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『The Renaissance striker Uzizane(転生ストライカー氏真)』 ~戦国最低スペック大名が現代に転生したら、天才ストライカーになってしまった件~  作者: みなも
第9章 青春という名のもう一つのフットボール編

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第158話:【剛雅一体の進撃】

【あらすじ】

四月の迷走を乗り越え、連携を深めていく城南高校。プリンスリーグ東北の過密日程が続くなか、氏真はクアン、ジャック、林らの個性を引き出し、チームを新たな高みへ導いていく。だが、彼らの前にはJユース屈指の強豪と、氏真に並々ならぬ闘志を燃やす因縁のストライカーが待ち受けていた。城南の進化が試される、前期終盤の戦いが始まる!


1.初夏の風と解き放たれた韋駄天


五月上旬、盛岡の街を吹き抜ける風から冬の名残が消え、北上川の岸辺には新緑の匂いが立ち込め始めていた。


連休中の五月三日、盛岡城南高校第一グラウンド。高円宮杯 JFA U-18サッカープリンスリーグ東北第5節のピッチに立つ城南イレブンの表情は、四月の迷走が嘘のように引き締まっていた。


ホームに迎えたのは、宮城県の名門・東北学園高校。主将のトップ下・白石怜央を中心に、正確なトラップと角度をつけたパス交換で相手を崩す、東北屈指のポゼッションフットボールを展開する強豪である。


「慌てるな。ボールを動かして相手の陣形を広げろ。隙は必ず中央にできる」


白石が柔らかな足元でボールを収め、寄せてきた諸島憲二の逆を取って展開しようとする。


かつての城南であれば、相手の洗練されたパス回しに苛立ち、新入生たちが単騎で飛び込んでは広大なスペースを晒していただろう。


だが、今の城南は違った。


アンカーの諸島が中央を締め、インサイドハーフのジャック・ミラーが無闇な突進を抑えながら白石の配球先を外側へ誘導する。そして前線では、背番号9の吉良氏真が、相手センターバック神園蒼真へのバックパスを狙える位置に立ち、わずかな身体の向きでその選択肢を狭めていた。


「サイドへ追い込んだぞ、クアン!」


諸島の声に、左ウイングのグエン・ミン・クアンが動き出した。


一直線に相手へ突っ込むのではない。相手右サイドバックの視界の外側をなぞるように、わずかに弧を描いて間合いを詰める。


四月の夜間練習で氏真から教わったのは、速く走る方法ではなかった。自分の速さを殺さず、味方がボールを奪う瞬間に合わせて走り出す方法だ。


相手サイドバックが焦れて前線へ蹴り出した浮き球を、センターバックの林皓然が長い脚を伸ばしてインターセプトした。


「氏真さん、前方!」


林が奪ったボールを、中央の氏真へ縦につける。


相手の大型CB神園が、186センチの体躯を利して背後から圧力をかけてきた。


氏真は力比べをしなかった。背中に迫る神園の気配を感じながら、左足のインサイドでボールの勢いを吸収する。神園の意識が足元のボールへ向いた、その瞬間だった。


氏真の右足のアウトサイドが、ボールを斜め前方へ滑らせた。


神園の背後に生まれたわずかな空間へ、ボールが転がり込む。


そこへ、外側からトップスピードに乗ったクアンが飛び込んできた。


曲線を描いて走り込んできたクアンの視野には、ゴールと飛び出してくるGKの位置が入っている。減速することなく歩幅を合わせ、右足でボールの芯を捉えた。


パァン。


低い弾道がゴール右隅のネットを鋭く揺らした。


前半16分、先制点。


「うおおおおぉぉぉっ! 決まった……決まったぞ、氏真さん!」


駆け寄ってきたクアンに、氏真は穏やかに微笑んで右手を差し出した。


「見事な走りだ、クアン。今の角度なら、相手は君の速度に追いつけない」


互いの長所が噛み合った城南の攻撃は、東北学園の守備を切り裂いた。


後半8分、中盤でジャックが奪ったボールを氏真がダイレクトで落とす。神園の背後へ抜けたクアンが、二点目を流し込んだ。


後半26分には、八重樫隆生の高速クロスに対し、ニアサイドへ飛び込んだ氏真が神園とGKを引きつける。ファーサイドへ走り込んだクアンが頭で合わせ、ハットトリックを達成した。


終了間際には、八重樫がこぼれ球を押し込んで四点目。


4―0。


試合終了の笛が鳴ると、ピッチ中央で東北学園の主将・白石怜央が呆然とスコアボードを見上げていた。


「速さだけじゃない……。あの9番が、全員の走るタイミングを変えていたのか。高校サッカーは、こんなふうに進化しているのか……」


美しくパスをつなぐことに誇りを持っていた名門のプライドが、個の才能と、それを生かす連動性の前に揺らいでいた。


城南の強さは、誰か一人の突出した能力だけではない。互いの長所が生きる場所を見つけ、そこで力を発揮できるようになったことにあった。


---


2.磐越の防壁と連戦の知略


中二日。五月6日の第6節は、福島県でのアウェイゲーム、高志高校戦だった。


連休中の過密日程。疲労によって運動量が落ち、負傷者も出やすい連戦において、城南のベンチでは選手の状態を見極めた対応が進められていた。


「諸島先輩、試合前の計測では、心拍の回復に少し時間がかかってる。前半から無理に追い回さない方がいいと思う」


ベンチ脇でタブレットを操作しながら、早川舞が吉良剛監督にデータを示した。


試合前の心拍回復傾向や、これまでのスプリント頻度。蓄積された記録をもとに、舞は選手ごとの負荷を整理していた。


「ジャックは、まだ動きに余裕がある。中盤のセカンドボールを拾う役割を少し広げられるはず」


「分かった。状況を見ながら指示を出す」


剛が短く応じ、舞の分析を踏まえて選手たちへ伝える。


全員を一律に走らせるのではない。必要な場面で走り、必要のない場面では立ち位置によって相手の選択肢を狭める。それが、連戦を乗り切るための城南の方針だった。


ピッチ上では、氏真もその考えを支えていた。


「無理に追う必要はないよ。僕が相手の配球先を限定するから、ジャックはその先で待っていてくれ」


氏真の身体の向きが、高志のビルドアップを中央の狭いエリアへ誘い込む。相手が苦し紛れに出した縦パスの先には、体勢を整えて待つジャックの巨躯があった。


だが、対戦相手の高志高校も一筋縄ではいかなかった。


「磐越の防壁」と称される主将のセンターバック・安積慶悟を中心に、球際の強さと前線からの圧力を前面に押し出す実力派。前線のストライカー相馬駿介が果敢なハイプレスを仕掛け、前半30分、混戦からのこぼれ球を相馬に押し込まれて先制を許した。


0―1。


連戦の疲労が、城南の選手たちの足に重くのしかかる。


重苦しい空気を切り裂いたのは、かつて自らのパワーを持て余していた男だった。


後半10分、右サイドで八重樫が粘ってクロスを上げる。ニアサイドへ潜り込んだ氏真が右足のインサイドで合わせると、ボールは相手GKの手をかすめてネットを揺らした。


1―1。


そして後半28分、ボランチの位置でジャックが真価を発揮する。


高志の司令塔・猪苗代陸が前線へパスを出そうとした瞬間、ジャックがコースへ身体を滑り込ませた。無理に突進するのではなく、相手の懐へ的確に足を伸ばし、ボールを奪い取る。


周囲を確認したジャックは、強引なドリブルを選ばなかった。諸島とのワンツーで前を向き、ペナルティエリア外、ゴールまで約30メートルの位置から右足を振り抜く。


地を這うようなミドルシュートが安積の足先を抜け、ゴール左隅に突き刺さった。


逆転の二点目。


「オーウ! パワーは奪うためだけじゃない、周りを見るためにも使うんだネ!」


吠えるジャックに、チームメイトたちが駆け寄る。


終了間際には、クアンが左サイドを突破してグラウンダーのクロスを送る。逆サイドから走り込んだ八重樫が冷静に押し込み、勝利を決定づけた。


3―1。


泥臭い肉弾戦を挑んできた高志を、役割を絞った守備と連動した攻撃で上回った。


連戦の中でも、誰か一人に無理をさせるのではなく、互いの負担を補い合う。城南は、勝利とともにチームとしての手応えも積み重ねていた。


---


3.竜の爪牙と怪物の咆哮


連勝の勢いに乗る城南高校の前に、前期最大の難敵が立ちはだかった。


五月10日、ホーム第一グラウンド。プリンスリーグ東北第7節の対戦相手は、J2クラブの下部組織、仙台アルベガFCユースだった。


そして、その最前線には氏真にとって浅からぬ因縁を持つ怪物が君臨していた。


「――久しぶりだな、吉良氏真」


試合前のピッチ中央で、鋭い眼光を向けてきたのは、一年生ながらアルベガユースの背番号9を背負うセンターフォワード、舘隼人だった。


全日本U-12サッカー選手権大会の開幕戦以来の再会。当時から圧倒的なフィジカルと破壊的なシュート力で名を馳せ、「怪物」と恐れられていたストライカーである。


「またピッチで相まみえることができて嬉しいよ、舘君」


氏真が穏やかに応じると、舘は獰猛に口元を歪めた。


「お前が欧州でどれだけチヤホヤされてきたか知らねえが、ここは日本だ。俺のゴールで、お前らを叩き潰してやるよ」


キックオフの笛とともに、Jユース屈指の戦術的プレッシャーが城南を襲った。


アルベガの主将を務めるボランチ・片倉景親が、「竜の右目」と称される広い視野でピッチを見渡す。長短の正確なパスで城南の守備陣を左右に揺さぶり、左ウイングの青葉怜が鋭いドリブルで大外を強襲した。


前半22分、先制点は舘の破壊力から生まれた。


中盤の片倉から、ペナルティエリア手前へ浮き球の縦パスが入る。


対応に入った佐々木拓海が身体を寄せた瞬間、舘は強靭な筋力で佐々木を押しのけた。バウンドしたボールが浮き上がったところを、右足で叩きつけるように蹴り抜く。


大砲のような音とともに放たれたシュートが、工藤の伸ばした腕を弾き、クロスバーの下面を叩いてゴールネットを揺らした。


0―1。


「見たか、氏真! これが俺の力だ!」


雄叫びを上げる舘に、グラウンド全体が息を呑んだ。


だが、失点した城南の守備陣は、四月のようにバラバラに崩れることはなかった。


「林、すまない。私の寄せが甘かった」


佐々木が声をかけると、センターバックの林皓然は冷静に首を横に振った。


「佐々木先輩の重心が外側へ流れたとき、私の絞りも一歩遅れました。そこを修正します」


かつて「中央の担当区画以外は管轄外」と言い放っていた男の瞳には、味方の背後を守ろうとする意志が宿っていた。


後半に入ると、アルベガは追加点を奪うべく攻勢を強めた。片倉の鋭いスルーパスから、舘が幾度となくゴール前へ侵入する。


後半15分、舘がペナルティエリア内で右足を振り抜いた瞬間、背後からスライディングで飛び込んだのは林だった。長い脚でボールの軌道をわずかに変え、コーナーキックへと逃れる。


後半25分にも、青葉のグラウンダーのクロスに飛び込んだ舘の至近距離からのシュートを、林が身を挺してブロックした。


「クソッ、何なんだあいつは! さっきから全部コースに入ってきやがる!」


舘が苛立ちを露わにして吠える。


自分の担当区画を守るだけではない。味方の重心が崩れた、その半歩を埋めるために身体を投げ出す。


林の合理主義は、仲間を守るための守備へと変わり始めていた。


---


4.ゼロタッチの刹那


時計の針は後半33分を指していた。


0―1。残り時間は約12分。城南の敗色が濃くなり始めた局面で、中盤の底にいた諸島がルーズボールを拾い、前線の中央へ鋭いグラウンダーの縦パスを送った。


低く速いボールが芝の上を滑っていく。


パスの先には、相手ペナルティエリア手前の中央で、ゴールに背を向けた氏真がいた。


その背後へ、アルベガユースの副主将で「不退転のストッパー」と呼ばれる三年生CB・成実壮真が猛然と突進してくる。


成実は、氏真が足元にボールを止める瞬間を狙い、前方へ体重を預けて背中から激しく身体を当ててきた。並みのFWなら踏ん張りきれず、体勢を崩すほどの圧力だった。


だが、氏真は押し返さなかった。


成実の胸と腕が背中に触れた瞬間、氏真は胸郭と肩甲骨の力を抜いた。身体を硬直させて反発するのではなく、背中をわずかにたわませて接触の力を受け流す。


押し切るつもりで踏み込んだ成実は、予想していた反発を得られず、自らの勢いで重心を前へ泳がせた。


その刹那、氏真はボールに触れなかった。


左足でボールを止める素振りを見せながら、足をわずかに浮かせる。ボールは両足の間を抜け、そのままゴール方向へ転がっていった。


氏真はボールを追って身体を反転させる。成実が前へ流れた一瞬を逃さず、股関節を軸に右へ回り込み、相手の背後へ抜け出した。


ボールに触れず、相手の勢いを利用して前を向く。


それが、氏真の選んだターンだった。


諸島のパスは、氏真の足に遮られることなく、そのままペナルティエリアの中央へ転がっていく。成実は前傾した身体を急には止められず、振り返ったときには、氏真がすでに自分の背後へ回り込んでいた。


氏真は最短距離で反転し、転がり続けるボールの進行方向へ滑り出る。


トラップに時間を割くことなく、パスの勢いを利用してペナルティエリア内へ侵入した氏真の前に、アルベガの守護神・国見洸太が立ちはだかった。


国見は、右利きのストライカーが反転からファーサイドへ放つシュートを警戒し、身体を大きく広げてそちらのコースを消そうとしていた。


氏真は右足を力任せに振り抜かなかった。


転がるボールに歩幅を合わせ、右足のアウトサイドをボールの下へ滑り込ませる。足首の角度を調整し、強く蹴るのではなく、ボールを浮かせる。


トラップからゴールへのパス。


国見が低い弾道のシュートに備えて重心を落としかけた、その頭上を、ボールがふわりと越えていった。


緩やかな放物線を描いたボールは、伸ばされたGKの指先を越え、ニアサイドの天井ネットへと吸い込まれた。


パァン。


乾いた音がグラウンドに響き渡る。


後半33分、同点。


1―1。


ベンチから控え部員たちが歓声を上げ、諸島が泥だらけの顔を歪めて拳を突き上げた。


ピッチの中央で、舘隼人は呆然とゴールネットを見つめていた。


自分の誇る怪力でも、アルベガが誇る守備組織でも、あの男の脱力と判断を止めることはできなかった。


「……何なんだよ、お前は……」


試合終了の笛が鳴り、選手たちが握手を交わす。その列の中で、舘が悔しさを滲ませて氏真を呼び止めた。


「俺のパワーが……なんであんな柔っこい動きにいなされるんだよ。納得いくわけねえだろ!」


悔しさに唇を噛み締める怪物ストライカー。その姿に、氏真は真摯な目を向け、差し出された手をしっかりと握り返した。


「力があるからこそ、その力を利用されることもあるのだよ、舘君。君のシュートの威力は、間違いなく僕を上回っていた。……素晴らしい戦いだった」


「……次は絶対にねじ伏せる。プロの舞台に行く前に、高校サッカーでお前を倒す。覚えとけよ!」


舘の瞳に宿った猛々しい闘志を見届け、氏真は静かに頷いた。


強敵と引き分け、掴み取った価値ある勝ち点1。城南高校は、Jユースの精鋭とも互角に渡り合えるチームへと変わりつつあった。


---


5.杜の都のシンフォニー


五月17日、宮城県仙台市。


プリンスリーグ東北前期の最終戦となる第8節。アウェイの地に乗り込んだ城南高校を待ち受けていたのは、宮城セント学院だった。


主将の名取悠真がボランチの位置から長短のパスで攻撃のタクトを振るい、「杜の都のコンダクター」と呼ばれる洗練されたポゼッションを展開する。左ウイングの八乙女怜が鋭いカットインからゴールを脅かし、スタンドは異様な熱気に包まれていた。


前半15分、八乙女の鮮やかなコントロールショットを浴び、城南は先制を許した。


だが、今の城南イレブンに動揺はなかった。


「焦るな、ラインを一定に保て! ジャック、名取の配球先を切れ!」


諸島の統率の下、城南の4―3―3は一つの呼吸をするかのように収縮と拡張を繰り返した。


林が最終ラインから声をかけてカバーリングに回り、ジャックが中盤で相手の侵入路を塞ぐ。そしてボールを奪った瞬間、城南のショートカウンターが炸裂した。


前半38分、諸島のボール奪取から、氏真がダイレクトで右サイドのスペースへパスを送る。駆け上がった八重樫が強烈なシュートを叩き込み、同点に追いついた。


1―1。


後半に入ると、城南は徐々に主導権を握った。


氏真は前線の中央で、味方の動きを見極めていた。


自らがボールに触れる回数は多くない。だが、氏真が立ち位置をわずかに変えるだけで、相手CB岩切壮太の視線が引きつけられる。その背後に生まれた空間へ、クアンが弧を描いて走り込んだ。


後半18分、氏真のスルーパスからクアンが抜け出す。GKとの一対一を冷静に制し、逆転ゴールを決めた。


さらに後半35分。今度はクアンが鋭いグラウンダーの折り返しを送る。


中央へ走り込んだ氏真は、寄せてきたDFの足が届かない位置へファーストタッチでボールを置き直した。そのまま間合いを外し、右足でゴールへ流し込む。


ダメ押しの三点目。


タイムアップの笛が鳴った。


3―1。


敵地での逆転勝利だった。


相手の巧みなパス回しを受け止め、奪ったボールを素早く前線へ運ぶ。個の力だけで押し切るのではなく、仲間の走る場所をつくり、そこへボールを届ける。


城南のサッカーは、試合を重ねるごとに一つの形を成し始めていた。


---


6.勝ち点十七の地平、そして夏へ


試合後のロッカールーム。


汗と泥にまみれたユニフォームを脱ぎながら、選手たちの顔には晴れやかな笑顔が広がっていた。


「勝ったぞ! 宮城セント相手に逆転勝ちだ!」


「クアン、最後の抜け出し完璧だったぜ!」


八重樫がクアンの肩を組み、クアンが照れくさそうに白い歯をこぼす。その横では、ジャックがプロテインのシェイカーを掲げて上級生たちとハイタッチを交わし、林が手元のメモ帳を満足げに眺めていた。


「前期の守備データは、当初の予測を大きく上回る結果です。……味方の背後を補う守備は、極めて合理的でした」


林の生真面目な言葉に諸島が吹き出し、ロッカールームが温かな笑い声に包まれる。


氏真はベンチに腰を下ろし、スポーツドリンクを喉に流し込みながら、その光景を静かに見つめていた。


(心地よいものだな)


かつてバルセロナでプレーしていた頃、サッカーは己の技術を証明するための孤独な戦いだった。自分がゴールを奪い、自分が勝利をもたらすこと。それが何よりも大切だった。


だが、今は違う。


自分のポジショニング一つでクアンが持ち前の速さを解き放ち、ジャックが中盤で力を制御して仲間を生かし、林が味方の背中を救う。


自分が仲間の才能をつなぐことで、それぞれの長所が一つに束ねられ、ピッチ全体を動かす力になっていく。


ストライカーとしてゴールネットを揺らす快感と、仲間とともに局面をつくり出す歓び。その二つが、胸の奥で静かに調和していた。


「ウジ様、集計終わったよ!」


舞がタブレットを抱えて駆け寄ってきた。画面には、プリンスリーグ東北の最新順位表が表示されている。


第1節:【2―1 〇】秋田グリッドFCユース戦

第2節:【3―2 〇】山形ユナイテッドFCユース戦

第3節:【0―2 ●】明青青森セカンド戦 

第4節:【2―2 △】遠野市立高校戦

第5節:【4―0 〇】東北学園高校戦

第6節:【3―1 〇】高志高校戦

第7節:【1―1 △】仙台アルベガFCユース戦

第8節:【3―1 〇】宮城セント学院戦

通算戦績、五勝二分一敗。勝ち点17。


首位の明青青森セカンドを追う、二位での折り返しだった。


「凄いよ、城南が開幕前の下馬評を覆して、前期を二位で終えるなんて! ウジ様のスペース管理のおかげで、連戦中も無駄な走りが減ったし、今のところ怪我人もゼロだよ!」


舞が誇らしげに画面を示す。


そこへ、パイプ椅子に腰掛けていた吉良剛監督が、ゆっくりと立ち上がった。


部屋のざわめきがすっと収まり、部員たちの視線が指揮官へと注がれる。


剛は腕を組み、精悍な顔つきで選手たちを一人ひとり見渡した。


「よく戦った。四月のどん底から、お前たちは自分たちの足で這い上がり、プリンスリーグの荒波を乗り越えてみせた。……だが、浮かれるなよ」


剛の声が、一段低く響いた。


「リーグ戦はここで一時中断だ。次にお前たちが立つピッチは、通年の勝ち点を争うリーグではない。一度でも負ければ、そこで終わる夏のトーナメントだ」


その言葉に、三年生の佐々木や千葉、八重樫たちの表情が引き締まった。


インターハイ岩手県予選。


高校サッカーにおいて、選手権と並ぶ大きな目標の一つ。そして、敗れればその場で引退を突きつけられる三年生もいる、一発勝負の戦いである。


「遠野をはじめ、県内のライバルたちはお前たちを徹底的に研究し、勝ちにくる。追われる立場になったとき、本当の強さが試されるぞ」


剛の鋭い眼光が、新入生たちへ、そして氏真へと向けられた。


「全員、準備を怠るな。岩手の頂点を獲りに行くぞ!」


「「――うおおおおっ!!」」


部員たちの咆哮が、ロッカールームの壁を震わせた。


諸島が力強く頷き、クアンが拳を握り締め、林とジャックが闘志を瞳に宿す。


氏真は胸元のユニフォーム、背番号9をそっと指先でなぞった。


初夏の風の向こうに、さらに熱く、過酷な夏の陽射しが立ち上り始めている。


力で押し切るだけでも、技で翻弄するだけでもない。互いの強みを認め、それを生かし合う剛雅一体の城南高校サッカー部が、いよいよ岩手の頂点を目指す戦いへと歩みを進めようとしていた。


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