第11話【絶望の雨。そして】
【あらすじ】
初戦の鹿島FC戦で新戦術「三連星」を爆発させ、インパルス清水FC・ジュニアは「ミツウロコ・エリート・カップ」を席巻した。それから1年、小学4年生(10歳)となった吉良氏真、松平基哉、八重洲ジョンの三人は、飛び級で全日本U-12のレギュラーに抜擢される。静岡県予選で強豪・ジュピター磐田ジュニアを破り全国の切符を手にするも、全国の猛者たちの前に為す術なく惨敗。翌年の小学5年生(11歳)では、雪辱を誓う磐田に県予選決勝で敗れ去る。残酷な「全国の壁」と「宿敵の執念」の前に泥を舐め続けた氏真たちは、いよいよ小学生最後の年、12歳の春を迎える。集大成となる「全日本U-12サッカー選手権」へ向け、真の日本一を掴むための最後のピースを探す物語が幕を開ける。
1. 10歳の快進撃と、残酷な「全国」
小学4年生、10歳。
吉良氏真、松平基哉、八重洲ジョンの三人は、そのずば抜けた才能から、飛び級でジュニアのトップチーム、すなわちU-12のレギュラーメンバーに抜擢された。
上級生である6年生たちを相手にしても、三人は全く物怖じしなかった。
氏真の華麗な空中支配、基哉の正確無比な戦術眼、そしてジョンの身の丈に合わないダイナミックなセーブ。
彼らのプレーは静岡県予選に大旋風を巻き起こした。
そして迎えた大一番。名門にして絶対王者・ジュピター磐田FCジュニアとの激闘。
【3-3-1】のシステムを基盤に、氏真たち10歳の少年たちは、体格差を跳ね返して大番狂わせの勝利をもぎ取った。
磐田の6年生たちが流す悔し涙を背に、インパルス清水FCは、見事「全日本U-12サッカー選手権大会」への切符を手にしたのだった。
「……行くぞ、基哉、ジョン! 俺たちのサッカーが、全国のデカい奴らにどこまで通用するか見せてやろうぜ!」
氏真の目は、希望と自信に満ち溢れていた。
しかし――。
意気揚々と乗り込んだ全国の舞台は、10歳の少年たちにとってあまりにも残酷な場所だった。
「なっ……速い!? なんだ、あのプレスのスピードは!」
司令塔の基哉が出した渾身のパスが、いとも簡単にインターセプトされる。
全国のトップレベルは、基哉の予測を超えるプレッシングスピードを持っていたのだ。
「クソッ、止めろォォッ!」
守護神・ジョンの決死のダイブも届かない。
規格外のパワーを持つ全国の強豪チームの6年生たちが放つミドルシュートが、次々とゴールネットを揺らす。
吉良コーチがピッチサイドから「ラインを下げろ! ジョンのフィード一発に懸けろ!」と指示を飛ばすが、交代枠をフルに使っても、フィジカル、スピード、そして「勝利への執念」の差を埋めることはできなかった。
すべてにおいて、全国のトップレベルはインパルス清水FCの想像を絶していた。
結果は、グループリーグ1勝2敗。
決勝トーナメントに進むことすら許されず、氏真たちの初めての「全国」は、圧倒的な実力差を見せつけられたまま、あっけなく幕を閉じた。
「……これが、全国の壁……。俺たち、井の中の蛙だったんだな……」
氏真は、広大なピッチの真ん中で、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
2. 11歳の挫折:宿敵・磐田の執念
「来年こそ……絶対に全国で勝つ! そのために、俺たちはもっと強くならなきゃいけないんだ!」
全国大会での惨敗から一年。
小学5年生、11歳となった三人は、ボールを追い続けた。
基哉はパススピードと判断速度を限界まで引き上げ、ジョンは手の皮が剥けるまでシュートストップの練習に打ち込んだ。
氏真もまた、どんな体格の相手にも当たり負けしないよう、ひたすらに【雅の体幹】を鍛え、シュートを打ち続けた。
すべては、あの全国の舞台へ戻り、借りを返すため。
そして迎えた、全日本U-12サッカー選手権大会・静岡県予選の決勝戦。
対戦相手は、奇しくも一年前と同じ、ジュピター磐田FCジュニアだった。
「吉良! 今年は俺たちが勝つ。お前らには絶対に全国の土は踏ませない!」
磐田のエース・中森権造が、鋭い眼光で氏真を睨みつける。
一年前、10歳の下級生に敗れた屈辱を糧に、磐田もまた血の滲むような努力を重ね、恐ろしいチームへと変貌を遂げていた。
ピーッ!
晴天のピッチに、試合開始のホイッスルが鳴る。それは、壮絶な死闘の始まりだった。
基哉のスルーパスに抜け出した氏真がシュートを放つが、磐田のディフェンダーが身体を投げ出してブロックする。
逆に磐田の鋭いカウンターがインパルスを襲い、ジョンが神がかり的なセーブで何度もチームを救う。
一進一退の攻防。吉良コーチも「焦るな! サイドを広く使って磐田の網を広げろ!」と的確なコーチングを行うが、試合終盤、ついに均衡が破れた。
「いっけぇぇぇぇッ!!」
磐田のゲームメーカー・南の精密なパスから、中森が放った執念のミドルシュート。
ボールが、ジョンの指先を掠め、ゴールへと吸い込まれていく。
「……あ……」
氏真が伸ばした足は、ボールには届かなかった。
ピーッ、ピーッ、ピーーーッ!!
無情にも響き渡る、試合終了のホイッスル。
0 - 1。
「うぉぉぉぉぉぉッ!!」
歓喜を爆発させ、折り重なるように抱き合う磐田の選手たち。
その脇で、ジョンはピッチに拳を叩きつけて号泣し、基哉は唇を噛み締めて天を仰いだ。
氏真は、ぼやける視界の中で、喜びに沸く宿敵の姿をただ見つめていた。
ポツリ、ポツリと降り始めた冷たい雨が、少年の頬を伝う熱い涙を洗い流していく。
全国への道は、県予選の決勝で絶たれた。
強くなったはずだった。誰よりも練習したはずだった。それでも、勝てなかった。
3. 最後の春:頂点への誓い
それから、さらに長い冬を越え――。
春の風が、静岡のグラウンドに吹き抜けていた。
彼らはいよいよ小学6年生。
U-12の最終学年を迎えた。これが、小学生年代として挑む最後の1年となる。
夕日がグラウンドをオレンジ色に染める中、氏真、基哉、ジョンの三人は、誰もいなくなったピッチの中央に座り込んでいた。
「……なぁ、基哉、ジョン」
氏真が、ポツリと口を開く。
「この2年間、俺たちはトップチームで戦ってきた。10歳の時に全国のバケモノたちにボコボコにされて、去年は磐田にリベンジされて……悔しい思いばっかりだ」
ジョンがテーピングだらけの手を握りしめる。
「……あぁ。思い出すだけで腹が立つぜ。俺のゴールを、あんなに何度も割られちまって……」
基哉が静かに前を見据える。
「だが、立ち止まっている暇はない。今年が最後だ。」
「小学生の真の日本一を決める、最大の舞台。僕たちが目指す場所は、そこしかない」
氏真はゆっくりと立ち上がり、夕日に向かって大きく深呼吸をした。
その瞳には、かつての敗北の絶望はない。あるのは、絶対に頂点を獲るという、燃え盛るような闘志だけだった。
「俺たちの目標は、全国大会出場じゃない。全国制覇だ。」
「……でも、今の俺たち三人を中心としたチームだけじゃ、全国の頂点には届かない。」
「磐田を倒し、全国のバケモノたちをねじ伏せるには、一緒に戦ってくれるもっと強烈な『仲間』が必要だ」
氏真の言葉に、基哉とジョンも立ち上がる。
「絶対に勝つ。泣いても笑っても、これが最後の一年だ!」
氏真が右手を突き出す。
「ああ、勝つ。僕たちのサッカーで」
基哉がその手に自分の手を重ねる。
「当たり前だ! 俺のゴールは、もう二度と誰にも割らせねぇ!」
ジョンが力強く二人の手の上に自分の手を重ねた。
夕暮れのピッチで誓い合った、三人の少年たち。
挫折と涙にまみれた二年間は、彼らの魂を鋼のように強く鍛え上げていた。
来るべき、U-12最後の激闘。
宿敵・ジュピター磐田への雪辱、そして全国の頂を目指して。
欠けているピースを埋めるため、新たな仲間(今川四天王)たちとの出会いが、すぐそこまで迫っていた。
【次回予告】
小学生最後の1年。全国制覇を誓うインパルス清水FC・ジュニアの前に、ミツウロコ・HAYAKAWAホールディングスの底力によるスカウティングで4人の原石が現れる! 彼らこそが、氏真の「雅」を支え、守り抜く新たな刃。
第12話:【三畳の盾、四人の守護者】。次なる天下へのパスを回せ!




