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『The Renaissance striker Uzizane(転生ストライカー氏真)』 ~戦国最低スペック大名が現代に転生したら、天才ストライカーになってしまった件~  作者: みなも
第6章 序 ~ユースCL黎明編~

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第105話:【白鳥の飛翔】

【あらすじ】

2-3の劣勢から、反撃へ転じるバルシーノ。エステバンとフェリペの投入で試合は激しく動き始める。だが、前年欧州王者パリFCもまた、勝負を決める切り札を送り込む。両雄が激突する最終局面、氏真が選ぶ最後の一手とは――。

1. 盤面(ピッチ)の再編と不測の風


後半開始を告げる主審のホイッスルが、シウダ・エスポルティバのピッチに鳴り響いた。


前半を終えて2―3。


1点を追うFCバルシーノに対し、前年王者FCパリはリードに慢心することなく、後半開始から守備ブロックをタイトに敷き詰めてきた。氏真への個別警戒を緩め、中央のスペースをゾーンで埋めてきた。


バルシーノの反撃が始まろうとした、後半4分のことだった。


サビエルからの縦パスに反応し、相手CBの背後へ猛烈なスプリントを仕掛けたレオン・ラインハルトが、ペナルティエリア手前で突如として右足を抑え、ピッチに崩れ落ちた。


「レオン!」


カレスは異変を察し、すぐさまボールをタッチラインの外へ蹴り出した。


ピィーッ!


主審の笛が鳴り、プレーが止まる。


前半からの激しい肉弾戦と度重なるフルスプリントにより、レオンの右ふくらはぎは限界に達していた。


ベンチ前で腕を組んでいたジョゼップ・カサス監督は、即座に鋭い指示を飛ばした。


「フェリペ、入れ! レオンと交代だ!」


本来ならテンテとの交代で投入するはずだったフェリペが、予定を繰り上げてピッチへ駆け込み、右インサイドハーフへ入る。


氏真が中央の最前線へ位置をスライドさせ、攻撃の基準点となった。


さらに後半10分、ジョゼップ監督は間髪入れずに勝負の交代カードを切った。


「エステバン、行くぞ!」


トップチームから合流した「王子」エステバン・ロサーノが、テンテに代わってピッチへ解き放たれる。


エステバンが左ウイングの位置に入り、左ウイングを務めていたイネス・カスティーニャが一列下がってインサイドハーフへ。中盤の底にはサビエルが単独のアンカーとして腰を据えた。


4-3-3の超攻撃的布陣。


「¡Vamos a ganar!(勝ちにいくぞ!)」


ピッチに入ったエステバンが、濡れた前髪を払ってギラついた瞳を輝かせた。プロの舞台を経験し、自らの価値を証明しようとする欲望が、その全身から立ち上っていた。


――


2. 落下地点の幾何学


布陣の再編が、バルシーノのパスの血流を一気に加速させた。


中央でフェリペとイネスが正確無比なダイレクトパスを刻み、サビエルが相手のカウンターの芽を鋭い読みで摘み取る。


後半18分。


右サイド深くでボールをキープしたフェリペが、相手SBのプレッシャーを受けながらも、中央へ鋭い楔のパスを打ち込んだ。


中央へ降りてきた氏真。


パリのCBローランが背後から激しく身体を寄せ、ボランチのマキシムが前方から挟み込みに来る。


だが、氏真はボールを収めない。


軸足の膝を柔らかく曲げてボールを右足のインサイドでわずかに弾き、左サイドからトップスピードで侵入してきたエステバンの走路へフワリと落とした。


エステバンがダイレクトで右足を振り抜く。


ドガンッ!


放たれた強烈なシュートを、パリのGKが身を挺して弾き返した。


高く宙へと舞い上がったクリアボール。


ペナルティエリアの手前、落下点に向かってパリの巨漢CBバティストが力強く跳躍しようと助走に入る。


だが――その巨漢DFの背後から、風のように滑り込んできた影があった。


吉良氏真である。


氏真はボールを見上げるのではない。


舞い上がるボールの放物線と、相手DFの跳躍の軌道を、水鏡のような感覚で捉えていた。


バティストが空中でボールに触れられず、わずかに頭上を越えて落下してくるその瞬間。


氏真は余計な力みをすべて削ぎ落とした脱力歩法で、バティストの影をすり抜け、ボールがバウンドする一点へと踏み込んだ。


芝生を優しく撫でるようなステップ。


左肩を下げ、身体の軸を斜めに倒しながら、右足を鞭のようにしならせる。


落ちてくるボールの芯を、右足の甲で捉えた。


パシィィンッ――!


乾いた金属音のような打球音が、スタジアムの空気を切り裂く。


放たれたのは、強烈な縦回転を帯びた極上のドライブボレー。


相手GKが横跳びで伸ばした両手の遥か上を通過したボールは、ゴール手前で急激に落下し、クロスバーの内側を叩いてゴールネットへ突き刺さった。


――ドガンッ!


後半19分。3―3!


同点!


「¡Golazo!(なんてゴールだぁぁぁッ!!)」


静まり返っていたスタジアムが、次の瞬間、割れんばかりの歓声に包まれた。


氏真は両手を広げ、駆け寄ってきたフェリペ、そして驚愕に目を見開くエステバンと拳を合わせた。


――


3. 逆転のタクト


試合の流れは、バルシーノへと傾き始めていた。


同点に追いつかれたパリFCは、勝ち点3を奪うべく前線の3トップを押し上げてプレッシングを強めてくる。


だが、氏真、フェリペ、エステバン、ダビアンが織りなすパスワークは、王者のプレスをことごとく空転させた。


そして後半31分。


逆転の瞬間が訪れる。


自陣深くでサビエルが相手の縦パスを鮮やかにインターセプト。


ボールは左サイドのエステバンへと渡る。


エステバンは得意の高速シザースで相手右SBを翻弄し、ペナルティエリア左角から中央へ切れ込んだ。


相手DF二人がエステバンのシュートを警戒して身体を寄せる。

エステバンは、そのまま自らゴールを狙う態勢に入った。


その瞬間、最前線にいた氏真が相手CBの背後へと鋭いダイアゴナルランを仕掛けた。


エステバンの視界に、氏真の走る純白の航路が浮かび上がる。


(そこだ、ウジザネ!)


エステバンの右足のアウトサイドから、相手DF二人の間を縫うような芸術的なスルーパスが放たれた。


完全なる抜け出し。


ペナルティエリア中央へ侵入した氏真は、飛び出してきたGKの位置を冷静に見極め、左足のインサイドでゴール右隅へと流し込んだ。


――ザシュッ。


後半32分。4―3!


バルシーノ、ついに逆転!


「¡Goooool!(逆転だぁぁッ!!)」


ベンチから控え選手たちが飛び出し、歓喜の輪が広がる。


2点差のビハインドを跳ね返し、前年欧州王者を相手にリードを奪い取った。


――


4. 怪物の降臨


だが――欧州の頂点に君臨する絶対王者は、このまま終わるような存在ではなかった。


後半40分。


パリFCのベンチが動いた。


「Marc, entre!(マルク、入れ!)」


ピッチサイドに立ったのは、15歳になったばかりの背番号19――マルク・ティエリーであった。


透き通るような白い肌と、しなやかな長身。

欧州中から「ファン・バステンの再来」と騒がれるフランスの超新星が、ピッチへと解き放たれた。


その怪物の本領は、投入からわずか2分後に炸裂した。


後半42分。


ハーフウェイライン付近でボールを受けたマルク・ティエリーは、寄せてきたサビエルを、背中を向けた状態からの極めて滑らかなターン一発で置き去りにした。


「なっ……!?」


サビエルが振り返る間もなく、マルクは長いストライドで加速する。


中央をカバーしようと飛び出してきたCBフェランを、右足のアウトでボールをわずかに押し出すだけの最小限のタッチでかわし去る。


そのまま30メートルを単独で独走。


ペナルティエリア手前、左45度の位置。


追いついたカレスがシュートコースを塞ぎに身体を投げ出した。


だが、マルク・ティエリーは走る歩幅を一切乱すことなく、左足をコンパクトに一閃させた。


ドガァァァンッ!!!!!


放たれた弾丸は、カレスの伸ばした足のわずか上を通過し、トニ・ラマジェが反応して伸ばした両手を弾き飛ばして、ゴール右上隅のサイドネットを破壊せんばかりに突き刺さった。


――バシィィンッ!


後半43分。4―4!


同点!


「C'est magnifique!(なんて美しさだ!)」


パリのベンチが熱狂に包まれ、スタジアム全体が息を呑んだ。


異次元のスピード、力感のない優美な身のこなし、そして理不尽なまでの決定力。

氏真が技と知略を積み重ね、ようやく辿り着いた「雅」の境地。マルクは、それを呼吸するように体現していた。


ピッチ上の空気が、一変した。


――


5. 最後の選択


4―4。


残り時間は、アディショナルタイムの3分間のみ。


引き分けでも、バルシーノのグループ1位通過は確定する。無理に攻めず、自陣でボールを回して時間を稼ぐのが、セオリー通りの選択であった。


だが、ピッチ中央で肩で息をする氏真の瞳に、引き分けで満足する色は微塵もなかった。


(もう逃げて守る天下など、どこにもない)


氏真はエステバン、フェリペ、ダビアンと視線を交わした。

言葉はなかった。

だが、交わした視線の奥には、同じ火が燃えていた。勝利を、最後の一瞬まで奪いに行くという意志が。


後半45分


勝負を決める、最後の攻撃が始まった。


自陣深くでトニ・ラマジェが放ったロングキックを、中盤でダビアンが競り勝ち、頭で前方のフェリペへ落とす。


フェリペは寄せてくる相手ボランチをワンタッチでかわし、前線の氏真へ鋭い縦パスを通した。


ペナルティエリア手前の中央。


ボールを収めた氏真の前に、パリのCBローランとバティストが壁のように立ちふさがる。


背後からは猛然とボランチが挟み込みに来ていた。


シュートコースは完全に消されている。


誰もが、氏真が強引に振り抜くか、あるいは時間を消費するためにキープすると予想した。


だが――氏真は右足を大きく振り上げるシュートモーションに入りながら、左斜め奥のスペースへ視線を一切向けずに、右足のインサイドでボールの底を優しく擦り上げた。


ノールックパス。


相手DF二人が氏真のシュートブロックのために身体を投げ出した、その足元の隙間を、ボールが静かに滑り抜けていく。


その先へ走り込んでいたのは、背番号10――エステバン・ロサーノだった。


完全なフリー。


相手GKと一対一。


エステバンの脳裏に、電撃のような衝撃が走った。


(……俺に、打たせたのか……!)


氏真は、自らが最後の一撃を決める道を捨てた。


エステバンの身体の奥底から、魂の叫びのような熱いエネルギーが沸き上がった。


迷いは消え去っていた。


エステバンは右足をコンパクトに振り抜き、飛び出してきたGKの脇下を鋭く射抜いた!


――ザシュッ!!!!!


後半45分+3分。5―4!


劇的な勝ち越しゴール!


「¡Golazo! ¡Golazo! ¡Gooooool!(決まったぁぁぁッ!!)」


スタジアムが地鳴りのような咆哮に包まれ、エステバンは雄叫びを上げながら氏真へと突進した。


「ウジザネぇぇぇッ!」


エステバンが氏真を抱き上げ、ピッチの上で絶叫した。


「お前って奴は……! 本当に、とんでもない奴だよ!」


「君が決めてくれると信じていたよ、エステバン」


氏真は少年の柔らかな笑顔を浮かべ、エステバンの背中を強く叩いた。


ピーーーッ! ピーーーッ! ピーーーーーッ!


直後に鳴り響いた長いホイッスル。


5―4。


FCバルシーノ、欧州王者FCパリとの壮絶な死闘を制し、ユースCLグループステージ5勝1分、勝ち点16。


堂々のグループ首位通過を決めた瞬間であった。


――


6. 12月の空港と予兆の影


激闘から数日が過ぎた、12月下旬。


カンテラの前半戦全日程が終了し、バルセロナの街はクリスマスの華やかなイルミネーションに彩られていた。


冷たい冬の澄んだ空気が広がる、バルセロナ・エル・プラット国際空港の国際線到着ロビー。


自動ドアの向こうから姿を現した二人の少女を見て、迎えに来ていた氏真は目を細めた。


「氏真様!」


冬物のコートを身に纏い、柔らかな笑みを浮かべて駆け寄ってきたのは、冬休みを利用して日本からやってきた早川愛だった。


その隣では、妹の舞がキャリーケースを引きながら、不敵な笑みを浮かべて手を振っている。


「ウジ君、待たせたわね! 前半戦の全データと、決勝トーナメントの仮想敵のシミュレーション、全部持ってきたわよ!」


「愛さん、舞。長旅お疲れ様。よく来てくれたね」


氏真が温かく迎え入れたその時だった。


ロビーの反対側から、カメラを首から提げたルナと、洗練された私服を着こなすエレナが小走りで駆け寄ってきた。


「ウジザネーッ!」


「初めまして。氏真様の食事と健康管理をお預かりしております、早川愛と申します」


愛とルナの視線が交錯する。


氏真が苦笑いを浮かべる中、愛の聡明な瞳が、少し離れた柱の陰から歩み寄ってくる母・有理の姿を捉えた。


有理は笑顔で手を振っている。


だが――愛の視線は、有理が右足を踏み出す際のほんのわずかな躊躇、そしていつもより明らかに遅い歩行速度を見逃さなかった。


愛の伏せられた睫毛が、微かに揺れる。


地中海の冬風の中、氏真たちの次なる戦いは、静かにその幕を開けようとしていた。

【次回予告】

冬休みのバルセロナで勃発する波乱のオフシーズン!

そして、愛が感じ取った「小さな異変」の正体とは――!?

第106話:【地中海の火花】次なる天下へのパスを回せ!

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