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『The Renaissance striker Uzizane(転生ストライカー氏真)』 ~戦国最低スペック大名が現代に転生したら、天才ストライカーになってしまった件~  作者: みなも
第8章 急 ~ユースCL王道編~

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第130話:【天下分け目の開戦】

【あらすじ】

スペイン国王杯決勝、伝統のクラシコ。バルシーノとFCリアル・マフリットが、互いの強みをぶつけ合う。氏真は仲間との連携で堅守を崩そうとするが、相手もまた、一瞬の隙を逃さない。激闘の前半、その結末は――。

1.沸騰する擂鉢


エスタディオ・ラ・カルトゥハを揺らす地鳴りのような咆哮が、ピッチの芝生を微かに震わせていた。


スタンド南側を埋めるバルシーノの青と臙脂、北側を染め上げるマフリットの純白。


両サポーターが打ち鳴らす太鼓のリズムが重なり合い、アンダルシアの青空へ重低音となって吸い込まれていく。


スペイン国王杯決勝。

伝統のクラシコ。


主審がホイッスルをくわえ、右手を高く掲げた。


ピィィィィッ!


硬質な笛の音が、大歓声を切り裂いた。


開始の瞬間から、ピッチ上の強度はトップチームの公式戦と何ら変わらない熱を帯びていた。


ボールを保持してパスを回し始めたバルシーノに対し、白いユニフォームが一斉にラインを押し上げてくる。


最前線のクリストファー、トップ下のホセ・エルナンデス、そして両翼のロバート・ジョゼッフとヴィエラ。


[4-2-3-1]の陣形を保ったまま、プレスの第一波が猛然と間合いを詰めてきた。


「サビエル、前を向かせない!」


叫び声とともに、マフリットのアンカー、ラファエルが中盤の底へ鋭く踏み込んでくる。


ピボーテのサビエルは、相手の突進を受け止めることなく、ワンタッチで右のアントニへ逃がした。


球際が重い。


芝生を削るスパイクの激突音が、ピッチの各所で連続して響く。


バルシーノはボールを循環させながら相手の守備ブロックにズレを作ろうと試みるが、マフリットの最終ライン――屈強な体躯を誇るセンターバックのヘクトールとリカルドを中心に、その陣形は岩のように堅固だった。


少しでもボールの置き所が乱れれば、激しいチャージで奪いにかかる。


そしてボールを奪うや否や、最短距離で前線へ刺し込んでくる素早い切り替え。


「焦るな! ボールを動かせ!」


主将のゴールキーパー、トニ・ラマジェが最後方から声を張り上げる。


互いに一歩も引かないまま、時計の針だけが二十分を指そうとしていた。


前線の中央で、氏真は相手CBヘクトールの立ち位置を見極めながら、呼吸を整えていた。


(……中央は、完全に閉じられている)


昨夜、地下通路ですれ違った織田凱斗の姿は、まだピッチにない。


マフリットのベンチ、長椅子の中央に座り、腕を組んで戦況をじっと見つめているのが視界の端に映っていた。


あいつが出てくる前に、この堅陣を崩さなければならない。


氏真の視線が、相手の守備ブロックのわずかな重心の傾きを捉え始めた。


---


2.空間の調律


前半二十五分。


膠着した展開を動かしたのは、中盤のサビエルだった。


左インサイドハーフのイネスとのパス交換で相手ボランチを外側へ引き出し、わずかに中央のコースが開いた瞬間、鋭い縦パスが前線へ差し込まれた。


狙う先は、相手バイタルエリアの手前。


氏真が、最前線から中盤へと音もなくポジションを落としていた。


いわゆるファルソ・ヌエベの動き。


「前を向かせるかよ!」


マフリットのCBヘクトールが、氏真の反転を警戒して背後から猛然と食いついてくる。


筋骨隆々の巨躯が、氏真の背中を覆うように間合いを詰めた。


以前の氏真なら、ここで自らボールを収め、一人でターンしようとしていただろう。


だが、今の氏真の身体に、不要な力みはなかった。


足元へ届く縦パスに対し、氏真はボールを止めなかった。


あらかじめ身体の向きを左斜め前へと開き、迫り来るヘクトールの突進速度を背中で感じ取りながら、左足のインサイドでボールの軌道をわずかに撫でるように叩いた。


ノックオン。


ボールは勢いを失うことなく、左サイドから内側へ走り込んできたエステバンの足元へ滑り込む。


あの日、練習場で掴んだ感覚。


ボールを預けることは、逃げではない。


他者に委ねるからこそ、相手の守備が動く。


パスを出したその刹那、氏真の足は止まっていなかった。


軸足の力を抜き、前へ突進してきたヘクトールの脇をすり抜けるように、相手ディフェンスラインの裂け目へ向けて一気に走り出す。


狙うのは、ヘクトールが釣り出されて空いたCBと右SBの間のスペース。


「しまっ――」


ヘクトールが慌てて足を止め、背走しようとする。


同時に、ボールを持ったエステバンを警戒し、もう一枚のCBリカルドとボランチのアルバロが中央へ絞り込んできた。


守備の基準点が、ボールを持つエステバンと、裏へ走り抜ける氏真の二点へ引き裂かれた。


その瞬間、マフリットのゴール前、中央のバイタルエリアに誰もいない空白が生まれた。


エステバンは迷わなかった。


自らに群がる相手DFを引きつけたまま、右足のアウトフロントで中央へ鋭いグラウンダーの折り返しを流し込む。


氏真が空けたその場所へ、自陣から誰よりも早くスプリントを開始していた男が飛び込んできた。


右インサイドハーフ、ダビアン・シヴァ。


トップスピードのままボールの走路へ身体を滑り込ませる。


相手アンカーのラファエルが必死に足を伸ばすが、ダビアンの踏み込みの方が半歩早かった。


無駄のない踏み込みから、右足を振り抜く。


ドォンッ!


地を這うような強烈なシュートが、GKマヌエルの伸ばした右手を弾き、ゴール左隅のネットへ突き刺さった。


前半二十七分、バルシーノ先制。


1―0。


「よっしゃあぁぁッ!」


ダビアンが雄叫びを上げ、コーナーフラッグへと走り出す。


エステバンがその背中に飛びつき、右ウイングのレオンが歓喜の声を上げて抱きついた。


駆け寄る仲間の輪の中で、氏真は自らの足元を見つめた。


自分が決めたゴールではない。


だが、相手を引きつけて預け、自分が動くことで味方に道を開く――そのプレーが仲間と連鎖して奪った一点だった。


---


3.冷徹なる回答


だが、マフリットは動揺しなかった。


失点直後、キャプテンマークを巻くリカルドが手を叩いて守備陣を鼓舞し、前線のクリストファーは静かにセンターサークルへボールをセットした。


失点したことで、むしろマフリットの陣形はより引き締まり、研ぎ澄まされていた。


「油断するな! 切り替えを早くしろ!」


カレスが最終ラインから声を飛ばす。


リードしたバルシーノは、さらにボール保持率を高めて主導権を握ろうとした。


氏真やサビエルを経由しながら、相手陣内でパスを繋いで隙を窺う。


しかし、前半四十分を過ぎた頃、中盤でわずかなズレが生まれた。


右サイドでパスを受けたレオンに対し、マフリットの左SBローシャが鋭い間合いで前進を阻む。


こぼれ球を拾おうとしたダビアンの足元へ、ボランチのアルバロが身体を投げ出してスライディングを仕掛けた。


激突音とともに、ボールが中央へと転がる。


その落下点に、すでに歩を進めていた男がいた。


背番号10、クリストファー。


首を素早く振り、ボールを受ける前から周囲の配置を認知していたクリストファーは、トラップと同時に前を向いた。


相手ボランチが寄せてくるよりも早く、右足をコンパクトに振り抜く。


放たれたのは、バルシーノの左サイドバック、キケの背後のスペースへと落ちる、滞空時間の短いライナー性のスルーパスだった。


攻勢に出て押し上げていたバルシーノの、広大な裏の空間。


そこへ、驚異的な初速で抜け出してきた影があった。


右サイドハーフのロバート・ジョゼッフ。


「キケ、戻れ!」


フェランが叫ぶが、前を向いて加速したジョゼッフには追いつけない。


ペナルティエリア右深くへ侵入したジョゼッフは、GKトニ・ラマジェとCBカレスの間に、鋭いグラウンダーのクロスを配給した。


そのゴール前へ、スルーパスを出した直後から全速力で侵入してきた影があった。


クリストファー自身だった。


飛び込んできたクリストファーは、追走するフェランの前へ身体を滑り込ませ、右足のインサイドで合わせる。


ズバァンッ!


鋭い炸裂音がゴールネットを揺らし、スタジアムの北側から地鳴りのような歓声が爆発した。


前半四十二分、マフリット同点。


1―1。


ボール奪取から三本のパス。


配球からフィニッシュまでを自ら完結させたクリストファーの、冷徹な一撃だった。


---


4.嵐の予兆


ピィ、ピィ、ピィーーーッ!


前半終了を告げる主審の長い笛が鳴り響いた。


スコアは1―1。


互いに一歩も引かぬまま、試合は振り出しに戻った。


肩で息をしながら、選手たちがピッチを引き揚げていく。


隣を歩くエステバンが、悔しそうに前髪を乱暴にかき上げた。


「……クソが。一撃で持ってかれやがった」


「でも、僕たちのパスワークは通用しているよ」


氏真の声は落ち着いていた。


相手のカウンターの精度は凄まじかったが、自分たちの連携で奪った先制点は、確かな手応えを残している。


だが、本当の勝負はここからだ。


タッチラインを越える直前、氏真の視界の先、マフリットのベンチ前で人影が立ち上がった。


白いジャージの上着を脱ぎ捨て、半袖のユニフォーム姿になった背番号9。


織田凱斗だった。


凱斗はピッチ脇に片膝をつき、右足のスパイクの紐を力強く締め直していた。


結び目を強く引き、ゆっくりと立ち上がる。


その黒い瞳が、正確に氏真を捉えた。


三十メートル離れた距離からでも伝わってくる、肌を刺すような冷たい圧力。


凱斗の口元が、わずかに吊り上がった。


獲物を見定めた肉食獣のような、獰猛な笑み。


(……来る)


氏真の胸の奥で、心臓が静かに、だが熱く脈打った。


前半に見せたマフリットの規律ある組織。


後半、あいつがピッチに入れば、その秩序はすべて、ゴールを奪うための力へと姿を変える。


ロッカールームへと続く暗い通路へ足を踏み入れながら、氏真は右足に力を込めた。


盤面を破壊する嵐が、すぐそこまで迫っていた。

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