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『The Renaissance striker Uzizane(転生ストライカー氏真)』 ~戦国最低スペック大名が現代に転生したら、天才ストライカーになってしまった件~  作者: みなも
第7章 破 ~ユースCL覇道編~

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第123話:【国王杯準決勝:白き魔王の咆哮】

【あらすじ】

激闘のミュンヘン遠征を制し、CLベスト4進出を果たしたバルシーノ。だが中3日で迎えた国王杯準決勝アトレFC戦の直前、電光掲示板に先行試合の結果が灯る。宿敵マフリットが圧勝。画面の向こう、組織の兵器として完成した織田凱斗が、静かに牙を研いでいた。


1. 春光と掲示板の影


三月下旬のカタルーニャには、柔らかな春の陽光が降り注いでいた。


わずか四日前、吹雪と凍土に足元をすくわれながらドイツの絶対巨人と死闘を演じたミュンヘンの極寒が、まるで遠い記憶のように思える。


だが、緑鮮やかなシウダ・エスポルティバのピッチに降り立った選手たちの肉体には、あの死闘の代償が確実に残っていた。


スペイン・ユース国王杯――コパ・デル・レイ・フベニル準決勝。


中三日の過密日程。


ステップを刻むカレスやサビエルの足首には、冷気から守るために巻かれた白いテーピングが何重にも残っている。


筋肉の芯に張り付いた疲労。


スパイクが芝を噛む音にも、いつもの弾むような軽快さはなかった。


そのとき。


メインスタンド上部の電光掲示板が一瞬明滅し、正午から先行して行われていた準決勝第一試合の最終結果を映し出した。


『FINAL:FC REAL MAFRIT 4 - 0 FC SEÑOR』


ざわり、とスタンドの空気が揺れた。


名門FCセニョールを相手に、四対零。


続いて大型ビジョンに、先ほど終了したばかりの試合のハイライト映像が流れ始める。


ウォーミングアップの足を止めた吉良氏真は、その画面を静かに見つめた。


前半の主役はクリストファーだった。


基本布陣[4-2-3-1]のトップ下に入り、鋭い配球とミドルシュートで二得点。


セニョールの守備ブロックを前半だけで崩し切っていた。


だが。


氏真の背筋を冷たく撫でたのは、後半開始とともに投入され、[4-4-2]の最前線に立った背番号九だった。


織田凱斗。


画面の中の凱斗は、かつて日本やカデテの舞台で見せていた姿とは違っていた。


単独でボールを奪い、力任せに敵をなぎ倒して前へ進むストライカー。


それが、今は違う。


セニョールの屈強なセンターバックが背後から全体重を浴びせてくる。


普通なら、反転するか、力で押し返そうとする場面。


だが凱斗は腰を低く沈め、背中一面で相手の突進を受け止めた。


衝撃を強靭な体幹で吸収し、相手の身体をその場に留める。


そして、背後から前を向いて走り込んできたクリストファーの利き足の前へ、右足インサイドでボールを落とした。


完璧なレイオフ。


守備陣の視線と重心が、一斉にクリストファーへ引き寄せられる。


その瞬間。


凱斗の巨躯が、ふっと視界から消えた。


相手が前へ釣り出されたことで生じた、ゴール前の空白。


クリストファーが放った強烈なミドルシュート。


そのこぼれ球へ、凱斗が最短距離で突っ込んでくる。


無駄な力みのない、ダイレクトボレー。


さらに後半のチーム四点目。


右サイドのロバート・ジョゼフから高精度のクロスが入る。


凱斗は相手CBとの競り合いで無理に跳ばなかった。


相手の身体と自分の間にわずかなスペースを作り、先に落下地点へ身体を入れる。


そして、ファーサイドへ頭から飛び込む。


泥臭い。


だが、冷徹だった。


「……あいつ、変わったな」


隣に歩み寄ってきたエステバンが、乾いた声で呟いた。


「個人技を捨てたんじゃない」


氏真は画面を見つめたまま答えた。


「自分の強さを、チームの中で最大化してる」


個の力を消したのではない。


むしろ逆だった。


自らの突出した身体能力を、クリストファーという頭脳が描く設計図の中へ組み込む。


自分が相手を引きつければ、誰かが空く。


誰かが前へ出れば、自分が空く。


その連鎖によって、凱斗自身の破壊力まで増幅されている。


「……厄介だな」


エステバンが呟く。


氏真は小さく息を吸い、画面から視線を切った。


(力任せのストライカーじゃない)


(今のあいつは、自分の強さをチーム全体の武器として使える)


胸の奥に、鋭い緊張感が灯る。


だが。


その白いユニフォームの男と再び対峙する前に、目の前にはもう一つの難敵が待っていた。


アトレFC。


---


2. 鉛の足と先制点


泥臭い肉弾戦と、徹底したショートカウンター。


それを武器とする、国内屈指の堅守速攻集団。


そして彼らは、バルシーノの連戦疲労を見逃していなかった。


ピーーーッ!


主審の鋭い笛とともに、試合が始まった。


バルシーノのシステムは[4-3-3]。


立ち上がり、ボールを握ったのはバルシーノだった。


前半十五分。


左サイドでボールを受けたエステバンが、鋭いダブルタッチで相手マーカーを外す。


ペナルティエリア角。


右足を振り抜いた。


インカーブの軌道を描いたボールが、ファーサイドの天井へ突き刺さる。


先制。


一対零。


スタンドから歓声が上がり、エステバンが拳を握った。


だが、バルシーノのベンチに安堵の色はない。


ピッチ上の空気は、どこか重かった。


個の閃きで先制した。


しかし、走行距離、スプリントの初速、そしてボールを失った瞬間の切り替え――ネガティブ・トランジションの反応が、普段より明らかに遅れている。


中盤の底で、サビエルが肩で息をしながら周囲を見回した。


パスをつないでも、第一プレスラインを越えた後の押し上げがついてこない。


前線と最終ラインの距離が、少しずつ開き始めていた。


アトレFCは、その変化を待っていた。


---


3. アトレの外科メス


狙いは明確だった。


バルシーノが攻撃に人数をかけ、両サイドバックが高い位置を取った瞬間。


そこを突く。


ボールを奪ってから三秒以内。


余計なパスを挟まず、最短距離で、戻り切れないサイドバックの背後へ。


特に狙われたのが、右サイドバック・アントニの裏だった。


前半二十八分。


敵陣深くでダビアンから氏真へ入れようとした縦パスを、アトレFCのボランチが鋭くインターセプトした。


「カウンター! 右の裏だ!」


ベンチから怒号が飛ぶ。


奪った瞬間、迷いなく放たれたロングボールが春の青空を切り裂いた。


落下点は、攻撃参加のため前線へ上がっていたアントニの背後。


アントニが反転する。


だが、ミュンヘン戦で九十分間アップダウンを繰り返した太腿は重い。


一歩目が遅れた。


そこへアトレFCの俊足ウイングがトップスピードで走り込む。


カレスがサイドへ釣り出された。


ウイングは縦へ勝負する素振りを見せたあと、ペナルティエリア角から中央へ低く速いグラウンダーを送り込む。


中央ではフェランが必死にマークについていた。


しかし、サビエルが戻り切れない。


バイタルエリア中央に、致命的なギャップが生まれていた。


そこへアトレFCのセンターフォワードが走り込む。


フェランより先に身体を入れ、右足インサイドで合わせた。


バシュッ!


ボールがゴールマウス左隅へ吸い込まれる。


トニ・ラマジェの左手は届かない。


前半二十八分。


一対一。


アトレFCの選手たちが雄叫びを上げる。


対してバルシーノの守備陣は、膝に手を突いた。


疲労そのものではない。


疲労によって生じた一歩の遅れ。


一人の遅れが、次の選手を動かし、さらに次の選手の判断を遅らせる。


それをアトレFCは正確に突き抜いた。


構造的な失点だった。


---


4. 立ち位置の調律


「下を向くな! ラインを整え直せ!」


主将トニ・ラマジェが声を飛ばす。


だが、重苦しい空気は消えない。


同点に追いついたアトレFCは、完全に息を吹き返していた。


中盤のデュエルはさらに激しくなる。


ファウルすれすれのコンタクト。


サビエル、ダビアンの身体へ何度も圧力をかけてくる。


「どうした、バルシーノ! もう走れねえのかよ!」


アトレの選手が挑発する。


カレスが苛立ちを見せ、審判へ抗議しかける。


肉体が疲労すれば、判断が曇る。


判断が曇れば、感情が先に立つ。


バルシーノは、相手の土俵へ引きずり込まれかけていた。


そのとき。


最前線の中央で、静かに呼吸を整えていた背番号二十九が動いた。


吉良氏真。


(力で受ける必要はない)


(相手がこちらの隙を狙って食らいついてくるなら、その動きを利用すればいい)


氏真は、ボールを要求するのをやめた。


最終ラインを背負うのではなく、相手のダブルボランチの背後。


そしてセンターバックの視野から外れる位置。


守備ブロックの境目に、三歩だけ下がった。


エアポケット。


アトレFCのセンターバックが、その動きに気づく。


前へ出るか。


それとも最終ラインを維持するか。


氏真はボールを持っていない。


それでも、その立ち位置だけで守備の基準点を揺らしていた。


半身になり、ピッチ全体へ視界を開く。


相手が一歩出れば、背後にスペースができる。


出なければ、中盤から氏真へ縦のコースが開く。


その二択を突きつけることで、サビエルやダビアンが前を向くための時間が生まれる。


ほんの一瞬。


だが、それで十分だった。


「……あいつ、俺たちに息を吸わせようとしてるのか」


サビエルが胸の内で呟く。


乱れかけていた呼吸が、少しだけ戻る。


氏真はボールに触れていない。


それでも、ピッチの形が少しずつ変わり始めた。


崩れかけていたバルシーノの陣形が、静かに結び直されていく。


---


5. 前半44分の結実


そして、前半四十四分。


スコアは一対一。


アディショナルタイムを目前に控えた局面だった。


自陣深くで相手の縦パスをカットしたフェランから、中央のサビエルへボールが渡る。


アトレFCのボランチが、再び猛然とプレッシャーをかけてきた。


だが。


サビエルは慌てなかった。


視線の先に、すでに出口がある。


守備ブロックの中央。


そこに、氏真が立っている。


サビエルは右足インサイドで、低く鋭い楔を打ち込んだ。


狙いは氏真。


その瞬間。


アトレFCのセンターバックが前へ踏み込んだ。


「前は向かせねえ!」


氏真がトラップする瞬間を狙った、背後からの強烈なプレッシャー。


通常なら、身体を使ってボールを隠す。


あるいは横へワンタッチで逃がす。


だが。


氏真は、相手の足音を聞いた。


踏み込みの速度。


身体の前傾。


重心の位置。


背中越しに伝わる、そのすべて。


そして。


軸足の力を抜いた。


身体をわずかに開く。


触らない。


ボールは、そのまま自分の横を通り抜けた。


「なっ……!?」


センターバックの手が届く前に、ボールはその背後へ抜けていく。


勢いよく前へ出た相手は、氏真を捕まえられない。


そして、その背後には大きな空間が生まれた。


ボールの勢いは死んでいない。


そこへ走り込んできた選手がいた。


背番号十。


エステバン。


氏真が下がった瞬間から、エステバンはその空間を見ていた。


サビエルが楔を入れた瞬間、相手CBが前へ出ることも。


氏真がボールに触れないことも。


すべてが、ひとつの流れとしてつながった。


エステバンは前を向いたままボールを引き取る。


アトレFCの最終ラインが、慌てて中央へ絞った。


だが、それこそが狙いだった。


エステバンはシュートを選ばない。


左足から放たれたボールが、中央へ絞ったDFの横を鋭く抜ける。


ハーフスペース。


そこへ、左サイドの大外から斜めに走り込んできた選手がいた。


イネス。


「イネスッ!」


完全に背後を取った。


飛び出してきたGKの重心を見極め、左足インサイドでボールの芯を撫でる。


ボールは芝の上を滑り、右サイドネットの内側へ吸い込まれた。


パシュッ!


前半四十四分。


二対一。


勝ち越し。


「しゃああああっ!」


イネスが咆哮し、エステバンへ飛びつく。


エステバンは、そのまま氏真を指差した。


「ナイススルーだ、氏真!」


駆け寄ってきた仲間たちと短く手を打ち合わせる。


氏真は静かに呼気を吐き出した。


触れていない。


シュートもしていない。


それでも、一つの立ち位置と一つの判断が、相手の守備を動かし、エステバンを前へ向かせ、イネスのゴールへつながった。


相手の弱点を突き、最短距離でゴールへ迫るアトレFC。


強さを組織の中で増幅させ、圧倒するマフリット。


そして。


相手の力を利用し、味方の力を引き出すバルシーノ。


三つのチーム。


三つのフットボール。


ピピーッ!


前半終了を告げるホイッスルが鳴り響いた。


二対一。


バルシーノがリードして折り返す。


だが。


ロッカールームへ引き揚げるアトレFCの選手たちの瞳に、怯みはなかった。


むしろ。


後半、さらに強度を上げる。


そんな剥き出しの闘志が、ピッチに残されていた。


疲労は限界に近い。


そしてアトレFCは、その限界をさらに押し広げようとしている。


決戦の後半戦へ。


ピッチの熱気は、さらに危険な領域へ達しようとしていた。

【次回予告】

激化するアトレFCの猛攻に晒され、後半追いつかれるバルシーノ!

疲弊の極限で、氏真が導き出す最後の一手。

チームのすべてを決勝へつなぐ一撃が、運命の扉をこじ開ける!

だが、歓喜に沸くロッカールームへ届いた一本の電話が、氏真の日常を大きく揺さぶる――!

第124話:【欧州ベスト4と鳴り響く電話】次なる天下へのパスを回せ!


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