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第十二話 ひみつきち


ガコン。


独りでに、ワゴンのスライドドアが開く。

私とサイファーは一瞬顔を見合わせ。

そして、迷わず乗り込んだ。


――次の瞬間。


「……」

「……」


沈黙せざるを得ない光景が広がる。

車内は、ショッキングピンクだった。

徹底的かつ狂気的に。

目が痛くなるほどの、ショッキングピンク尽くし。


シート。カーテン。クッション。

全てがピンクであり、しかもそれだけではない。


猫型ヘッドレスト。

猫デザインのクッション。

猫耳付きドリンクホルダー。

謎の巨大招き猫。

何故か天井から吊るされた猫のぬいぐるみ。


「なんだこりゃぁ!?」


サイファーが絶叫する。

私も、かなり驚いていた。


異形、悪夢、革命。

そんなものよりも。

エニグマの壊滅的なセンスの方が衝撃だった。


「うわぁ……」


思わず本音が漏れる。


「エニグマって、こんな趣味だったんだ……」


「いや待て、悪夢の方がまだマシだぞこれ」


サイファーが真顔で言う。

かなり失礼だが、少し同意してしまった。


その時だった。

運転席側から、何やら得意げな声が響く。


「グフフ……」


嫌な予感しかしない。


「驚いたかね雑兵ども!」


振り返るとそこには。

猫耳付きゲーミングカラーのパーカーを着たエニグマが。

恐らく満面の笑みで座っていた。



エニグマの顔は見えない。

頭には、バッテンお目目の黒猫被り物をしている。

しかも妙にふわふわしている。


どう考えても怪しい、不審な人物だ。

だが声だけは、間違いなく本物だった。


「さぁさぁ〜!」


運転席で、エニグマが両手を広げる。


「たんのすぃいドライブさ行ぐどぉ〜!!」


アクセルを無意味に吹かす。


ブォォン!!


「おらほの小作人どもぉ〜!!」


「誰が小作人だ!!」


サイファーが即座にツッコむ。

彼も完全に慣れてきていた。

私は思わず吹き出す。


やっぱりエニグマだ。

この意味不明なテンション。

この危険な高揚感。

悪夢そのものみたいな存在。


「今夜も来週まで寝かせねぇぜぇぇ〜!!」

「ヒャッハァァーーッ!!」


ワゴンカーが急発進する。

タイヤが夜道を擦る。

田園地帯へ、爆音が響いた。

私はシートへ身体を預けながら。

静かに思う。


――帰ってきた。


ようやく、私の居場所へ。



日が昇る前。

ワゴンカーは、山奥へ辿り着いた。

深い霧の中、舗装も怪しい細道を低速前進していく。


こんな場所に何があるのかと思った、その時だった。

木々の奥に、巨大な倉庫が姿を現す。

外見だけなら、ただの古い工業施設だ。

しかし車が内部へ入った瞬間。


低い駆動音が響く。


「おっ?」


床が、沈み始めた。

大型車サイズの昇降機。

ワゴンカーごと、地下へ降下している。


サイファーが若干引いていた。

私も、少しだけ驚いていた。


やがて昇降機が停止し、扉が開く。

そこに広がっていたのは――


真っ白な空間だった。


「……え?」


私は思わず呟く。


ピンクじゃない。

ショッキングピンクでもない。


白一色だ。

壁。床。天井。全てが白い。


しかも近未来的に洗練されている。

無機質なのに、美しい。


大型モニター。

立体投影装置らしき機械。

用途不明のコンソール群。


これは明らかに、秘密基地の類だ。

妙に静かで、人の気配が一切ない。


「ようこそ我が秘密結社へ!」


エニグマが胸を張る。

ふわふわの黒猫頭のまま。

説得力はゼロだった。


そしていつの間に用意したのか。

エニグマは、人数分のコーヒーを持ってきていた。

猫耳マグカップ入りで。

そこだけ壊滅的に雰囲気を壊している。


「はい、コードちゃん」


「どーも……」


私はマグを受け取る。

温かい。妙に安心する温度だった。


エニグマは自分のマグを両手で包みながら、ぽつりと呟く。


「んで」

「次、いつ“あっち”側に行く?」


その一言だけで。

空気が変わった。



「あっちって……」


サイファーが目を見開く。


「悪夢に行けるのかよ!?任意で!?」


「今すぐにでも行こうよ!」


私は即答していた。

自分でも驚くほど迷いがない。

エニグマが満足げに頷く。


「グフフ」


黒猫頭が、得意げに揺れる。


「そう来ると思ってぇ〜」


指を鳴らす。


「メアダイバーの準備は済ませてありまーす♪」


「メア……ダイバー?」


サイファーが訝し気な顔をする。

嫌な予感しかしない時の顔だ。


エニグマはそのまま私たちを隣室へ案内した。

自動ドアがどこか仰々しく開く。


そこに並んでいたのは――椅子だった。

整然とした多機能そうな六機の椅子。

見るからに高級な、人間工学特化型。


ソファみたいに柔らかそうで。

包み込むような形状。これも近未来的だ。

下手な高級ホテルより寝心地が良さそうだった。


「おぉ……」


私は素直に感動する。


「なんか凄そう」


「だろぉ〜?」


エニグマが胸を張る。


「この快眠器具を使えば!」


両手を広げる。


「今が旬!!」


一拍置く。


「絶品の悪夢へ侵入できまーす♪」


「絶品って言うな絶品って」


サイファーが即座にツッコむ。


私は、もう視線を逸らせなかった。

静かに脈打つ装置。コンソールから溢れる白い光。

眠りへ誘うような静音。


それら全てが、私を次なる悪夢へと呼んでいる気がした。



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