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『The Renaissance striker Uzizane(転生ストライカー氏真)』 ~戦国最低スペック大名が現代に転生したら、天才ストライカーになってしまった件~  作者: みなも
第6章 序 ~ユースCL黎明編~

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第100話:【勝利を編む者】

【あらすじ】

ユースCL第4節ニューカッスルFC戦。過密日程により昇格組を守備陣へ並べたバルシーノは、過酷なターンオーバーを敢行する。フベニルAで初先発を掴んだ14歳の氏真は、監督から託された「チームを勝たせる」という使命を背負い、ピッチ中央で指揮を執る。

1. 白鳥に灯る炎


地中海からの冷たい秋風が、スタジアムの芝生を波打たせていた。


ユースCL・グループステージ第4節。


FCバルシーノ・フベニルAがホームに迎えたのは、イングランドの古豪ニューカッスルFCのU-19であった。


試合前のロッカールーム。ホワイトボードの最上段、センターフォワードの枠に『29 UZIZANE』の名が書き込まれた瞬間、室内の空気が張り詰めた。


カンテラ最高峰の舞台における、吉良氏真の初先発。


だが、その抜擢は華やかな栄誉というよりも、過酷な過密日程が生んだ苦肉の策でもあった。


主力の疲労は限界に達し、最終ラインにはカデテから昇格したばかりのCBアレハンドロ、右SBアントニ、CBキケ、左SBフェランが並ぶ。中盤の底にはサビエルと、先発に抜擢されたポージャン・ペレス。トップチームへ帯同中のエステバンは不在。守備の要のカレスやテンテはベンチで戦況を見守ることとなった。


戦術ボードの前に立ったジョゼップ監督は、氏真の瞳を射抜くように見据え、低く硬い声を落とした。


「氏真」


「はい、監督」


「今日はお前が前線の軸だ。年齢は関係ない。周りを活かせ。最後までチームを動かせ」


周囲の選手たちが息を呑む。


経験の浅い守備陣、落ちていく運動量、噛み合わない歯車。そのすべての歪みを計算に入れた上で、勝利という解を導き出せという、指揮官からの冷徹な命題であった。


氏真は一切の動揺を見せず、ただ静かに頷いた。


「任せてください。点を取って、・・・・・最後は勝ちます」


トンネルを抜け、ピッチへ歩み出る。


スタンドの放送席では、この日特別に、地元カタルーニャのローカル局きっての迷物アナウンサー、ロイが実況席に座っていた。その隣には、バルシーノ・カデテを率いるカルロス監督。

二人がヘッドセットを装着し、試合開始の時を待っている。


『――注目のスターティングイレブン。前節、劇的な4点目を挙げた日本の14歳、ウジザネ・キラが、フベニルAで初のスタメン出場です!』


『一見すると、優雅な白鳥のようですが――』


『……白鳥?』


カルロスが思わず聞き返す。


『ええ、白鳥です!』


『いや、どう見ても人間でしょう』


『そこではありません! あの身のこなしですよ!』


『……まあ、それなら分かります。何しろ、私が日本で発掘した選手ですから』


『発掘?』


『ええ。原石でした』


『……なるほど。では、今夜は原石がどこまで輝くか、見せてもらいましょう』


――


2. 鋼鉄の壁と最初の一撃


主将のGKトニ・ラマジェが咆哮し、主審のホイッスルが鳴り響いた。


キックオフの瞬間から、ニューカッスルFCの放つ重圧がピッチを覆い尽くした。


屈強な体躯を誇る英国の若武者たちは、中央に強固な[4-5-1]のブロックを敷き、バルシーノのパスコースを徹底的に塞ぎにかかる。


ボールが動いた瞬間、連動した激しいハイプレスが襲いかかってきた。


「Press him!(寄せろ!)」


ニューカッスルの主将であるMFアーサーが怒号を上げ、猛烈な勢いで身体を叩きつけるようなタックルでボールを刈り取りに来る。


球際の衝撃音。芝生が抉れる音。


初先発のアレハンドロやポージャンは、英国特有の肉弾戦の圧力に気圧され、パスの出足が一歩ずつ遅れ始めていた。


だが、最前線に立つ氏真の視界は、水鏡のように静かだった。


(中央は堅固。だが、寄せに出るたび、CBは外へ半歩開く――ならば、狙う場所は決まっている)


前半26分。


中盤の底でサビエルが相手のプレスを引きつけ、右インサイドハーフのフェリペへボールを預けた。


フェリペへ相手ボランチのオリヴァーが猛然と間合いを詰める。


その瞬間、氏真が動いた。


相手CBリアムの正面へ突進するのではない。リアムと右SBジャックの視野が重なり合う、わずか数十センチの境界線へ、すっと影のように滑り込む。


リアムの視線が、ボールと氏真の間でほんの一瞬だけ迷った。


その刹那。


フェリペの右足から、鋭いグラウンダーの斜めのパスが放たれる。


氏真はボールの勢いを殺さない。


氏真は右足のアウトサイドでボールをわずかに右へ逃がした。寄せてきたリアムの足先が空を切る。その一瞬を逃さず、氏真は前方へ抜け出した。


力で破るのではない。相手の踏み込みの力をそのまま利用した、流れるような反転から氏真は最終ラインの背後へ抜け出した。


飛び出してくる相手GK。


氏真は左足の踏み込みを極限まで柔らかく保ち、右足の甲でボールの芯を静かに擦り上げた。


フワリと浮いたボールが、GKの伸ばした右腕のわずか上を越えていく。


――ザシュッ。


静かに揺れるゴールネット。


前半27分。1―0。


FCバルシーノ先制!


「¡Golazo!(なんてゴールだ!)」


スタジアムが歓声に包まれる。


氏真は派手な咆哮を上げることもなく、駆け寄ってきたフェリペと静かにハイタッチを交わした。


――



3. 破綻の予兆


だが、プレミアリーグの血を引くニューカッスルFCは、先制された程度で怯むようなチームではなかった。


ボールを奪うや否や、素早い縦への意識で前線へロングボールを打ち込んでくる。


ウイングがタッチライン際でタメを作った瞬間、中盤の選手が猛烈な勢いでペナルティエリア内へ走り込んでくるダイナミックな飛び出し。


前半42分。


自陣深くでサビエルのパスがわずかに短くなった。


ニューカッスルのMFカラムがそれを強奪し、間髪入れずに左サイドの裏へ展開する。


フベニルBから初召集の右SBアントニが必死に追走するが、相手ウイングの初速に振り切られ、鋭いクロスがゴール前へ供給された。


中央でカバーに入ったCBキケの頭上を越え、飛び込んできたFWハリーが頭で叩きつける。


バシィィッ!


トニ・ラマジェが横跳びで反応するが、芝で鋭くバウンドしたボールは無情にもゴール右隅へと吸い込まれた。


前半43分。1―1。


同点。


「¡Arriba!(顔を上げろ!)」


トニ・ラマジェが手を叩いて叫ぶが、昇格組の守備陣の顔には隠しきれない疲労と焦燥が滲んでいた。


ピーーーッ!


前半終了。


スコアは1―1。


『いやあ、ニューカッスルの圧力は凄まじいですね! それでもバルシーノは、14歳のウジザネ・キラの一撃で先手を取りました!』


『あれは偶然のゴールではありません。氏真は、ニューカッスルの守備が前へ出る瞬間をずっと観察していました』


『なるほど。つまり、あの白鳥は相手の守備を観察していたと?』


『……白鳥ではなくFWです』


『そこは分かっていますよ』


『ならいいですが』


カルロスはピッチへ視線を戻した。


『ただし、問題はここからです。ニューカッスルは、氏真を止めるために守備の形を変えてくるでしょう』


『14歳のストライカーに、ここまで対策を強いるわけですか?』


『ええ。だからこそ、後半が楽しみなんです』


――


4. 閃光の連鎖


後半開始。ジョゼップ監督は早くも動いた。


「ダビアン、行くぞ」


後半開始と同時に、ダビアン・シヴァをピッチへ投入。中盤の構成力を一段階引き上げる。


氏真は後半のピッチへ足を踏み入れながら、隣を走るFWレオン・ラインハルトと左ウイングのイネス・カスティーニャに短く視線を送った。


言葉はいらない。


氏真が中央で相手CBを引きつけることで、二人の走るべき航路が自ずと浮かび上がる。


後半12分。


ダビアンが中盤で相手の激しいタックルを華麗にかわし、前方の氏真へ縦パスを打ち込む。


氏真はペナルティエリア手前でボールを収めると、シュートモーションに入った。


相手CBリアムが死に物狂いで身体を投げ出してシュートブロックに飛び込んでくる。


氏真はそのブロックの影を冷徹に見切り、あえて相手DFの足にわずかに当たる角度で右足を振り抜いた。


ドスッ!


ディフレクションを起こした鋭いシュートが、相手GKの逆を突く。


GKが辛うじて右手を伸ばして弾いたボール――そのこぼれ球の落下地点へ、猛烈な速度で走り込んでいたのはレオンだった。


「¡Leon!(レオン!)」


レオンが右足で豪快にゴールへ蹴り込む!


――ドガンッ!


後半13分。2―1。


「ナイスシュートだ、氏真!」


レオンが氏真の肩を抱き寄せる。


さらに後半22分。


氏真の創り出す選択肢が、決定的な3点目を生み出す。


サビエルの配球から、中央へ降りてきた氏真へボールが入る。

ニューカッスルの守備ブロック全体が、氏真のキックを警戒して中央へキュッと収縮した。


その瞬間、氏真は左奥へ走り出したイネスを視界の端で捉え、視線を動かさず、左足のアウトサイドで浮き球のスルーパスを送り込んだ。


完璧なタイミング。


大外からトップスピードで侵入してきたイネスが、ノーバウンドで左足を一閃させる。


突き刺さる強烈なボレーシュート。


後半23分。3―1。


1ゴール、1アシスト、そして1つの起点。


14歳の少年がピッチ中央で紡ぎ出すプレーによって、バルシーノが2点のリードを奪い取った。


――


5. 激痛の代償と鉄壁の防壁


だが、勝利への代償はあまりにも重かった。


獅子奮迅の働きを続けていたピボーテのサビエルが、度重なる激しいプレスを受け続け、足の痙攣を起こして膝をついた。


後半28分。


サビエルの運動量が落ちたことで生まれた中盤の隙をニューカッスルに突かれ、一気に前線へロングボールが放り込まれた。


慌てて対応したCBアレハンドロが相手FWのユニフォームを引っ張り、主審の笛とともにイエローカードが提示された。


さらに後半31分。


サビエルに代わって中盤の底に入ったポージャン・ペレスが、相手の連動したプレスに囲まれ、痛恨のボールロスト。


一気に数的優位を作ったニューカッスルのカウンター。


右サイドからの鋭い折り返しを、中盤から飛び込んできたMFアーサーにダイレクトで叩き込まれた。


3―2。


一点差。


スタジアムに悲鳴のようなざわめきが広がる。


「落ち着け! まだ勝っている!」


トニ・ラマジェが怒声を張り上げるが、若手守備陣の動揺は隠せない。


ベンチ前で腕を組んでいたジョゼップ監督の瞳が、鋭く光った。


「カレス、テンテ! 入れ!」


後半33分。


監督は残された守備の絶対的支柱――闘将カレス・モンテロと、中盤の門番テンテを同時に投入。


浮足立っていたアレハンドロとポージャン・ペレスを下げ、守備ラインの再編を命じた。


「お前ら、ここからは一点も通さんぞ!」


ピッチに入ったカレスが味方を鼓舞し、最終ラインに鋼の規律を蘇らせる。


ニューカッスルFCの怒涛のパワープレイ。


空中戦の競り合いでカレスが頭を割り込み、こぼれ球をテンテが泥臭く掻き出す。


そして――ロスタイムの4分間。


前線でボールをキープし、相手の攻撃時間を冷徹に削り取っていたのは、背番号29、吉良氏真であった。


相手DF二人を背負いながらも、氏真は軸足を柔らかく使い、ボールを身体の懐深く隠してファールを誘う。


時間を支配する、無駄を削ぎ落とした身体操作。


ピーーーッ! ピーーーッ! ピーーーーーッ!


夜空を切り裂く、試合終了の長い笛。


3―2。


Cバルシーノ、過酷なターンオーバーの試練を乗り越え、ユースCLグループステージ3勝1分、勝ち点10でグループ3位へと浮上した。


『試合終了! 主力を大幅に入れ替えながら、バルシーノがニューカッスルを振り切りました!』


『ええ。ただ、この試合で勝ったのは、単に14歳のストライカーが点を取ったからではありません』


『ほう?』


『氏真は、自分が何をするべきかを考え、味方を動かし、最後には時間まで支配した。今日の彼は、ゴールを決めるだけのFWではありませんでした』


『なるほど……』


『チームが苦しい時、何をすれば勝てるのか。それを自分で見つけられる選手になってきた。そこが、今日一番大きな収穫でしょう』


『14歳にして、ずいぶん難しい宿題を解いてしまいましたね』


『ええ。ですが、今日の答えが正解だったかどうかは、次の試合で分かります』


――


6. 90分の果てに見えた地平


芝生の上に倒れ込むレオンやダビアン。


その中で、氏真は両膝に手を置き、静かに肩で息を整えていた。


フベニルAに昇格して以来、初めて経験した90分間のフル出場。


脚は鉛のように重く、呼吸を整えるたびに張り詰めた疲労感が全身を巡る。だが、その瞳の奥にある光は、以前よりも遥かに深く、澄み切っていた。


「ウジザネ」


背後から声をかけてきたのは、最後までゴールを守り抜いたカレスだった。


歴戦の闘将は、激闘の汗を滲ませた手を差し出し、不敵な笑みを浮かべた。


「……よく最後まで立っていたな。お前が前で時間を作ってくれなきゃ、最後の猛攻は耐えきれなかったぜ」


「僕が前で時間を作れたのも、カレスたちが後ろにいてくれたからです」


カレスは一瞬目を丸くすると、豪快に笑った。


「よく分かってるじゃねえか、小僧。……FWにしとくのが惜しくなるぜ」


氏真がその手を握り返すと、カレスは力強く引き寄せ、少年の背中を叩いた。


ベンチ前で見つめるジョゼップ監督は、手元のノートを閉じ、静かに視線を上げた。


破綻しかけた守備、若手の動揺、主力の消耗。


その歪みをすべて飲み込み、自らの知性と決定力で最後までピッチに立ち続けた14歳。

もはや、彼は途中から流れを変えるだけの存在ではない。


チームの命運を託される選手へ――。


欧州の荒波の中で、その階段を氏真は自らの足で確かに上り始めていた。


【次回予告】

国内リーグ第8節ローナFC戦。先発した氏真が魅せる鮮烈な先制弾! そして次なる舞台は北欧、コペンハーゲンFCとのアウェイ決戦へ!

第101話:【北欧の冷たき氷壁】次なる天下へのパスを回せ!


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