は視線と上半身の向きで相手の意識を中央へ誘導した。

そして、右足のアウトサイドでボールを前方へ滑らせる。

最小限の動作で、相手の重心が戻る前にターンを完了させた。


「しまっ……!」


CBの脇を抜けた氏真は、飛び出してきたGKの位置を冷静に見極める。

最後は右足のインサイドで、ゴール右隅へ流し込んだ。


前半22分、城南が先制!


「よしっ! いいショートカウンターだ!」


ベンチの剛監督が拳を握りしめた。

猿沢がコースを消し、諸島が奪い、氏真が仕留める。

1人の力ではなく、3人の判断が連なって生まれたゴールだった。

しかし、遠野も簡単には屈しなかった。


前半38分。


左サイド深くからのロングスローを起点に、遠野が泥臭くゴール前へ押し込む。

混戦の中、菊池碧が執念のダイビングヘッドでボールを叩き込んだ。


1対1。


伝統校のプライドが激しく火花を散らす中、均衡を破ったのは城南の新たな武器だった。


後半11分。


中盤で猿沢がデコイランを仕掛け、相手ボランチを引きつける。

その動きによって、バイタルエリアに一瞬の空白が生まれた。

そこへ後方から猛然と駆け上がってきたのは、規格外の体躯を誇るインサイドハーフ、ジャック・ミラーだった。


「どけえぇぇッ!」


ゴールまで約25m。

ジャックが右足を振り抜く。

強烈なミドルシュートが雨を切り裂き、ゴールネットに突き刺さった。


2対1!


さらに後半29分。


左サイドを切り裂いたグエン・ミン・クアンが、ゴール前へ鋭いクロスを送り込む。

中央へ飛び込んだ氏真は、相手CBの足が踏み出される瞬間を見極め、半テンポ早くボールの落下点へ入った。

右足のダイレクトボレー。


バシィッ!


鮮烈な一撃がゴール天井を揺らし、3対1とリードを広げる。

試合終了間際、遠野はセットプレーから意地を見せた。

菊池蒼の直接フリーキックが壁を越え、ゴールに突き刺さる。


3対2。


残された時間、遠野は同点を狙って攻勢を強めたが、城南は慌てなかった。

猿沢が中央へのパスコースを消し、諸島がこぼれ球を拾う。最終ラインも不用意に飛び出さず、ゴール前のスペースを守り抜いた。


ピピピィーーーーッ!


3対2。


夏の決勝でPK戦の末に涙を呑んだ遠野に、盛岡城南は雪辱を果たした。

個人の才能だけではなく、相手の強みを分析し、仲間の役割を組み合わせて勝つ。

それが、今の城南のサッカーだった。



3.知のターンオーバーと厚みを増す陣容


遠野戦から中6日。


迎えたプリンスリーグ第14節は、ホームの盛岡城南グラウンドに宮城の強豪・東北学園高校を迎えての一戦だった。

連戦による疲労が蓄積し始める中、試合前日のミーティングで剛監督が告げたスターティングメンバーは、部員たちを大いにどよめかせた。


「明日のスタメンを発表する。CFは不来方。右サイドバックは一戸。氏真と諸島はベンチスタートだ」


「なっ……!?」


部室にざわめきが広がった。

エースの氏真と主将の諸島を、同時に先発から外すというのだ。


「監督、本気ですか? 東北学園は前線からのプレッシングが持ち味の難敵ですよ!」


副主将の林皓然が思わず身を乗り出した。

だが、剛監督は冷静に頷いた。


「本気だ。これは単なる休養じゃない。積極的な戦術的ターンオーバーだ」


剛の隣で、専任トレーナーのキャム・ベルナルドが腕を組み、フフンと鼻を鳴らした。


「アンタたちね、神原教授の負荷データとアタシの触診結果を見なさいよ。先週の遠野戦は雨でピッチも重かった。その影響もあって、氏真ちゃんも諸島君も、高強度スプリントと急激な減速の回数が増えているの。大腿部の筋緊張も抜けきっていないし、股関節の可動域にもわずかな低下が見られるわ。ここで無理をさせて肉離れでも起こしたら、秋の選手権予選はどうするのよ!」


神原教授もノートPCの画面を指先で示しながら、淡々と補足した。


「心拍変動や加速度センサーのデータからも、疲労の蓄積が懸念されます。主力を休ませるのは感情論ではなく、科学的なリスク管理です」


その言葉を受け、諸島が静かに立ち上がった。


「林、監督と先生たちの言う通りだ。俺も氏真も、外から試合の流れをしっかり見る。後半、締めが必要になったらいつでも行ける準備はしておく。……頼むぞ、お前たち」


主将の落ち着いた言葉に、チームの動揺が静まった。

神原研究室が集計した夏合宿以降の走行データでは、Bチームから這い上がってきた一戸政実と不来方純也の運動能力やプレー強度が、Aチームの平均値に迫る水準まで伸びていた。


「一戸、不来方。お前たちの武器が本物なら、氏真がいなくてもこの試合を勝たせられるはずだ。ピッチの上で証明してこい!」


「……っ! はい!!」


背番号を背負った1年生の2人が、力強く返事をした。

翌日、第14節・東北学園戦。

城南のスタメンに氏真と諸島の名前がないのを見た相手ベンチは、主力を温存した城南を崩す好機と判断したのか、前線から猛烈なプレッシャーを仕掛けてきた。


しかし、ピッチ上の城南イレブンに動揺はなかった。

アンカーに入った控えのボランチが相手のプレスを横パスでいなし、両サイドを広く使って相手の守備陣形を揺さぶる。


そして前半31分。


敵陣右サイド深くでスローインを獲得した一戸政実が、大きく助走を取った。


「おい、下がるぞ! あいつ、ロングスローを投げてくるぞ!」


東北学園の守備陣がペナルティエリア内に密集を作り、警戒を強める。

だが、一戸が両手から放ったボールは、頭上を越える山なりの軌道ではなかった。

ニアサイドへ突き刺さるような、低く鋭い弾道。

相手守備陣がボールの軌道に視線を奪われ、一瞬だけ身体の動きを止めた。

その死角へ、低い重心の小さな影が滑り込む。

不来方純也だ。


「――そこだぁッ!」


誰よりも早くボールの落下点へ入った不来方が、身体ごと飛び込むようなダイビングヘッドでボールをゴールネットへ押し込んだ。


ドサッ!


立ち上がった不来方が、咆哮とともに一戸へ駆け寄る。


1対0!


合宿で発掘された原石コンビが、主力不在のピッチで先制点をもぎ取った瞬間だった。

後半、前がかりになった相手に疲労の色が見え始めると、剛監督は後半20分、氏真と諸島をピッチへ送り込んだ。

主将の諸島が中盤の配球を落ち着かせる。

そして、体力を温存していた氏真が違いを見せつけた。


後半24分。


氏真が中盤でボールを受けると、相手DF2人を引きつけながら、絶妙なスルーパスを通す。

左サイドから走り込んだクアンが、落ち着いて追加点を奪った。


2対0。


さらに後半39分。

氏真自身がペナルティエリア手前でボールを受ける。

相手GKが重心を移す瞬間を見極め、左隅へ正確な低弾道のシュートを流し込んだ。


3対0。


控え組が先制し、主力が試合を締める。

城南は東北学園を完封し、選手層の厚さが本物であることを証明した。

主力がいなければ勝てないチームから、誰が出ても勝利を目指せるチームへ。

その変化は、確実にピッチ上に表れ始めていた。



4.高志戦、剛柔の制禦

勢いは止まらなかった。

第14節から中4日で迎えた第15節。城南はアウェイで高志高校と対戦する。

東北屈指の巨漢選手を揃え、激しい肉弾戦とロングボールを武器とする高志高校は、立ち上がりから城南に激しいボディコンタクトを仕掛けてきた。

ピッチの至る所で、選手同士がぶつかる鈍い音が響く。


だが、今の城南に力任せのプレスは通用しなかった。


中盤では諸島が味方DFと連動し、セカンドボールの落下点を的確に押さえる。林皓然も空中戦で相手の巨漢FWと競り合い、自由を与えない。

そして前線に立つ氏真は、相手CBの屈強なチャージを正面から受け止めようとはしなかった。

接触の瞬間、骨盤の向きを変えて力を逃がす。

相手が全体重を乗せて突進してくる勢いを受け流し、その力が前方へ抜けた瞬間に身体を入れ替えた。


「なっ……手応えがねえ!?」


相手DFが体勢を崩す。

氏真は、その背後に生まれたスペースへ滑り込んだ。


前半18分。


GKとの間合いを詰めながら、最後は冷静にシュートを放つ。

ボールはゴールネットを揺らした。


1対0。


追う高志高校は後半、ロングボールの放り込みをさらに強化してきた。

だが、城南は慌てない。

猿沢が相手の縦パスのコースを切り、こぼれ球を一戸が素早く回収する。GK工藤一の気迫のセービングも光り、相手の力勝負をことごとく封じていった。

そして試合終了間際、後半41分。

前線で氏真が相手DF2人を背負いながらボールをキープし、味方が上がる時間を作る。

相手守備陣が氏真に意識を集中させた瞬間、氏真は右サイドのスペースへスルーパスを流した。

そこへ猛然と走り込んできたのは、不来方純也だった。

GKの動きを見極め、冷静に股下を抜く。


2対0。


ピピピィーーーーッ!


城南が最後まで集中を切らすことなく、完封勝利を収めた。

第13節、遠野市立に3対2。

第14節、東北学園に3対0。

第15節、高志高校に2対0。

主力を適切に休ませ、控え組の成長を勝利につなげながら掴み取った、破竹の3連勝だった。



5.昇華する全員戦力化

第15節を終えた夜。

福島からの遠征バスが、盛岡城南高校の駐車場へと滑り込んだ。

車内から降りてくる選手たちの表情には、過酷な連戦を戦い抜いた疲労の色とともに、それ以上の誇りと充実感が浮かんでいた。

部室のホワイトボードの前で、久保田誠がノートPCを開き、最新のリーグ戦順位表をプロジェクターで映し出す。


高円宮杯 JFA U-18サッカープリンスリーグ東北・第15節終了時

1位:明青国際大学附属青森高校セカンド(勝点34)

2位:盛岡城南高校(勝点33/10勝3分2敗)

3位:尚志高校セカンド(勝点31)

4位:山形ユナイテッドFCユース(勝点29)


「……勝点33。首位の青森セカンドと、わずか1ポイント差の2位です!」


久保田の興奮した声に、部室内から「おおっ……!」と地鳴りのような歓声が湧き起こった。

春の開幕直後、昇格組として残留争いを演じるのではないかと囁かれていた盛岡城南が、強豪ひしめくプリンスリーグ東北の頂点に手をかける位置まで駆け上がってきたのだ。


「全員、よくやった」


剛監督が腕を組み、選手たちをゆっくりと見渡した。その瞳には、熱い誇りが滲んでいた。


「遠野へのリベンジ、東北学園戦でのターンオーバー、そして高志のフィジカルをいなした完封勝利。この3連勝で証明されたのは、氏真や諸島だけの力じゃない。一戸、不来方、猿沢……そして、日頃の練習でAチームを極限まで追い込んでくれたB・Cチーム全員の力だ」


剛はホワイトボードの「全員戦力化」という文字を、手のひらで強く叩いた。


「俺たちが夏合宿で掲げた言葉は、もはや理想論じゃない。ピッチの11人だけじゃない。ベンチのメンバー、スタンドで声を枯らす部員、データを集めるスタッフ。全員が噛み合ってこそ掴み取った10勝だ!」


「「「うおおおおぉぉぉぉッ!!」」」


部員たちの咆哮が、秋の夜空へと響き渡る。

かつて公式戦に出場できず、グラウンドの隅でボールを拾うだけだった部員たちも、今や自分の走力やポジショニングの強みを自覚し、胸を張って輪の中に加わっていた。


解散後。


静まり返ったピッチのベンチに腰掛け、氏真は心地よい夜風を肌に受けていた。

鞄から取り出した薄萌葱色の手帳をめくる。

遠征後のアイシングや呼吸法について、愛の丁寧な文字が記されていた。

見上げた夜空には、澄み切った秋の星々が瞬いている。


(愛、聞こえているか。予たちは、また一歩、頂へと駒を進めたぞ)


氏真はポケットからスマートフォンを取り出し、短くメッセージを打ち込んだ。


『3連勝を果たしました。愛の手帳と祈りのおかげです。冬の切符、必ず掴み取ります』


送信ボタンを押すと、ほんの数秒で既読がついた。

桜の花びらが舞う愛らしいスタンプとともに、返信が届く。


『誇らしく存じます、氏真様。東京より、常に私の心は氏真様のピッチに寄り添っておりますわ』


その温かな言葉に、氏真の口元から自然と笑みがこぼれた。

足元を見下ろせば、スパイクに付着した泥が、幾重もの激闘を物語っている。

だが、戦いは終わらない。

プリンスリーグの覇権争い。


そして何より、来月から幕を開ける全国高校サッカー選手権岩手県予選。


愛との約束を果たすために。

仲間たちの努力を、決して無駄にしないために。

氏真は手帳を閉じ、静かに立ち上がった。

秋風がピッチを吹き抜ける。

その風に背中を押されるように、城南という巨大なオーケストラは、次なる凱歌を奏でるために再び歩み出そうとしていた。

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