第129話 気まずい3人
家の場所はほとんど同じ。目的地はまったく同じ。
というわけで、登校中にクラスメイトと会うことは珍しくも無く――
「……」
「……」
「……」
とはいえ、今日は引きが悪かった。
家を出てすぐ、ラルーシェに鉢合わせした。挨拶をした後、流れで一緒に登校することになった。
そのすぐ後、今度は家を出るシオン=クロードと出会った。シオンとは特に接点は無い。1度店で絵画を売買しただけの仲だったのだが、無視するわけにもいかず、「一緒に行くか?」と誘ってしまった。いや、てっきり断られると思ったんだよ。コイツ、初対面の時俺のこと凄く睨んできたし。でも普通についてきた。
黒髪のつんけん女子と白髪の内気女子。会話が弾むはずも無く。
「アレだな。今日はいい天気だな」
「……」
「……」
どっちも無視は勘弁してくれ……。
「で、2人はどういう関係なんですか?」
にっこり笑顔でシオンがそう切り出した。言葉に圧を感じるのは気のせいだろうか。
「と、友達です!」
俺が答える前にラルーシェが答える。
「先輩の口からもそう聞きたいものですね」
先輩。という単語を聞き、ラルーシェが顏を青ざめさせた。心配するな。コイツの言う先輩とはお前のことじゃない。
「友達だよ。あと先輩って呼ぶな。同級生だろ、俺達」
「そうですね。先輩」
コイツ、話を聞いてない。
「ラルーシェさん。ご挨拶遅れてすみません。私はシオン=クロードです」
「ら、ラルーシェ=ウェントゥスです。よ、よろしくお願いします……!」
「こちらこそ。ところで、2人は知っていますか? あの噂」
「噂?」
「……」
ラルーシェは知っている様子だ。
「この時期、特別課題が発生するらしいですよ」
「特別課題ってのは……なんだっけ?」
「成績に大きく影響する課題です。しかも、特別課題は予告なしで始まるそうですよ。課題の内容は様々で、登校したらすぐさま筆記テストが始まったり」
「それはやばい」
「いきなり密室に閉じこめられて、どう脱出するかテストしたり」
「えぐいな」
「不審者が教室に乱入して、どう対処するかテストしたり」
「それはこの前似たようなことやっちまったな」
千面道化の件でな。
「生き残れるといいですね。みんな」
「おいおい。そんな過酷なのかよ」
「そりゃ過酷ですよ。この特殊課題で酷い結果を残し、留年・落第・退学等の処分を受けた生徒は数えきれないぐらい存在する」
「そこまでか……」
ラルーシェの瞳に涙が浮かぶ。
「き、気を付けてくださいぃ……イロハさぁん!」
「お前こそ気を付けろよ」
コイツが留年したのって、もしかして特別課題がきっかけか?
「先輩はたとえ退学になっても美術家という道が残っているから、気楽でいいですね」
流し目で、挑発するようにシオンは言う。
「……あのな、別に俺は錬金術師になれなかったとしても、画家に戻る気は無いぞ」
そもそも画家じゃなく画家見習いというレベルだったしな。
「なんでですか? アレだけ良い絵が描けるのに。先輩には錬金術師より画家の方が向いていますよ」
やけに突っかかってくるな。やっぱりコイツ、俺のこと嫌いなんだな。
「イロハさんの絵、ぜひとも見てみたいです」
「そういやラルーシェには見せたこと無かったか。なにか描いてほしい景色とかあったら言ってくれ。すぐに――」
「そんな……」
シオンが俺の正面に回り込む。
「アナタの絵は! そんな安売りしていいもんじゃありません!!!」
周囲を歩いていた生徒も、思わず足を止めてしまう大声でシオンは叫んだ。
シオンは自分の両手で口を塞ぎ、顔を真っ赤に染める。
「……すみません」
シオンは学校の方へ走っていってしまった。
「け、喧嘩でもしてるんですか?」
「いやぁ? 俺は別に……」
アイツの俺に対する感情わけわからん。
俺とラルーシェは学校の門をくぐって中へ。廊下を歩いて教室の中へと足を踏み入れる。
2人ともそれぞれに席につき、授業が始まるのを待った。
教室に続々と生徒が揃っていき、全員が出揃った頃、
(あ、れ?)
唐突に、眠気が襲ってきた。昨日はたっぷり眠ったし、さっきまで頭はクリアだったのに、酷く眠くなった。
何かがおかしい。
「!?」
煙だ。青白い煙が、教室を漂っている。目を凝らさないと見えなかった。多分、俺以外の人間にはこれは見えない。
バタンバタン、と次々とクラスメイト達が倒れていく。
この煙のせいか。この眠気は……!
「あ、が……!」
口が上手く動かない。
瞬きをすると、そのまま瞼が上がらなかった。
俺は深く深く、眠ってしまったのだった。




