第ニ部 桃色の約束 第一章 数週間後
「好き」って言えた日から、十七日。付き合ったのに、まだ慣れない。でもその慣れなさが、全部愛おしい。
「好き」って言えた日から、十七日が経った。
桃花は今日も蓮の隣を歩いている。 並んで歩いてるだけなのに、なんか変な感じがする。 変というか、 まだ慣れない。
(彼氏、なんだよな。蓮が。)
また心の中でこっそり確認してしまった。 一日に何回やるんだろう、これ。
「桃花」
「は、はい」
「なんで敬語」
蓮が少し呆れた顔をする。 でも目は笑ってる。 ずるいよそれ。
(怒ってるわけじゃないって、分かってるんだよ。だから余計に恥ずかしいんだよ。)
「なんでもない」
「そう」
それだけ言って、蓮はまた前を向いた。 桃花も前を向く。
二人の間に静かな風が通り抜けた。
コンビニの前を通りかかった時、蓮が急に立ち止まった。
「なに?」
「桃缶」
ショーウィンドウの中に、缶詰のコーナーが見えた。 黄色いラベルの、あの桃缶。
(あの日のやつだ。)
桃花の心臓が少し跳ねた。 あの日、二人で食べた。 まだ何も始まってなかった、あの放課後。
「食べる?」
「……食べる」
蓮はさらりとコンビニの中に入っていく。 桃花はその背中を見ながら、少しだけ笑った。
(覚えてたんだ。)
(もしかして、大事にしてくれてるのかな。)
(やば、嬉しい。)
ベンチに座って、二人で蓋を開けた。 あの日と同じ甘い匂いが漂う。
「桃花」
「うん」
「付き合って良かった」
唐突すぎる。 また顔が熱くなる。
(なんで急に言うの!)
(こっちは心の準備があるんだけど!)
(というかそれ、今言う必要あった!?)
「……わ、私も」
絞り出すように言ったら、蓮がふっと笑った。 またその顔。
「なんで笑うの」
「別に」
「別にってなに」
「可愛いと思って」
(もう無理。)
桃花は黙って桃缶のシロップを一口飲んだ。 甘くて、少し冷たかった。
隣で蓮も同じように飲んでいる。 なんでもない顔して。
でもその耳が、少し赤い。
(あ。)
(蓮も、慣れてないんだ。)
それに気づいたら、なんだかすごく嬉しくなった。 桃花はもう一度、桃缶を見た。
甘い。 今日の桃は、特に甘い気がした。
蓮の耳が赤かった。桃花も気づいてた。ふたりとも、まだ慣れてなかったんだよね。今日の桃缶が、特に甘かった理由はきっとそれだ。




