第一部 桃色の缶と、はじまりの恋 第六章 揺れる距離
あれはなんだったんだろう。蓮も、桃花も、答えを持て余している。
あれはなんだったんだろうな。
あの日以来、彼女の態度がまた変わった。
もしかしたら変わったのは、俺の方かもしれない。
あの日、蓮は桃花を抱きしめた。
思いが募り、だんだん力が入ってしまった。
「い、痛い」
かろうじて桃花が声を上げると、蓮はハッとした。
「ごめん!悪かった!!」
桃花は笑う。
「謝りすぎ!でもさ、彼女がいるんだから、彼女に悪いもんね」
そう諭されたのだった。
帰り道、足はもう恋人の元へ向かっていた。
もう誤魔化すこともできない。
こんなに気持ちが溢れてしまってる。
俺は正直に、恋人に別れを口にするだろう。
あれ以来、蓮との会話がどことなくよそゆきっぽい。
お互いに意識してるのが分かる。
蓮は自分のことをどう思ってるんだろう?
恋人がいる時は、他の人に手を出さない人なんだと思う。
それでもさ、あれは無いんじゃないかな。
自分が恋人だったら、めちゃくちゃ怒る案件だよね!
恋人だったら……あの後どうなってたかな……?
「ねぇ、また別れたらしいよ」
友人が蓮のことを教えてくれた。
ええ?また?って言うかまさかあの時のあの抱きしめちゃったことを、わざわざ元恋人に話しちゃったとか?いやいや、そんなことはしないか。流石にないか……。
「おい」
ずっと考え事をしている頭の上から声がした。
上を向くと蓮だった。
「なに?」
「この後、時間あるか?」
「うん、バイトまで30分くらいあるかな」
「そっか。じゃあ送るからさ、ちょっとだけ付き合って」
なんか静かな場所に進んで行くな。
ここからバイト先まで5分くらい。
時間はまだ間に合う。
なんだろう?人に聞かれたらまずい話かな。
ああ、あれか、恋人と別れて未練があるとか。どうしたら良いかな相談?いやいや今までそんなことなかったし。もう次の恋人いるだろうから。何か贈り物のアイデア募集中とか。待てよ、恋人のことで自分に話をして来たことって、今までに一度でもあったっけ?無いじゃん。じゃあ、なに?
桃花の頭の中は、これからする話題のことで思考がぐるぐるしてる。
その点、蓮の頭の中は、失敗は許されない。
今度こそ、決める。
今度こそ、決める。蓮の中で、何かが固まった夜




