第二部 桃色の約束 第四章 友達にバレる
秘密にしてたわけじゃない。ただ、もう少しだけ、ふたりだけの時間にしておきたかった。でも「おめでとう」って言ってもらえた日、それが本物になった気がした。
名前を呼ばれただけで、全部ばれそうになる
「桃花ー!」
朝のホームルーム前、友達の咲が飛んできた。 いつも元気な子だけど、今日はなんか目が違う。
(なに、その顔。)
(なんか知ってる顔だ。)
「おはよ、咲」
「おはよ!ねえねえ」
「なに」
「蓮くんと帰ってたよね、昨日」
心臓が跳ねた。 顔には出してない。 たぶん。
「……たまたま同じ方向だっただけ」
「ふーん」
咲はにこにこしながら桃花の顔を見ている。 その目が「全部お見通しだよ」
と言ってる。
(やばい。)
(この子には昔から、なんでもバレる。)
「桃花、耳赤いよ」
(だから耳!!)
(なんで私の耳はこんなに正直なの!!)
秘密だったはずの気持ちが、光に触れる日
「付き合ってるの?」
咲がずばっと聞いた。 教室の隅、朝のざわざわの中で。
桃花は少し間を置いた。
(秘密にしてたわけじゃない。)
(でも、誰かに言うのは初めてで。)
(言ったら、本物になる気がして。)
(もう本物なんだけど。)
「……うん」
小さく答えたら、咲の目がまん丸になった。
「え!!」
「しっ、声」
「ごめん、でも、え、ほんとに!?」
「ほんとに」
「いつから!?」
「三週間くらい前」
「なんで言わなかったの!!」
(言う機会が、なかったわけじゃない。)
(ただ、もう少しだけ、二人だけの時間にしておきたかった。)
「なんとなく」
「なんとなくって!」
咲がぎゅっと桃花の腕を掴んだ。
「おめでとう」
その一言が、思ったより嬉しかった。
からかわれて、ちょっとだけ本当になる
昼休み。
咲と一緒に購買に行く途中、蓮とすれ違った。 蓮が桃花に小さく頷く。 桃花も頷く。 それだけ。
その瞬間、咲が桃花の耳元で囁いた。
「今、ちょっと笑ったじゃん」
「笑ってない」
「口の端、上がってたよ」
「上がってない」
「上がってた。私の目はごまかせないよ」
(上がってたかもしれない。)
「蓮くん、桃花のこと好きなんだね」
「……うん」
「桃花は?」
「うん」
「もっと嬉しそうに言いなよ」
桃花は少し考えた。
「好き」
今度はちゃんと言った。 咲がにっこりした。
「それが本当の顔だよ」
(からかわれて、ちょっとだけ本当になった。)
(好きって、口に出すたびに、もっと本当になっていく気がする。)
隠していたのに、うれしくなってしまう矛盾
放課後、蓮に話した。
「咲にバレた」
「そっか」
「怒る?」
「なんで俺が怒るんだよ」
それはそうか。
「……良かった?」
「別に」
蓮は少し窓の外を見た。
「でも、まあ」
「まあ?」
「隠すことでもないしな」
(隠してたわけじゃない。)
(でも、誰かに知られるのが、少し怖かった。)
(二人だけの話が、世界に触れる感じがして。)
「私も、ちょっとだけ嬉しかった」
「咲に言えて?」
「うん。おめでとうって言ってくれたから」
蓮が桃花を見た。 なんとも言えない顔で。
「俺も言えばよかったな」
「え?」
「おめでとう」
(ずるい。)
(そういうこと、さらっと言うの、ずるすぎる。)
桃花は俯いて、小さく笑った。
「……ありがとう」
ふたりのことが、"ふたりだけじゃなくなる"日
翌日、クラスの空気が少し変わった気がした。
気のせいかもしれない。 でも、なんとなく、みんな知ってる感じがする。
咲が言いふらしたわけじゃないと思う。 ただ、隠してもいなかったから。
廊下で蓮とすれ違う時、後ろで誰かがくすっと笑った。 桃花は顔が熱くなった。 蓮はちらっと後ろを見て、また前を向いた。
放課後、二人で帰りながら蓮が言った。
「なんか、みんな知ってるな」
「うん」
「嫌だった?」
「……ううん」
桃花は少し考えた。
「なんか、ちゃんとしてる感じがする」
「ちゃんと?」
「ふたりのことが、ちゃんとあるって感じ」
蓮はそれを聞いて、少し黙った。 それから、桃花の手をそっと握った。
昼間の、人がいる道で。 初めて。
(ふたりだけじゃなくなった分だけ、)
(もっとちゃんとしてくれた。)
桃花はその手を、静かに握り返した。
昼間の、人がいる道で。初めて手を繋いだ。ふたりだけじゃなくなった分だけ、もっとちゃんとしてくれた。好きって、口に出すたびに、もっと本当になっていく。




