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色彩能力者の錬金術師  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第3章 千面道化襲来

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第128話 2人の弟子

 錬絶のナイフを錬成した後、俺は1番通りを歩いていた。

 1番通りは言わば『繁華街』で、上質な店が多く、常に騒がしい。もう陽は落ちているのに、店の光で全然明るい。


 今日はかなり頑張ったので、自分へのご褒美のために少し高い店に行こうと思ったのだが、1人で来るような場所でも無かったな。来た道を戻ろうと踵を返す。


「あれ? イロハ君じゃない」


 思いもよらぬ人がそこに居た。

 眼鏡を掛けた美人教師ヴィクトリア先生と、あの……コノハ=シロガネだ。


「……」

「……」


 俺とコノハ先生は無言で視線を交わす。


「あははははははっ!!! すごっ! ホントに険悪な空気! 懐かしいわね。先生と兄弟子もいつもこんな感じだったわよ!」


 1人爆笑するヴィクトリア先生。


「……2人はなんですか。デートでもしているのですか」

「男女で歩いていたらすぐに恋路に結び付けるとは、ガキらしい短絡的な思考回路だな」

「これは兄弟子の言う通りよ。私達は仕事の途中。教員として、生徒が問題を起こしていないか見回りをしているの」


 ヴィクトリア先生は「そうだ!」と手を合わせる。


「イロハ君、何か露店で奢ってあげるわ。3人で食べ歩きしましょ♪」

「見回りはどうしたんですか」

「ちょっとぐらい構いはしないわよ」

「……くだらん」


 コノハ先生は1人歩き出す。そのコノハ先生の腕をヴィクトリア先生が掴んで止める。


「待ってくださいよ兄弟子!」

「そんな奴と共に行動するなど二度とごめんだ」


 同じく。


「コーヒーゼリー、って知ってます?」


 俺とコノハ先生は同時に肩を揺らした。


「コーヒー……」

「ゼリーだと?」

「その名の通りコーヒーをゼリー状にした商品なんです。この前、通りがかった露店で出してたんですよ。興味ありません? 私もまだ食べてはいないんです」


 コーヒーのゼリー……やばい。気になる。恐らく、コノハ先生も同じ気持ちだろう。


「俺は行きます」

「ちっ。仕方あるまい」

「決まりですね! あ、でもコーヒーゼリーはデザートなので、その前にステーキ串を食べましょう」

「勝手にしろ」


 気のせいかな。この人、ヴィクトリア先生に甘い気がする。


「ステーキ串のお店はどこですか?」

「すぐそこよ」


 ヴィクトリア先生の案内で、俺達3人は鉄板で肉を焼いている屋台へ足を運んだ。

 ヴィクトリア先生が前に出て、


「すみません。マンモスステーキ串3本ください」

「はいよ」


 おい、今マンモスって言ったか。美味いのかそれは。


「はい。どうぞ」


 1本ずつステーク串が配られる。

 まずは一口。


「……美味い」


 獣臭くて、歯ごたえはあるけど、噛むたびにジューシーで甘味のある肉汁が弾ける。味付けは塩コショウだけとシンプルだけど、それが素材の良さを引き出している。

 牛タンの食感とハンバーグの甘味といったところか。とても美味い。


「まぁまぁだ」

「昔は修業の後、よくこうして買い食いしましたよね~」

「覚えていないな」

「え~? 先生に叱られて泣きじゃくる兄弟子を、私が何度励ました事か」

「ふざけたことを抜かすな。泣いていたのはお前の方だろ。励ました方が俺だ」

「なーんだ、やっぱり覚えているじゃないですか」


 気のせいじゃない。ヴィクトリア先生と一緒に居る時のコノハ先生は人間味がある。


「ねぇねぇイロハ君。アゲハ先生とはさ、晩年ずっと一緒だったんだよね?」

「ええ、そうですよ」

「アゲハ先生は私や兄弟子の話はした?」

「……」


 ヴィクトリア先生は少し緊張を孕んだ声で聞いてくる。コノハ先生も、耳をこっちに傾けている感じだ。


「していません。爺さんが俺の知らない他人の話をしたのは1度だけです。1度だけ、爺さんは奥さんの話をしてくれました」

「そうなんだ。どんな話?」

「没する1週間前ぐらいですかね。『妻は優しい人間で、私を心から愛してくれた』と。それと『妻には迷惑を掛けた。何もしてやれなかった。もう少し、傍に居てやるべきだった』って」


 ボキ。と、コノハ先生が木串を右手の握力で折った。

 コノハ先生はその場に折れた木串を捨てる。


「くだらん」


 そう言い放つコノハ先生の瞳には怒りが浮かんでいた。


「帰る。もう何も食う気にならん」


 コノハ先生は1人、スタスタと去っていく。


「あ、ちょっと兄弟子!」


 ヴィクトリア先生が折れた木串を拾う。


「錬金術師なんですから、ポイ捨てなんて絶対やっちゃダメですよ! ……まったく、変わらないわね。あの人は」

「俺、なんかまずいこと言っちゃいましたかね」

「ううん。話を振った私が悪いのよ」


 去り行くコノハ先生の背中を、ヴィクトリア先生はため息をつきながら見つめる。


「悲しいわね。あの人はただ、親の愛情が欲しかっただけなのに……」


 やっぱり、コノハ先生と爺さんの仲は酷かったんだな。

 なんだか、こっちに来て色々な人の話を聞く度、爺さんの印象がぼやけてくる。

 俺にとっては育ての親で、しっかりとした人だった。だけど、どうやら錬金術師としてのアゲハ=シロガネは特殊な人だったようだ。


「さ! 私達はコーヒーゼリーを食べに行きましょう! このまま暗い空気で終わりたくないもんね!」

「そうですね。俺はきっちりデザートまで付き合いますよ」

「あ!!」


 ヴィクトリア先生は「あちゃ~」と首を傾げる。


「忘れてた。あなたは今日帰った方がいいわ」

「なんですか急に」

「事情は言えない。でも、すぐ帰って、もう寝た方がいいわ。明日は体力使うから」


 ヴィクトリア先生はウィンクする。


「ここは言うことを聞いときなさい」

「はぁ……わかりました」


 何か明日あるってことかな。抜き打ちテストとか? ……全然ありうる。

 そういや明日は休日なのに謎に授業があるんだよな。これは何かしら起きるな。


「またね」

「はい。コーヒーゼリーはまた後日誘ってください」

「ええ。絶対誘うわ」


 俺はヴィクトリア先生と別れ、家へと帰った。

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