↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『The Renaissance striker Uzizane(転生ストライカー氏真)』 ~戦国最低スペック大名が現代に転生したら、天才ストライカーになってしまった件~  作者: みなも
第8章 急 ~ユースCL王道編~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
132/159

第129話:【国王杯決勝前夜:宿命の再会】

【あらすじ】

国王杯決勝を翌日に控え、静まり返ったスタジアム地下で氏真は、かつての宿敵・織田凱斗と再会する。欧州でさらなる進化を遂げた二人は、それぞれ異なるストライカーの哲学を胸に、互いの現在地を確かめ合う。明日、ピッチで決着をつけるために――。

1. 地下通路の静寂


アンダルシアの夜気は、日中の乾いた熱を脱ぎ捨て、底冷えのする夜へと沈んでいた。


セビリアの夜空に浮かぶ月が、中立地スタジアム「エスタディオ・ラ・カルトゥハ」の輪郭を白く照らし出している。六万人を収容する巨大なコンクリートスタンドは、明日の熱狂を前に、音もなく息を潜めていた。


公式記者会見とピッチ確認を終えた地下通路。

等間隔に並ぶ蛍光灯が、灰色の壁と床に青白い影を落としている。


明日の午後、この通路を抜けた先はカタルーニャの青と臙脂、そして首都マドリードの純白に染まり、耳を聾する歓声で満たされる。だが今は、空調ダクトが吐き出す微かな風音以外、物音一つ響かない。


氏真はバルシーノのベンチコートを羽織り、一人で通路を歩いていた。


肩に掛けたシューズケースが、歩行のリズムに合わせて小さく揺れる。


足音はほとんど立たない。


踵から足裏の外側、母指球へと、体重を滑らかに前へ受け流す歩法。


昨日、夕暮れのグラウンドでエステバンと交わしたパスの感触が、まだ足裏に鮮明に残っていた。


ポケットの中で、スマートフォンが一度だけ短く震えた。


画面に目を落とす。


日本へ戻った愛からのメッセージだった。


『有理お母様が一回目の抗がん剤投与を終えられました。発熱と吐き気がありますが、意識はしっかりしており、「明日の試合は必ず見る」と仰っています。氏真様、ご自身の足元に集中なさってください』


短い文面の向こうに、白いシーツを握りしめている母の姿があった。


母は戦っている。

自分の身体で、自らの尊厳を懸けて踏み留まっている。


――私の病気を、あなたのサッカーの言い訳にしないで。


あの日、病室で叩きつけられた母の言葉が、胸の奥で静かな温度を保ち続けている。


背負うべきなのは、他人の命ではない。


ピッチに立つ自分自身の足元であり、共に戦う仲間たちとの呼吸だ。


迷いはなかった。


研ぎ澄まされた静けさだけが、身体の芯を満たしていた。


その時、前方の暗がりから、規則正しい音が響いてきた。


コツッ、コツッ、コツッ――。


重く、硬質で、地面を捉える足音。


氏真の視線が、自然と前方を捉えた。


---


2. 暗がりからの足音


歩行のピッチ、接地から抜けるまでの体重移動。


かつて知っていた、上半身の筋力で周囲を威圧しながら練り歩くような足取りではない。


骨盤が垂直に立ち、腰の位置がぶれない。


地面を力任せに蹴るのではなく、自らの体重を推進力へ変える、無駄のない歩行。


直角に折れ曲がった角の影から、白と金のジャージを纏った少年が現れた。


胸元にはレアル・マフリットのエンブレム。


短く刈り揃えられた黒髪、彫りの深い相貌、そして据わった黒い瞳。


織田凱斗。


二人の距離が、十歩、五歩、三歩と縮まる。


示し合わせたかのように、足が止まった。


薄暗い通路の中央で、二つの影が静止する。


「……久しぶりだな、氏真」


低く、腹の底から響くような声だった。


威嚇はない。


だが、凝縮された熱気が冷え切った空気をじりじりと押し広げていく。


氏真は表情を崩さずにその視線を受け止めた。


間近で見ると、戦術分析室のモニター越し以上に、凱斗の肉体の変貌がはっきりと分かった。


首の太さ、肩から背中にかけての厚み。


何より異質だったのは、その身体に纏う脱力だった。


かつての凱斗なら、対峙した瞬間に全身の筋肉を強張らせて殺気を放っていたはずだ。


しかし今の凱斗は、両腕を自然に垂らし、肩の力を完全に抜いている。


無駄な力みが消えたことで、その体躯に秘められた質量が、確かな重圧となって立ち込めていた。


凱斗の視線もまた、氏真の立ち姿を捉えていた。


足首の柔らかさ、膝の抜き、そして揺らぎのない視線。


凱斗の口元が、わずかに吊り上がった。


「……ふん。母親が倒れたって聞いてたから、もっと死にそうな顔をしてるかと思ったがな」


氏真の呼吸は乱れなかった。


「母さんは戦っているよ。だから僕も、ここにいる」


静かで、淀みのない返答だった。


煽り返すでもなく、言い訳をするでもない。


ただ事実だけを置く声に、凱斗の眼光がわずかに鋭さを増した。


---


3. 二つの合理


「相変わらず、癪に障るツラだ」


凱斗が一歩、踏み出した。


靴底が床を捉える重い音が鳴る。


「全日本の時からそうだ。お前のその澄ました顔も、すべて見透かしたようなパスも、鼻持ちならねえ。……小綺麗な連携で世界を支配できると思うなよ。最後にねじ伏せるのは、ゴールを奪い取る力だ」


凱斗は太い指先を氏真に向けた。


「半年間、クリストファーの下で前線に張らされて、ようやく分かったよ。……あいつのパスも、チームの戦術も、俺が最後にフリーでシュートを撃つための道具にすぎねえ。相手のDFを背中で受け、味方を使ってスペースを開け、最後に俺が仕留める。俺の得点のために、全員を使う。それがストライカーの仕事だ」


「明日のピッチで、お前のその雅とやらを力尽くで引き裂いてやるよ」


氏真は、ポケットから手を出した。


視線は外さない。


「セニョール戦のポストプレー、見たよ」


穏やかな声だった。


だが、その言葉の芯には確固たる強さがあった。


「相手を背中で受け止めて、衝撃を受け流してワンタッチで落とす。……見事だった。君は以前よりもずっと、恐ろしいストライカーになってる」


凱斗の眉がわずかに動く。


虚勢でもお世辞でもない。


相手の技術の真価を正確に見抜いた言葉だった。


氏真は半歩、前へ出た。


「でも、僕のサッカーも前とは違うよ」


「あ?」


「全部を一人で解決しようとするのをやめたんだ。仲間にボールを預けるから、相手のマークがズレる。相手が動くから、僕一人では絶対に作れなかった時間と角度が生まれる。……預けるのは、最後に僕自身が決めるためだ」


「道具として味方を使う君と、互いを生かして最後に決める僕。……どちらのやり方が上か、明日ピッチで確かめよう」


二人の視線が、無言のまま交錯する。


数秒の沈黙の後、凱斗の喉から低く掠れた笑いが漏れた。


「……へっ。言ってくれるじゃねえか」


凱斗はシューズケースを持ち直し、氏真の脇をすり抜けるように歩き出した。


「食い殺し甲斐があるぜ、氏真」


---


4. 背中越しの足音


すれ違う瞬間、二人の肩と肩の間にわずかな隙間が生まれた。


触れ合ってはいない。


だが、凱斗の歩みと、氏真の静かな集中が、通路の空気を二つに割るように擦れ違った。


互いに足を止めることはなかった。


振り返ることもなかった。


コツッ、コツッ、と遠ざかる凱斗の重い足音。


すっ、すっ、と前へ運ぶ氏真の静かな足音。


バルシーノのロッカールームの扉の前で、氏真は足を止めた。


トクン、トクン、トクン――。


静まり返った通路の中で、自らの心臓が力強く脈打っているのが分かる。


怖さはある。


あんな実力者が、味方を使う術まで身につけて立ちはだかっているのだ。


一つの判断の遅れが致命傷になる。


だが、胸の奥から湧き上がってくるのは、抑えきれない熱だった。


十四歳のストライカーとしての、抑えきれない渇き。


(たまらなく、楽しみだ)


氏真はドアノブに手をかけ、押し開けた。


室内には、明日の決戦に向けてスパイクを磨くエステバンや、静かにテーピングを巻くサビエル、レオンたちの姿があった。


ドアの音に、エステバンが顔を上げる。


目が合った瞬間、氏真は口元に微かな笑みを浮かべた。


迷いのない、澄んだ瞳だった。


明日、すべてをぶつける。


決戦の舞台へ向けて、静かに息を整えた。

【次回予告】

決勝の前半は、まさかの展開へ――。だが、本当の勝負はここからだった。

後半開始とともに、マフリットのベンチから一人の男が立ち上がる。

背番号9・織田凱斗。ついに「魔王」が、ピッチへ降りる。

第130話:【天下分け目の開戦】次なる天下へのパスを回せ!


ーーーーお願いーーーーーーーーーーーーーーーーー

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

もし今日、ほんの少しでもこの物語に心を動かされたなら――、ちょと面白いと思ったら――

投げ銭はいりません。

その代わり、せめて、評価☆☆☆☆☆を一つ、何卒、そこをなんとか置いていってくださいませ(笑)。

今後も氏真の物語を、温かく一緒に見届けてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。