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桃色の夜に、きみがいた  作者: Noct


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第ニ部 桃色の約束 第二章 初めてのすれ違い

うまく話せない日がある。好きな人ができると、沈黙がこんなに長く感じるなんて、誰も教えてくれなかった。

うまく言えないまま、少しだけ遠くなる

放課後の廊下は、いつもより静かだった。

蓮と並んで歩いていると、なんとなく会話が続かない日がある。 今日がそうだった。

(なんか、変な感じ。)

(昨日は普通だったのに。)

桃花はちらりと蓮を見た。 蓮はまっすぐ前を向いている。 怒ってるわけじゃない、と思う。 たぶん。

 「ねえ」

  「うん」

 「……なんでもない」

(言えなかった。)

(なにが言いたかったのかも、もうわからない。)

蓮は少し桃花を見たけど、何も言わなかった。 二人の間に、静かな空気だけが残った。


ほんとは、同じことを思っていたのに

その日の夜、桃花はベッドの上で天井を見ていた。

(なんであの時、黙ったんだろう。)

(別に怒ってたわけじゃないのに。)

(ただ、なんか、うまく話せなかっただけで。)

スマホを手に取って、蓮のトーク画面を開く。 最後のメッセージは昨日の「おやすみ」。

送ろうかな。 でも何を送ればいい。

「今日変だったね」って言う?

「なんでもなかったよ」って言う?

(どっちも違う気がする。)

結局、スマホを置いた。

部屋の電気を消して、目をつぶる。 その三分後、スマホが光った。

蓮:なんか変だったな、今日。俺も。

桃花は暗闇の中で、少しだけ笑った。

(同じこと、思ってたんじゃん。)


言葉が足りなくて、心が迷子になる日

次の日の朝。

教室に入ると、蓮と目が合った。 蓮が少し手を上げる。 桃花も小さく手を振った。

それだけなのに、昨日の重さが少し消えた。

(不思議だな。)

(言葉じゃなくて、それだけで。)

席に着いて、鞄から教科書を出しながら、桃花は思う。 好きな人ができるって、こういうことなんだ。 うまく話せない日があって、 心が迷子になって、 それでもまた、朝が来る。

(誰も教えてくれなかったな、こんなこと。)


小さな沈黙が、こんなに長く感じるなんて

昼休み、二人で屋上に来た。

いつもは誰かと来るこの場所に、今日は二人だけ。 それだけで、空気の重さが違う。

 「昨日のメッセージ」

桃花が口を開いた。

「うん」

 「ありがとう」

 「別に」

また沈黙。 でも今日の沈黙は、昨日と少し違う。

(怖くない。)

(なんか、やわらかい。)

風が吹いて、桃花の髪が揺れた。 蓮がそれを、ちらっと見た。

 「蓮」

「うん」

 「私、うまく話せない時あるけど」

 「知ってる」

 「それでも、いい?」

蓮は少し間を置いてから言った。

 「俺もおんなじだから」

(あ。)

(告白の時も、同じこと言ってた。)

桃花は空を見上げた。 今日の空は、やけに青かった。


「なんでもない」が、一番むずかしい

帰り道。

また二人で並んで歩いていた。 昨日と同じ道。 でも全然違う。

 「桃花」

  「うん」

  「昨日さ」

  「うん」

  「俺も、うまく話せなかった」

(知ってる。)

(でも、ちゃんと言ってくれてありがとう。)

 「うん」

と言ったら、蓮が少し笑った。

 「それだけ?」

 「それだけ」

蓮がふっと息を吐く。 呆れてるのか、嬉しいのか。 たぶん、両方。

(「なんでもない」って言うより、ずっと難しかった。)

(でも今日は、言えた。)

二人の影が、夕暮れの道に長く伸びていた。 並んで、少しだけ重なりながら。

「なんか変だったな、今日。俺も。」その一言が、暗闇の中で光った。言葉が足りなくても、ちゃんと届く日がある。

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