第97話 チーム結成
千面道化がアランをぶっ飛ばした時に、クラスメイトの半数以上が教室から外に出た。
ゆえに侵入者が千面道化と名乗った時、その場にいた生徒の数は13人。その13人をジョシュア先生は空き教室に呼び出した。
「千面道化については他言禁止で頼む」
ジョシュア先生の顔は深刻そのものだ。
「なぜでしょうか? 学校全体……いや、この街全体に知らせ、警戒を強化するべきだと私は思います」
とヴィヴィが言う。
もっともな意見だが、ジョシュア先生の判断の意図もわかる。
「誰にでも化けられる相手だぞ。情報を共有すれば街全体が疑心暗鬼に陥るのは容易に想像できる。その結果、住民が住民を疑いふるいにかける、魔女狩りのような事態に発展してもおかしくない」
「そうですね。千面道化ならそう誘導することも容易です」
アランがジョシュア先生の意見に乗る。
「実際、ハルゲンドという街でそういう事件があったはずだよ」
「アラン君、詳しいね」
「一般常識の範疇だよ」
一般常識、ね。
俺は千面道化という名前すらはじめて聞いたけどな。
「校長はこれから少数精鋭のチームを編成し、千面道化の後を追うようだ。校長に任せておけば千面道化が捕まるのも時間の問題だ」
そう言ってジョシュア先生はニコッと笑った。
張り詰めた空気がジョシュア先生の笑顔のおかげで少しだけほぐれた。
「今回の騒動について、千面道化のことは隠し、表向きは『ウツロギ先生が誤って錯乱作用のある薬物を飲み、暴走した』……ということにする。誰かになにを聞かれてもそう辻褄を合わせてほしい」
ちょっとウツロギ先生が可哀そうだが、仕方ないか。
「……本物のウツロギ先生は、どうなったのでしょうか?」
ヴィヴィが不安そうな顔で問う。
ジョシュア先生は無言で首を横に振った。
「融合錬成は2つの肉体を合わせ、1つにする。だが魂は片方しか残らないのが原則だ」
つまり、ウツロギ先生の魂は死んだということだ。
ヴィヴィは……俯いた。
ヴィヴィ……お前の考えていることはわかる。慰めの言葉を言ってやりたいが、それが余計にお前を追い詰めることもわかっている。
千面道化……早めに排除しないと、ヴィヴィの心がもたないな。
「うわ!」
フラムが声を荒げる。
「な、なんですかアレ……コウモリの羽が生えた、カボチャ?」
まさしくフラムの言葉通り。教室に羽の生えたカボチャが飛んできた。
「大丈夫。これはジャック校長の伝令機、ヴァンプ・ジャックだ」
伝令機? 伝書バトみたいなものかな。
『緊急指令! 緊急指令!』
伝令機は高い声で騒ぎ出す。
『オーロラファクトリー全員集合! オーロラファクトリー全員集合! ジョシュア先生と一緒に至急校長室までいらっしゃ~い!』
俺、ヴィヴィ、フラム、アランは顔を合わせる。
このタイミングでなんでオーロラファクトリーを集めるのか、全然意味がわからん。
それはジョシュア先生も同じで戸惑っている。
「……とりあえず行ってみるしかないな」
「ルチアはどうする? 彼女もオーロラファクトリーの一員だ」
アランは笑い混じりに聞く。
「あれ? そういえばルチアさんは――」
フラムはそこまで言って言葉を止める。
「俺が事情を説明してくる。いいですよね? ジョシュア先生」
「構わねぇさ」
俺は空き教室を出て、ジャッククラスの教室に行く。
教室の隅で、項垂れるルチアを見つける。
「……なにしてんだ」
「私は……何もできなかった」
アランがぶっ飛ばされた時、ルチアは真っ先に教室を出た。それに責任を感じているらしい。
「私は、イシスフェルの人間なのに……すぐ逃げ出した。私は……!」
「誰も責めはしないよ。あの場は逃げるのが正しい判断だ」
「でも!」
ルチアは顔を上げる。目尻には涙の跡がある。
「同じファクトリーの仲間がやられて、私は尻尾まいて逃げた。失格よ……錬金術師失格!」
「取り返すチャンスはある」
「チャンス?」
「こっちに来い」
俺はルチアを人気の無い廊下まで連れ出し、ルチアに事の顛末を伝える。
「千面道化……」
「どうする? ついて来るか? それとも」
「ついて行くに決まっているでしょう! 私はルチア=イシスフェルよ! やられっぱなしじゃ終われないっての!!」
「そうかよ」
それでこそルチア様だ。
俺とルチアはジョシュア先生と合流し、オーロラファクトリー&ジョシュア先生で校舎の最上階にある校長室を目指す。
「校長室か~、入るの初めてだね」
とアランが切り出す。
「ジブンもです!」
「現代最高の錬金術師の部屋、楽しみね!」
「別に特別なモンはなかったぞ。ただ派手な装飾がしてあっただけだ」
「なによアンタ、入ったことあるの?」
「まぁな」
「おしゃべりはそこまで。着いたぞ」
豪華絢爛な大扉の前で俺たちは立ち止まる。
「ジャック校長~、入りまっせ~」
大扉がひとりでにゴゴゴゴと開いた。
久しぶりの校長室を目で捉える。
うん、以前見た時と変わらない。宝石などの高級品が惜しみなく使われた部屋だ。ジャック校長は玉座でふんぞり返っている。
……以前と違うのは、真っ暗な眼をした男がいることぐらいだな。
「コノハ?」
ジョシュア先生がその名を口にする。
コノハ=シロガネ。オーロラファクトリー顧問の姿がそこにはあった。コノハ先生は俺たちを見つけると、小さく舌打ちした。奴の影にはラビィさんも居る。
「そっかぁ……オーロラファクトリー全員集合って言ってたもんね」
アランの言葉で俺も気づく。
そういえば、アイツも一応オーロラファクトリーのメンバーだったな……。
「入りたまえ」
ジャック校長の言葉を受け、俺たちはジョシュア先生を筆頭に部屋に入る。
全員が部屋の中に入ると扉はひとりでに閉じた。
「貴殿らを呼んだのは他でもない、例の千面道化の件について、頼みたいことがあるのだ」
俺たちは横一列に並ぶ。
「貴殿らオーロラファクトリーとジョシュア先生で千面道化対策部隊を編成する」
「おいおい、そりゃ無いだろ」
真っ先に否定の声を上げたのはジョシュア先生だ。
「コノハと俺はわかります。でも生徒をこの件に関わらせるのは反対です」
「同感ですね。俺とジョシュアの2人で事足りる問題です」
「本当にそうかね?」
ジャック校長はチラッと俺の方を見て、またすぐに先生方に視線を寄せた。
「貴殿ら2人に千面道化の変装を見破る手段はないだろう」
「まさか……イロハの眼を利用する気ですか?」
「その通り」
「危険すぎます」
「……俺は構いませんよ」
話に割り込み、発言する。
「俺なら奴の変装は一目でわかる。俺以外に奴の変装を見破る手立てがないのなら、力を貸します」
「イロハ君……危険だ」
ヴィヴィが腕を掴んで制止してくる。
「やめてくれ……君は、ダメだ」
ヴィヴィの肩は震えている。
「……これ以上、被害を大きくするわけにはいかない。そうだろ? ヴィヴィ」
「君は……」
「ここはやらせてくれ」
ヴィヴィは俺の目をまっすぐと見つめ、「わかったよ」と観念したように目を伏せた。
「ちっ。足手まといが1人増えたな」
コノハ先生は俺に目も向けない。
「アンタに色彩能力は無いんだろ」
「……!」
「なら、俺の手は必要なはずだ」
コノハ先生がようやく俺の方を向く。
俺とコノハ先生は睨み合う。
「協力感謝する、イロハよ。では話を次に進めよう。千面道化、奴の言動を聞く限り、奴は『姫様』とやらを攫いに来たようだ。その『姫様』とは恐らくヴィヴィ、貴殿だろう」
「……私もそうだと思います」
「ゆえに、今回は千面道化を探し出す『探索班』と、ヴィヴィを守る『防衛班』で班分けし、行動してもらう。防衛班はジョシュア先生をリーダーに、フラム、アラン、ルチア、そしてヴィヴィの5名で編成する」
ちょ……っと待て。
防衛班がその5人なら、探索班は必然的に――
「探索班はコノハ先生とイロハ、貴殿ら2人に任せる。無論、リーダーはコノハ先生だ」




