第10話【頂への階梯(ラダー)】
【あらすじ】
初戦の鹿島FC戦で新戦術「三連星」を爆発させ、インパルス清水FC・ジュニアは「ミツウロコ・エリート・カップ」を席巻する。準々決勝の横浜FC、準決勝の千葉FCと、全国の強豪が次々と氏真たちの前にひれ伏していく。そして迎えた決勝戦。立ちはだかるのは、日本サッカーの伝統を背負う育成の総本山・東京ビクトリーFC・ジュニア。ジョンの大筒、基哉の戦術、氏真の「空の支配」が極まる時、全国の頂へ向けて究極の連携が発動する。
1. 蹂躙の序曲:全国の牙を折る「三連星」
初戦で鹿島アテナFCを完膚なきまでに叩き潰したインパルス清水FC・ジュニア。
彼らの進撃は、全国の猛者たちを震え上がらせていた。
スタンドのVIP席で見守る十二歳の愛による、特製「愛の薬膳」がもたらす底なしのスタミナ回復力。
九歳の妹・舞のタブレットが叩き出す、コンマ1秒の狂いもない対戦相手のデータ分析。
そして何より、ピッチ上で躍動する「三連星」――氏真、ジョン、基哉の個性が完璧に噛み合った時、電光掲示板には強豪チームにとって残酷すぎるスコアが刻まれていった。
【準々決勝:vs FC横浜リヴァイア・ジュニア】
「いっけえええええ!! 港のスピードスターの意地、見せてやれ!」
横浜FC応援団のメガホンがスタジアムを揺らす。
彼らが誇る、全国屈指の高速アタッカー陣。
そのサイド攻撃は、これまでの対戦相手を置き去りにし、無慈悲にゴールを陥れてきた。
キュキュッ!!
スパイクが芝を鳴らし、トリコロールのユニフォームが右サイドを切り裂く。
「甘いぜ清水! このスピードにはついてこれな――」
ドバァァァァァァァァァン!!!!
スタジアムの歓声を掻き消すほどの、爆発音。
横浜FCのアタッカーが振り返った時、ボールはすでに自陣のペナルティエリア上空を切り裂いていた。
「なっ……!? なんだあの弾道は!?」
横浜FCベンチが総立ちになる。
「……遅いぜ。俺の視界からは、誰一人逃げられねえ」
自陣のゴールマウスの前に立つジョン。彼の右足から放たれた『大筒』――超低弾道のパントキックが、横浜FCの守備陣を音速で置き去りにしていた。
「ナイスパスだ、ジョン」
敵陣深くで、基哉がボールを「置く」ようにピタリと足元に収める。
「さあ、見せてやろう。ウジ!」
「ふふっ……承知!」
基哉からのラストパス。それに合わせたのは、空中に浮かび上がる氏真だった。まるで重力を無視したかのような滞空時間から、鮮やかなボレーがネットを揺らす。
吉良コーチが交代枠をフルに使い、前線から激しいプレスをかけ続けた結果、横浜自慢のスピードは完全に封殺された。
ピーーーッ!!
結果は3 - 0で清水の勝利。
横浜の俊足たちは、その自慢の足でジョンの守る城門を一度も叩くことすら許されず、ピッチに崩れ落ちた。
【準決勝:vs 千葉FC・ジュニア】
準決勝の相手は、狂犬の群れ。
「潰せええ!! ボールを持たせるな!!」
「イエロー・プレス」と称される、千葉FCの無尽蔵のスタミナと肉弾戦。彼らはインパルスのパス回しを物理的に削るべく、二人がかり、三人がかりで容赦なく襲いかかってきた。
ガツンッ! ドスッ!!
激しいチャージに、インパルスの選手たちが顔を歪める。
「どうした清水! いつもの華麗なパス回しはどこいった!」
千葉FCの選手が吠える。
だが、アンカーの位置にいるインパルスの心臓・基哉の瞳は、一切の感情を排した氷のように冷たかった。
(……必死だな。だが、君たちが走れば走るほど、僕の描く『詰み(チェックメイト)』の形が完成に近づく)
基哉の脳内で、ピッチ上の22人の動きがチェス盤の駒に変換される。
あえてボールを持ちすぎ、敵のプレスをギリギリまで引き付ける。
「いける! 囲め!!」
千葉の3人が基哉に殺到した、その瞬間。
「……そこだ」
スッ……。
基哉の足元から放たれたボールは、狂犬たちの足の間をすり抜け、ぽっかりと空いた中盤のスペースへ。
そして、そのスペースを埋めるのは、オレンジ色の小さな背番号10。
「待ちわびたぞ、基哉!」
氏真だ。
千葉の選手たちの顔に絶望が走る。彼らの体力は、基哉の罠によってすでに限界を迎えていた。
「空の散歩と洒落込もうか!」
【必殺スキル:極・雅技:鳳凰の羽休め(ほうおうのはねやすめ)】
結果は4 - 0で清水の勝利。
千葉の狂犬たちは、氏真の美しき空中戦に翻弄され、疲弊しきってピッチの芝を噛んだ。
2. 決勝戦:王者の矜持、東京ビクトリーFC・ジュニア
そして、運命の決勝戦。
対戦相手は、育成の総本山にして、日本サッカーの伝統を背負う最強の王者――東京ビクトリーFC・ジュニア。
システムは極めて攻撃的な【3-4-1】。
ウォーミングアップから、彼らの放つオーラは別格だった。
足元の技術に絶対の自信を持ち、淀みないパスワークは一つの巨大な生命体のよう。
「……ほう。東京の童たち、その瞳に宿るは『王者の緑』か。」
「さながら、京の都を鎮める近衛兵のごとき気品。叔父さん、あの子たちの鞠、これまでで一番楽しそうに笑っているよ」
氏真は、オレンジ色のユニフォームの襟を正し、心地よい緊張感に頬を緩ませた。
吉良コーチが選手たちを集め、檄を飛ばす。
「いいか! 相手の【3-4-1】は中盤の支配力が異常だ。」
「だが、裏のスペースには必ず穴ができる。基哉、ジョンのロングボールを起点に、相手のディフェンスラインを釣り出せ。氏真、空の支配権は絶対に譲るな!」
ピッチ脇の特別席。
愛が、カシャッ、と優雅に扇子を広げる。
「氏真様。……伝統ある東京FCを相手に、あなたの『新しき雅』を見せつけてやりなさい」
その隣で、舞がノートパソコンのキーボードを猛烈な勢いで叩いていた。
画面には、東京の全選手のデータが目まぐるしく流れている。
「ウジ様、データの準備は完璧! 相手のキャプテンの癖は全部抜いたよ。あとは思いっきり、空高く跳ぶだけ!」
「ありがとう、愛、舞。……行ってくる!」
ピーーーーーーッ!!!
全国の頂点を決める戦いの火蓋が切って落とされた。
3. 激闘! 三連星 vs 緑の芸術
試合は、これまでの「蹂躙」とはまったく異なる、極限の技術の応酬となった。
「ヘイ!」「パス!」「逆サイド!」
ポン、ポン、とリズミカルに繋がる東京の緻密なパスワーク。
それはまさに「芸術」であり、インパルスの守備陣をあざ笑うかのように翻弄していく。
「くそっ、速い……!」
「マークがズレてるぞ!」
パァァァン!!
ペナルティエリア外から、東京のキャプテンが放ったミドルシュートが右隅を襲う!
「……チッ、チョロチョロと……。だがなァ!」
バシィィィィィン!!!!
ジョンの分厚い両手が、至近距離からの強烈なシュートを弾き飛ばす。驚異的な反射神経だ。
「俺の『門』は、そんなお上品なシュートじゃ開かねえぞ!!」
雄叫びを上げるジョン。
弾かれたボールが、中盤にポトリと落ちる。
そこに、音もなく忍び寄る影があった。基哉だ。
(……見えた)
ボールを拾った瞬間、基哉の眼はピッチ全体を俯瞰していた。
敵の陣形、味方の位置、風向き、芝の深さ、そして……氏真の呼吸。すべてが完全に重なる、たった一つの未来。
「……今だ。ウジ、ジョン! ここが、天下の分け目だ!!」
4. 究極連携:【三連星・三絶陣】発動!
基哉の叫びと同時に、インパルスの陣形が一気に変形した。
ジョンがペナルティエリアから飛び出し、基哉へのリターンパスを全力で蹴り込む。
ズドォォォォォン!!
ジョンのロングフィード。それが中盤をスキップし、東京の守備陣が陣形を整える前に、バイタルエリアへと突き刺さる。
「なにっ!?」
東京のディフェンダーが慌てて寄せる。
しかし、基哉はトップスピードで走りながら、その砲弾のようなパスを足の裏でフワリとトラップした。
ボールの勢いを完全に殺し、そのまま空中に浮かせる。
「頼んだぞ、ウジ!」
「……さあ、空へ昇ろうか。東京の君たち。予の『ルネサンス』、その目で見届けるが良い!」
氏真がペナルティエリア内に侵入する。
東京の屈強なディフェンダー3人が、壁となって氏真の前に立ちはだかる。
「行かせるかぁぁ!!」
「……遅いよ」
ダンッ!!
氏真の脚がピッチを蹴りつける。三人のディフェンダーが囲い込む中、氏真は垂直跳びで彼らの頭上へと舞い上がった。
5. 必殺奥義:フェニックス・ドライブ・フルバースト
「うおおおおおっ!?」
スタジアムがどよめく。空中で静止する氏真。
過酷な合宿で徹底的に鍛え抜かれた体幹が、スタジアムの強風の中でも、彼の姿勢の軸をピタリと強固にする。
極限の柔軟性が、基哉の上げたボールを吸い付くように足元へ収めさせた。
「……決めるよ」
>> 必殺スキル:【極・雅技:鳳凰の羽休め(ほうおうのはねやすめ)】
着地と同時、いや、地面に足が触れる直前。
氏真は身体を真横に倒しながら、アクロバティックなボレーシュートを放った。
ドシュァァァァァァッ!!!
それは、筋肉の力でねじ伏せるようなシュートではない。
ボール自らが、ゴールまでの「最短で最も美しい軌道」を選び取ったかのような、魔法の一撃。
ボールはオレンジ色の流星となり、東京の守護神が反応する間もなく、ゴールネットに突き刺さった。
ゴォォォォォォォォォォォル!!!!
スタジアムが爆発したかのような歓声に包まれる。
東京の選手たちは、ただ自分の横を通り抜けた「オレンジの風」を、呆然と見送るしかなかった。
1 - 0。
後半、吉良コーチがディフェンスの選手を次々と投入し、1点のリードを死守する。
さらに試合終了間際、前掛かりになった東京の隙を突き、氏真からのスルーパスを基哉が冷静に流し込み追加点。
ピーッ、ピピッ、ピーーーッ!!
2 - 0。インパルス清水、優勝の瞬間だった。
6. 優勝、そして猛獣の予感
「ミツウロコ・エリート・カップ」優勝。
表彰台の頂点。黄金のトロフィーを高々と掲げる氏真を、ジョンと基哉が両脇からがっちりと支えている。
その姿は、新たな力を得た無敵の軍勢の誕生を予感させるに十分な威厳に満ちていた。
「あはは! ジョンくん、基哉くん! 優勝だよ! 全国の強い子たちと戦えて、僕は今、最高に幸せだ!」
満面の笑みで喜ぶ氏真。
「……ま、当然の結果だな。僕のタクティクスに狂いはない」
クールに前髪をかき上げる基哉。
「……ヘッ、お前のトラップも、たまには見られるレベルになってきたな」
ニヤリと笑うジョン。
三人が肩を組み合い、歓喜に沸く中。
スタンドの特別席からその光景を見下ろしていた愛と舞は、優勝の喜びに浸る群衆の中に、一人の「異質な影」を見つけていた。
サックスブルーのジャージ。
凄まじい熱気を瞳に宿した少年。
ジュピター磐田FCジュニアのエースストライカー、中森権造。
彼は無言のまま、だがはっきりと「次もお前を倒す」という狂気にも似た意志を、ピッチの氏真へと飛ばしていた。
「……ねーさま。中森のデータ、書き換えられてる。……あいつ、この前から、ただのストライカーじゃない……『猛獣』に進化したよ」
パソコンの画面を見つめる舞の額に、一筋の冷や汗が流れる。
だが、愛は口元を扇子で隠し、妖しく微笑んだ。
「……ええ、舞。ですが、それこそが望むところ。」
「……氏真様をより高く飛ばすには、あのくらいの猛獣が、踏み台として必要なのですわ。私とあなたのミッションのためにもね」
愛の瞳には、慈愛と、冷徹な政略家の光が宿っていた。
「……さあ、みんな! 次は全国だ! 蹂躙の続き、始めよう!」
氏真の明るく力強い声が、夕焼けに染まるスタジアムの空に響き渡る。
「三連星」の伝説は、この勝利から、さらに熱く、血湧き肉躍る「静岡ダービー」の再戦へと繋がっていく――!!
【次回予告】
9歳の栄光から時は流れ、小学校最後の戦いとなる12歳へ。10歳の全国大会、11歳の県大会……立ちはだかるのは常に「絶望」だった。宿敵・ジュピター磐田と中森の前に、氏真は辛酸を舐め続ける。挫折と涙を経て、物語はついに最後の「全日本U-12サッカー選手権」に向けて動き出す!
第11話:【全国の壁と絶望の雨。そして、最後の頂へ】。次なる天下へのパスを回せ!




