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『The Renaissance striker Uzizane(転生ストライカー氏真)』 ~戦国最低スペック大名が現代に転生したら、天才ストライカーになってしまった件~  作者: みなも
第7章 破 ~ユースCL覇道編~

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第124話:【鳴り響く電話】

【あらすじ】

国王杯準決勝、激闘の後半戦。中3日の過密日程で消耗するバルシーノに対し、アトレFCが猛攻を仕掛け、試合は極限の消耗戦へと突入する。勝敗を分ける最後の攻防、その刹那に氏真が見せる研ぎ澄まされた判断とは――。そして、歓喜に包まれたロッカールームで、一本の電話が運命を変える。


1.泥沼の後半戦


後半開始を告げるホイッスルとともに、シウダ・エスポルティバのピッチを覆ったのは、アトレFCのなりふり構わぬ狂乱のハイプレスだった。


前半終了間際、氏真のスルーからイネスに勝ち越しゴールを許し、1-2のビハインドを背負ったアトレFC。


だが、彼らの闘将である主将ディエゴ・ゴメスの野太い咆哮とともに、その陣形はさらに一段高く押し上げられていた。


「前からハメろ! 相手の足はもう止まりかけてるぞ! 叩き潰せ!」


アトレFCの基本布陣[4-4-2]が、ペナルティエリア手前まで容赦なく圧縮してくる。


彼らはボールを持つバルシーノの選手に対し、徹底したマンツーマンの網を敷き詰めていた。


中盤の潰し屋ラウル・ビダルが、アンカーのサビエルへ激しいショルダーチャージを浴びせ、ユニフォームを掴まんばかりの距離で前を向かせない。


バイエルン遠征の死闘から、中3日。


すでに前節で限界まで酷使されたバルシーノの選手たちの脚には、鉛のような重みが張り付いていた。


普段なら軽快なワンタッチパスで相手のプレスをいなすサビエルやダビアンの足元から、わずかなキレが失われている。


パスの球速がほんのわずかに鈍り、受ける側の踏み込みが一歩遅れる。


ボールを奪っても、前線の氏真やエステバンへ繋ぐためのパスコースを作る予備動作が連動しない。


苦し紛れに前線へ蹴り出したロングボールは、190センチ近い体躯を誇るディエゴ・ゴメスにことごとく跳ね返された。


そして、跳ね返されたセカンドボールの回収位置には、アトレFCのボランチ、セルヒオ・ボテージャが常に先回りしていた。


拾われ、サイドへ振られ、鋭いクロスを放り込まれる。


クリアしても、ペナルティエリアの外へディフェンスラインを押し上げる走力が残っていない。


押し込まれ、跳ね返し、また拾われる――出口のない悪循環。


そして、後半18分。


左サイドを強襲したホアキン・モラレスのクロスを、右サイドバックのアントニが身体ごと投げ出して辛うじてコーナーキックへ逃れた。


張り詰める冷たい空気。


アトレFCのキッカーが蹴り込んだ鋭いインスイングのボールに対し、ニアサイドでディエゴ・ゴメスがフェランと激しく競り合う。


鈍い打球音とともに弾かれたボールが、ペナルティスポット付近の密集へ落ちた。


バルシーノ守備陣が一斉に足を伸ばす。


だが、疲労で沈みかけた軸足を踏み直す動作が、ほんのわずかに遅れた。


その隙を逃さなかった。


泥にまみれたスパイクを滑り込ませてきたのは、アトレFCの点取り屋、シメオン・バレラ。


混戦の中から伸ばされたバレラの右足が、低く弾んだボールを正確に捉えた。


GKトニ・ラマジェが必死に右手を伸ばす。


だが、密集の足元をすり抜けたボールは、無情にも右サイドネットの内側へ突き刺さった。


バシュッ!


後半18分、2-2。


アトレFCの選手たちが咆哮を上げ、ベンチの控え選手までもがタッチライン際で拳を突き上げる。


必然の失点だった。


押し込まれ続け、セカンドボールを支配され続けた構造的な歪みが、ついにスコアを振り出しへと引き戻したのだ。


---


2.限界領域の耐忍


「下を向くな! まだ同点だ! 前を見ろ!」


ゴールマウスの中からボールを拾い上げ、トニ・ラマジェが喉を枯らして味方を鼓舞する。


だが、ピッチ上のバルシーノの選手たちを包む疲労は、すでに肉体の限界へ迫っていた。


カレスは太ももの裏を押さえて顔をしかめ、サビエルは肩を大きく上下させ、ユニフォームの胸元を汗と泥に染めている。


もしこのまま90分を終え、15分ハーフの延長戦へと突入すればどうなるか。


運動量とフィジカル、そして肉弾戦の強度で押し切ろうとするアトレFCに、なす術もなく呑み込まれるのは明白だった。


(延長に入れば、持たない……)


ベンチ前で腕を組むジョゼップ・カサス監督の瞳にも、冷徹な焦燥の色が宿っていた。


後半25分、30分と、無慈悲に時間が削り取られていく。


アトレFCは勢いに乗り、前線のアドリアン・ルケとシメオン・バレラが連動して激しいチェイシングを仕掛ける。


中盤のラウル・ビダルが、ファウルすれすれの激しいコンタクトでダビアンを突き飛ばす。


主審の笛が鳴り、試合が細切れに止まる。


時間が経過するごとにバルシーノの足は重くなり、完全に相手の土俵へと引きずり込まれていた。


それでも、バルシーノの守備陣は耐えていた。


足がつりかけながらも、相手のロングフィードに対して頭から飛び込むフェラン。


ステップを踏み直し、泥だらけのスライディングでクロスを跳ね返し続けるカレス。


トニ・ラマジェが果敢な飛び出しでハイボールをがっちりとキャッチし、すぐさま味方を怒鳴りつけてラインを押し上げさせる。


美しくパスを繋ぐことなどできない。


だが、この泥沼のピッチの上で、彼らは「勝利を手繰り寄せるための時間」を死守するため、剥き出しの執念でゴールマウスの前を塞ぎ続けていた。


その泥だらけの背中を、最前線から見つめていた背番号29、吉良氏真の瞳の奥で、静かな火が灯っていた。


(皆が、後ろで身体を張って耐え抜いている。……ならば、前線の僕が果たすべき役目は、ひとつしかない)


氏真の呼吸が、深く、静かに整えられていく。


連戦の疲労は確かにある。


だが、その疲労によって余計な力みが削ぎ落とされ、逆に身体の感覚が研ぎ澄まされていくような、不思議な静けさがあった。


---


3.脱力の一閃


時計の針は、後半38分を指し示していた。


アトレFCが左サイドのホアキン・モラレスへ送ったロングパスを、アントニが身体ごとぶつかりながら辛うじてタッチラインの外へ弾き出す。


アトレFCのスローインからのリスタート。


中央へ侵入しようとしたラウル・ビダルのトラップ際へ、背後から全速力で疾走してきたサビエルが爪先をねじ込んだ。


泥水とともに弾かれたこぼれ球を、エステバンが素早く前向きで収める。


「氏真ッ!」


エステバンは反転すると同時に、迷いなく左足を振り抜いた。


グラウンダーで放たれた鋭い楔のパスが、芝を滑るように敵陣のバイタルエリアへ突き抜ける。


ターゲットは、中央で相手センターバックを背負い、一歩ポジションを下げて受ける姿勢を取った氏真。


その瞬間、氏真の背後から地鳴りのような足音が迫った。


アトレFCの屈強なストッパー、パブロ・ナバロである。


「前は向かせねえッ!」


ナバロは咆哮とともに、氏真がボールに触れる刹那を狙い、背中へ全体重を乗せた強烈なチャージを仕掛けてきた。


力で対抗しようと両足を踏ん張れば、疲労した足元をすくわれる。


だが、氏真は背中越しに、迫り来るナバロの進入角度、速度、そして右肩が前傾した体重移動を感じ取っていた。


ナバロの分厚い胸板が、氏真の背中に激突する――まさにその刹那。


氏真は、背中の力をふっと抜いた。


支持脚の膝を柔らかく沈め、接触の瞬間に自らの身体の軸を半歩だけ横へずらす。


相手の推進力を、正面から受け止めない。


ドォン!


ナバロの強烈なチャージは、氏真を捉えたはずの勢いを持て余し、そのまま前方へ流れていった。


前のめりになったナバロが足をもつれさせ、泥の上へ手をつく。


その横を、氏真は身体を滑らかに反転させながら抜けた。


前を向く。


ペナルティエリア中央、ゴールまで約16メートル。


目の前には、シュートコースを塞ごうと猛然と間合いを詰めてくる武闘派守護神、ウナイ・アルス。


アルスは両腕を広げ、至近距離のシュートを防ぐために腰を落とした。


その瞬間を、氏真は見逃さなかった。


両足が地面を捉える。


軸足へ体重が沈み、次の動作へ移る直前、GKの身体が一瞬だけ止まった。


大振りな助走など要らない。


氏真は右足を後ろへ振りかぶることなく、膝下のコンパクトなしなりだけで、足元へ滑り込んできたボールの芯を右足インサイドで正確に捉えた。


パシュッ――。


放たれたボールは、低く芝を滑走した。


ウナイ・アルスが伸ばした右足の爪先のわずか数センチ脇。


逆を突かれた守護神が見送る中、ボールは左サイドネットの内側へ静かに吸い込まれた。


ザシュッ!


後半38分。


3-2!


バルシーノ、勝ち越し!


---


4.歓喜のタイムアップ


「うおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」


ベンチから控え選手たちとスタッフが雪崩を打って飛び出し、テクニカルエリアの白線を越えて雄叫びを上げた。


ゴールネットを背に振り返った氏真の元へ、エステバンが、レオンが、サビエルが、全力で駆け寄ってくる。


「氏真! 氏真ァッ!!」


「最高だ、お前……! 本当に決めやがった!」


泥だらけの身体が幾重にも重なり合い、ピッチの上に歓喜の輪ができる。


失点したアトレFCの選手たちは、膝に手をつき、信じられないものを見るように天を仰いでいた。


残り時間はアディショナルタイムを含めて約10分。


追いつこうと焦るアトレFCは、主将のディエゴ・ゴメスを前線へ上げ、捨て身のパワープレイを仕掛けてきた。


ロングボールが次々とペナルティエリア内へ放り込まれる。


だが、一度手にしたリードを、バルシーノの守備陣は決して手放さなかった。


トニ・ラマジェがハイボールへ勇敢に飛び出してパンチングで弾き、こぼれ球をアレハンドロとカレスが泥だらけになって掻き出す。


そして――。


ピピピピピーーーッ!


死闘の終わりを告げる長いホイッスルが、カタルーニャの夕暮れの空に高らかに響き渡った。


試合終了。


FCバルシーノ 3-2 アトレFC。


激闘の末、FCバルシーノがスペイン国王杯決勝進出を果たした瞬間だった。


全員がピッチの上に大の字になって倒れ込み、激しい息を吐きながら、互いの健闘を称え合う。


スタンドのサポーターが総立ちになり、割れんばかりの拍手とチャントが降り注いでいた。


「勝った……勝ったぞ!」


「決勝だ! 相手はマフリットだぞ!」


「クラシコだ! マフリットを倒して、二冠獲るぞ!」


歓喜の咆哮が夕闇に木霊する。


先行して決勝進出を決めていた宿敵、FCレアル・マフリット。


クリストファーと織田凱斗が待つ、頂上決戦「エル・クラシコ」への切符を、バルシーノはその手で泥臭く掴み取ったのだ。


---


5.音の洪水と無機質な振動


スタジアム地下、ホーム側のロッカールームは、完全な熱狂の渦の中にあった。


「バールシーノ! バールシーノ!」


選手たちがロッカーの金属扉を拳でリズミカルに叩き、チャントを大声で歌い上げている。


シャワー室からは激しい水飛沫の音が響き渡り、白い湯気とともに笑い声が溢れ返っていた。


カレスが氷嚢を頭に乗せたまま奇妙なステップを踏み、エステバンがスポーツドリンクのボトルを掲げてレオンと抱き合っている。


ジョゼップ監督もまた、今日ばかりは選手たちの歓喜を咎めることなく、コーチ陣と固い握手を交わしていた。


欧州CLベスト4、そして国内国王杯決勝進出。


カンテラ史上、誰も成し遂げたことのない「二冠」という夢が、いまや明確な現実として目の前に横たわっていた。


その喧騒の輪から少し離れたベンチの端で、氏真は泥に汚れたスパイクを脱ぎ、ゆっくりと息を吐き出していた。


全身を心地よい疲労と脱力感が包み込んでいる。


エステバンが濡れた髪を拭きながらシャワー室から顔を出し、氏真に向かって白い歯を見せた。


「おい、氏真! いつまで座ってんだ、早くシャワー浴びて祝勝会行くぞ!」


「ああ、すぐに行くよ」


氏真が穏やかに微笑み返した、そのときだった。


ガン、ガン、とロッカーの扉を叩く音。


天井に反響する歌声と、激しいシャワーの飛沫音。


選手たちの掛け声、笑い声、スタッフの歓声。


その圧倒的な「音の洪水」の底から、わずかな異音が混ざり込んだ。


ブーッ……。


ベンチの足元に置かれた、氏真のエナメルバッグの奥。


最初は、床を伝う歓声の振動かと思った。


だが、短い間隔を置いて、再び規則的な振動が走る。


ブーッ……ブーッ……。


氏真は小さく眉を寄せ、カバンのジッパーを開けた。


暗いカバンの底で、スマートフォンの液晶画面が白く明滅していた。


ディスプレイに表示されていた文字は、氏真のよく知る名だった。


『早川 愛』


普段なら、試合終了直後に愛から電話がかかってくることなどあり得なかった。


愛はいつだって、氏真がロッカールームで仲間と過ごす時間を尊重し、落ち着いた頃合いを見計らって短い労いのメッセージを送ってくるのが常だったからだ。


(愛さんから……電話?)


胸の奥に、冷たい水滴がぽたりと落ちたような違和感が走った。


氏真は画面をスワイプし、端末を耳元へと当てた。


「もしもし、愛さん。今、試合が終わって――」


---


6.完全な暗転


『……氏真様』


受話口の向こうから返ってきた声を聞いた瞬間、氏真の言葉が喉元で凍りついた。


それは、氏真がこれまでの人生で一度も聞いたことのない声だった。


いつだって気品に満ち、穏やかで、どんな苦境にあっても背筋を伸ばして氏真を支え続けてきた少女。


その愛の声がいま、耐えきれない嗚咽を呑み込みながら、激しく震えていた。


「愛さん……? どうしたの、一体――」


『氏真様……お願いですから、落ち着いて聞いてくださいませ』


スピーカーの奥から、愛が浅く息を吸い込む微かな音が伝わってくる。


そして、途切れ途切れに紡がれた、あまりにも冷たく重い一言。


『……有理お母様が……病院で……』


ドクン、と氏真の心臓が激しく跳ね上がった。


次の瞬間――。


ロッカールームを揺るがしていたチームメイトたちの歌声が消えた。


ロッカーの扉を叩く金属音も、激しいシャワーの飛沫音も、仲間たちの笑い声も。


すべての音が、まるで世界から音そのものが切り離されたかのように、一瞬で遠ざかり、氏真の耳から消え失せた。


完全な、無音。


鮮やかだった視界から急速に色彩が抜け落ち、白黒の静止画のように世界が凍りついていく。


手の中のスマートフォンが、異様なほど冷たく感じられた。


「……母さんが、なんだって……?」


掠れた声で問いかける氏真。


その瞳の奥で、栄光に満ちていたはずの現実が、音もなく足元から崩れ去ろうとしていた。

【次回予告】

歓喜の絶頂から一転、病院へと疾走する氏真!

白い病床で告げられる、非情な現実。

立ち止まりかける少年の前に、母が抱えていた秘密が姿を現す!

第125話:【有理の告白と誓い】次なる天下へのパスを回せ!


ーーーーお願いーーーーーーーーーーーーーーーーー

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

もし今日、ほんの少しでもこの物語に心を動かされたなら――、ちょと面白いと思ったら――

投げ銭はいりません。

その代わり、せめて、評価☆☆☆☆☆を一つ、何卒、そこをなんとか置いていってくださいませ(笑)。

今後も氏真の物語を、温かく一緒に見届けてください。

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