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『The Renaissance striker Uzizane(転生ストライカー氏真)』 ~戦国最低スペック大名が現代に転生したら、天才ストライカーになってしまった件~  作者: みなも
第8章 急 ~ユースCL王道編~

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第136話:【病床への誓い】

【あらすじ】

前半を0―1で折り返したビートルズFC戦。氏真は、自らの判断ミスの裏にある焦りと向き合う。そんな彼のもとへ届いた母・有理からの短い音声。病床で戦う母の言葉が、氏真のフットボールを再び本来の場所へ導いていく。

1. 閉ざされた熱気


ロッカールームの重い扉が閉まると同時に、激しい息遣いと汗の匂いが狭い空間に満ちた。


前半を終えて、0―1。


ベンチに腰を下ろした選手たちの肩が、大きく上下している。


中盤で相手の激しい寄せを受け続けたサビエルは、荒い息のままボトルの水を喉へ流し込み、カレスは太ももの裏にアイシングの袋を押し当てて顔を歪めた。


走力とフィジカルを前面に押し出し、ボールを失った瞬間に二、三人で囲い込んでくるビートルズFCのプレッシング。


パスの出し手を寸断され、セカンドボールの回収でも後手を踏み続けた四十五分間は、数字以上の重圧となってバルシーノの選手たちへ重くのしかかっていた。


作戦ボードの前に立ったジョゼップ監督が、ホワイトボードを指先で叩いた。


「下を向くな。まだ前半の1点だ。修正の余地は十分にある」


声は低く、淡々としていた。


焦りを煽ることなく、盤面の磁石を静かに動かしていく。


「相手はボールを奪われた瞬間、全員の矢印を中央のボールホルダーへ向けてくる。さらに右サイドバックのニールがボランチの位置へ絞ることで、中盤の中央を極端に圧縮している。だが、それは裏を返せば、外側のレーンを完全に明け渡しているということだ」


ペン先が、ボードの左サイドの大外を突いた。


「中央で楔を受けた選手が、一人で前を向く必要はない。相手が寄せてくる力を利用し、ワンタッチ、ツータッチで外へ逃がせ。相手を左右に揺さぶり、中央の密集を広げさせるんだ」


「はい!」


選手たちの声が重なる。


エステバンがユニフォームの袖で額の汗を拭い、サビエルが小さく息を吐いて頷いた。


戦術的な歪みと、その解決策は提示された。


だが、ベンチの隅でスパイクの先を見つめていた背番号29、吉良氏真の意識は、監督の指示を受け止めながらも、自らの内側へ沈み込んでいた。


---


2. 失点の解剖


氏真の脳裏で、前半三十八分の失点場面が、音もなく巻き戻されていた。


自陣深くからサビエルが差し込んだ、鋭いグラウンダーの縦パス。


バイタルエリアで下がりながら、足元へボールを迎えた瞬間。


(あの時、僕は何を見ていた?)


記憶を、ひとつずつ辿り直す。


相手CBのカラガが背後から距離を詰めていた。


斜め前方からは、ボランチのヘンダーソンが挟み込みに入っている。


そして左サイドの大外では、エステバンがマークを外し、前方のスペースへ走り出す準備に入っていた。


見えていた。


カラガが食いついたことで、その背後にスペースが生まれていたことも。


エステバンへワンタッチで流せば、相手の守備ブロックが内側から崩れることも。


それなのに。


なぜ自分は、右足のインサイドでボールを前へ持ち出そうとしたのか。


なぜ、自分で前を向いてこじ開けようとしたのか。


相手の寄せが想定より速かったからではない。


カラガの身体の強さに屈したからでもない。


(……焦っていた)


認めた瞬間、胸の奥が軋んだ。


今日、カタルーニャの病室では、母が過酷な治療の山場を迎えている。


早く先制点が欲しい。


早く結果を出し、母を安心させたい。


自分がゴールを決め、勝利という確かな報せで母を支えたい――。


その思いが、判断の順番を狂わせていた。


仲間へ預けるという選択肢を自ら切り捨て、相手が最も網を張っている中央へ、自分から入っていった。


「母のために勝つ」


その思いの裏側にあったのは、自分自身の背負い込みだった。


ピッチの上に私情を持ち込み、目の前の状況よりも、自分が出すべき結果を優先していた。


その一瞬を、ビートルズFCは見逃さなかった。


(僕のミスだ。相手のプレスのせいじゃない……僕が、自分のフットボールを歪めたんだ)


深く息を吐く。


原因は分かった。


だが、それだけでは胸の奥に残った焦りまでは消えなかった。


---


3. 届いた声


その時だった。


ベンチの足元に置いていた遠征バッグの中で、スマートフォンが短く震えた。


氏真が画面を覗く。


日本にいる早川愛からのメッセージだった。


『有理お母様から、氏真様へ』


短い文面とともに、一つの音声ファイルが添付されている。


氏真は周囲を確認し、画面をタップした。


小さなイヤホンを右耳に差し込む。


空調の低い風音。


遠くで鳴る、規則的な電子音。


そして、衣擦れの音。


聞き慣れた母の声が落ちてきた。


『……氏真』


息が浅い。


言葉を継ぐたび、微かに呼吸が途切れている。


それでも、その声の芯だけは失われていなかった。


『結果を急いではいけません。……あなたらしく、美しく舞いなさい。私は決して、負けないから』


プツリ、と音声が切れた。


氏真はイヤホンを外し、画面を見つめた。


十秒にも満たない、短い言葉だった。


けれど、その一言が胸の奥へ静かに落ちていく。


---


4. 澄みわたる足元


(そうか……)


氏真は目を閉じた。


母は、息子の勝利を生きるための条件になどしていない。


病床にあっても、自分自身の戦いを、自分の足元で続けている。


それなのに自分は、「母のために早く勝つ」と焦り、勝手に母の戦いまで背負おうとしていた。


母の戦いを信じるなら、自分も自分の戦いをすればいい。


結果を急ぐ必要はない。


一人で背負う必要もない。


ピッチの上に立ち、仲間を見て、相手の重心を見る。


ボールを受ければ、次の瞬間に何が起こるのかを考える。


相手が自分へ寄ってくるなら、その分だけ仲間が自由になる。


ならば、預ければいい。


自分が前を向く必要がない場面で、無理に前を向く必要などない。


余計な力が、少しずつ抜けていく。


何かが覚醒したわけではない。


新しい力を得たわけでもない。


ただ、余計なものがなくなって、本来の感覚が戻ってきただけだった。


氏真はもう一度、前半三十八分の場面を思い返す。


カラガが寄せてくる角度。


ヘンダーソンの間合い。


そして、その二人が自分へ寄ったことで空いた左のスペース。


今度は、そこがはっきりと見えた。


---


5. 後半への一歩


氏真は屈み込み、スパイクの紐をほどいた。


左右の結び目を均等に引き絞る。


足の甲に革が吸いつく。


踵を床に一度打ち付けた。


ギュッ、と乾いた音が響いた。


立ち上がった氏真を、隣でレガースを着け直していたエステバンが見上げる。


「……おい、氏真」


「エステバン」


「後半、俺のところへ出せるか?」


短い問いだった。


氏真は頷いた。


「出す。相手が僕に寄ったら、迷わず外へ預ける」


エステバンの口元がわずかに上がった。


「……当たり前だ。出せよ。一本も無駄にしねえ」


「ああ。頼む」


その言葉だけで十分だった。


主審の笛が、通路の奥から響いてくる。


後半開始を告げる合図。


「よし、行くぞ!」


主将のラマジェが叫び、選手たちが一斉に立ち上がった。


スパイクが床を叩く音が重なる。


氏真は最後尾から歩き出した。


通路の向こうから、冷たい風が流れ込んでくる。


一人でこじ開ける必要はない。


相手が寄ってくるなら、寄せればいい。


その分だけ、誰かが空く。


そこへボールを預ける。


仲間が動かせば、自分も動く。


そして最後に空いた場所へ入る。


母は、母の場所で戦っている。


ならば自分も、この足元で、自分のフットボールを全うする。


氏真は顔を上げた。


そのまま、ピッチへ向かって歩き出した。


【次回予告】

同じ場所、同じ相手、同じプレッシャー。それでも――氏真の選択が変われば、試合の景色は変わる。追い詰められたビートルズFC。背番号29を止めるため、ロバート・リーが打つ次の一手とは――?

第137話:【不屈の不死鳥】次なる天下へのパスを回せ!


ーーーーお願いーーーーーーーーーーーーーーーーー

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

もし今日、ほんの少しでもこの物語に心を動かされたなら――、ちょと面白いと思ったら――

投げ銭はいりません。

その代わり、せめて、評価☆☆☆☆☆を一つ、何卒、そこをなんとか置いていってくださいませ(笑)。

今後も氏真の物語を、温かく一緒に見届けてください。

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